(五)

 私に先んじた輩共は『魔王』というロックバンドらしい。梨沙が東京土産に持って来た、インディーズバンドを紹介する冊子に載っていた。極彩色が目に痛かったのに、梨沙は「綺麗でしょ」とにこにこ笑っていた。

こんな辺鄙な土地で手に入る情報は限られている。ネットに頼っても見つからなかったことに苛立ちを覚えつつ、しょうがないので梨沙を頼ると、情報雑誌やら自主制作CDやらを段ボールに詰め込み、送ってくれた。送料も馬鹿にならないし、流石に悪いと思ったが、「亜紀(あき)ちゃんにはいつもお世話になってるから」とのことだった。いつか絶対に返すという約束を取りつけておいた。借りだなんていうしこりを作っておくわけにはいかないのだ。

 CDケースを開けると、二つ折りになったぺらぺらの紙が四枚入っていた。雑過ぎる歌詞カードを見れば、見事に私が探していた歌が収録されていた。プレーヤーにかける。全四曲、なかなかいい曲だなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る