第14話 ずっと猫のターン

『美しすぎる…。ああ麗しのアレクサンドラ、汝の瞳は星よりも輝き、その舞は虹を創るようだ。汝の生命力のほとばしりは泉より湧き出る水よりも潤沢に全ての生き物を癒すだろう。我が神域で時を歩む栄誉をやろう』


「まさかの一目惚れオチ。伝説の生き物が。」

「トカゲビビってるんだけど。俺の腹の下から出てこないぞ。」

「そりゃ初対面で求愛されても困るよねー。」


「神話の古きより生きるツバサヘビよ。うちの子はいきなり求愛するような軽い愛は嫌だと言っています。」

「言ってないよな」


『我が恵みを享受する誉を断るか。慎みは美徳だが汝の舞は神に捧げるに相応しい。誇るがよい。その奥ゆかしさも愛そう。』


「この子はスパダリ溺愛よりスローライフじれ恋派です。」

「言ってないって」


『さあアレクサンドラ、我と共に歩むことを許そうぞ』


ツバサヘビはゆきちゃんのお腹の下で固まっているあっくんを促すように尾を差し出した。あっくんは蛇に睨まれたトカゲのように動けない。


バシッ!


みーちゃんがツバサヘビの尾をはたき落とした。

「嫌がってるでしょ!身分を笠に着て迫るなんて最低だよ!」


(え。猫、神話生物叩いた!)

(彼女異世界人だからしがらみないんだよ)

僕らはヒソヒソと話す。


「口説く時はね、ちゃんと好きです、付き合って下さいって言うの!高飛車な人は嫌われるよ!どんなに身分が高くても力が強くても、誠意がない人はダメなの!」

「あっくんも嫌なら嫌って言っていいんだよ!親の身分なんか子供に関係ないんだから!子供育ててもいいなって相手じゃなかったらお断り!」


(ああ、猫って女性に選択権があるから選ぶ側目線あるよね。)

(俺も食べ散らかしてたら、どんなに強くてカッコよくても汚い人はモテないよ!って怒られました…。)


「やり直し!好きなものとか手土産持って出直して!そんな誠意のないプロポーズなんか許されないんだから。そもそもあなたの名前を呼ぶ権利を下さいからやり直し!」

「あ、ちょっとこのヘビ返してくるから。留守番お願いね。」

「はい、いってらっしゃい。」


うわー。神話生物の首根っこ掴んで行っちゃった。

ツバサヘビもぐうの音も出ないで大人しく返品されちゃった。


「猫って、怒ると怖い…。」

「うん、違う生き物なのを実感したよ…。」


「ところでさ、トカゲってアレクサンドラなの?」

「わかんない。僕、あっくんはオスだと思ってた。」

「トカゲの性別とか普通知らないって。」


「この恋って応援していいのかな?恋で合ってるのかな。」

「とりあえず猫に任せて風呂でも入ってこよ」

「僕は寝るよ。色々急展開で気力がない。」

「じゃあ俺がトカゲ風呂に入れとく。入れないと猫怒りそうだし。」

「うん、よろしく。おやすみなさい。」

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