第3話 みーちゃんと秘密の塔

みーちゃんは森の端っこで行き倒れているところを保護された。

いや、保護するふりをしてラボに拉致監禁しているのが実態だ。


猫と人の特徴が混ざった身体で僕の半分位の身長。

群れからはぐれた魔法生物の幼体だろうという見方が主流だった。

最初のうちは何か話すように口をパクパクさせていたけれど、声は出なかった。

その代わりふわふわの尻尾はよく動き、彼女の気持ちが表れているようだ。


世間知らずな子供を気付かずに閉じ込めておくなんて容易い。

未知への欲望を前にして、親元に帰してやりたいという良心は無力だった。


が。

もう辞めたもんね!

これ以上、治療のフリして検体採取されたり変な薬投与されて観察されたりしない!

美味しいもの食べてゆっくり休んで、そのうちお家に帰れるといいね!

そのうち。


すまない、僕にそんな力はないので、自己満足で君を逃してあげるだけだ。

君が逃げたくなるように、シャーってされても毎日モフモフしてあげるね。

知らない生き物に知らない場所に連れ去られたら怖いよねぇ。不安だよねぇ。

ちょっと人里離れて隙だらけの廃墟で野営する感じになるけどごめんねぇ。



その廃墟は辺境の森にある。

森の中でなぜかよく雷が落ちる場所があって、調査したら建物が見つかった。

蔦が絡まって廃墟の様だったが中は存外広く、使い方の分からない道具がチラホラ。

旧文明の遺跡の可能性があったが、保存状態もよく、研究を急ぐ要素はなかった。


先日フィールドワークで来たので最寄りの街からの移動ポータルが生きてるはず。

調査拠点も撤収されてないから、しばらくの間隠れ住むにはうってつけだ。



みーちゃんは意外と大人しく着いて来た。

状況が把握できるまでじっとこちらを観察する気なのかもしれない。

僕だったら耐えられないよなぁ、と思いながら調査拠点に近づいた時、

突然みーちゃんが目を見開いた。


信じられないモノを見る顔だ。

僕もそっちを見たけど、廃墟以外は特に何も変わったところはない。

と思っているうちに、みーちゃんが廃墟に走って行った。

危ない、と言う間もなく廃墟に飛び込んだ。


「どうしたの?」

まあ言葉は通じないのだけど、刺激しない様にゆっくり近づいて、優しく話す。

みーちゃんは興奮して口をパクパクさせている。

尻尾もブワッとなってぴーんと立っている。


少し考えるそぶりをした後、僕を引っ張って廃墟の奥のドアを押した。

そのドアの先は小さな小部屋があるだけで、謎の行き止まりになっている。

寝室よりも小さな四角い部屋。調査隊もこの部屋が何の部屋かは分からなかった。

それでもみーちゃんには確信があるらしかった。


2人で小部屋に入る。

みーちゃんが壁をぺたぺた触る。

と、ドアがいきなり閉じた。


「え?」

床が、急に動いた。

「ええ??」

地震かと思う不思議な揺れの後、後ろの壁がドアの様に開いた。

「えええぇ〜っ!?」

入って来た時と違う部屋が広がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る