第8話 僕のいない日常

「猫ー。狩り行こうぜー。」

「りょうかーい。今日何にする?そろそろ山鳥の卵が取りごろかも。」

「あのでっかいやつか。親怖いけど卵はギュッと魔力詰まっててて美味しいよな」

「うん、うちらは中身しか食べないけど、そっちは殻好きだよね」

「わかってんじゃん。じゃーそれにするか。」


「僕も連れてって!」

「悪いけど、今回の獲物はちょっと危ないから邪魔だ。」

「いや!あの大きい山鳥でしょ?みーちゃんは掴まれたら危ないし、ゆきちゃんの魔法攻撃も届かないと思うけど、僕の吸引魔法通るから、僕を囮にして掴ませればいけるよ!」

「え?何それ?」


「僕らって環境の魔素使うから、魔素が流れやすいでしょ。あの鳥は掴んだ時に魔素流してくるから、それをそのまま全部引っ張ってやると気絶するんだよ。」

「あ、それでアイツに蹴られるとビリビリするんだ。」

「あーそれでネッター噛むと力が抜ける感じがするのか。」

「え?」


辺境の森の廃墟、もとい雷の塔引きこもって半年。

狩猟種達はしょっちゅう狩りに出かけてます。

僕?基本お留守番だよ…。戦闘力ないもん。


ゆきちゃんがナワバリにしたことで少し上位種が減ったらしく、辺境の街の害獣被害が減ってきたそうです。その件で辺境ラボの名前でレポート出しました。あちこちから喜ばれました。


「ユキグモが生態系の安定に与える影響について」


報奨金で辺境の城スイーツと魔力飴をお土産に買ったら、ゆきちゃんが頭に降ってきて押し倒され、みーちゃんに懐を漁られました。

その後2人に盛大に感謝されました。

君たち、言ってることとやってることがあってないよ。


元職場は翻訳魔法にかかりきりで、臨時国家プロジェクトになっててんやわんやだそうです。何でも一部の難聴の治療に音域調整が効く可能性が出てきて医療調査班までできたとか…。

「こんな大変な中で君のような生態研究のプロをこちらに貸してくれて、研究続けてくれて本当に感謝しているよ」

「いえいえ。(真実なんか絶対に言えない…)」

みたいなやりとりがあって、辺境ラボは好意的で、色々融通してもらってます。


僕がいなくても回るんだなぁ、と寂しい反面、もう無理だったんだ、今まで頑張ったご褒美に神様がミラクルをくれたんだ、と前向きに考えようと努力して、

「お風呂だよー!」とみーちゃんに呼ばれて、

「いや僕ら浄化魔法あるから。物理汚れ毎日落とさなくても平気だよ。」

「何言ってるんですか。入ってないのあなただけですよね。匂いでわかります。」

「えっ?臭い?うそ何で?」

「そうじゃなくて、みんなソープの香り毎日更新されてましたから」


「ぐだぐだ言ってないでとっとと入りに行くぞ、気持ちいいだろ」とゆきちゃんにも言われ、

「ゆきちゃんが一緒に入ってくれるなら」

「ふざけるな俺は猫と入る。アイツの方が洗うの上手い。」

「まあまあ、たまにはネッターさんも諦めて洗われましょ?じっとしてればすぐ終わりますよ。天井のシミでも数えてろって言うんでしたっけ?優しくしますから。」

「違うから!言葉間違ってるよ!」

「言葉の通じない変態が言うな。たまには俺がシテやろうか」

「! 何でもシテ下さい。うっかり腕の1本や2本千切れたって平気だよ!」

「引くわー。」

「やっぱしなくてもいいです。お風呂に浮いているだけで満足するから一緒に!」

「さっさと風呂入れ。手間かけんな。」

「…はい」


思い描いていた未来とは違うけど、これはこれで幸せなハーレムなのかも。

しばらくはこの幸せを満喫していよう。


第一章 完





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