終わらない選択を放棄していたら
明鏡止水
第1話
あるところに、何一つ自分では真っ白になって決められない子がいました。
ボール遊びにする?
それともお絵描きにする?
言われた子は考えることもできずに動揺します。
どちらを選べば……。
結局、その子はどちらもできずに、周りの子がそれぞれのしたいことを見学して過ごしました。
見学。
見て学ぶことなど、何もなかったというのに。
みすぼらしい心でした。
小学生になってその子はクラブ活動をしなければなりませんでした。
誰かが卓球部がいいんじゃない?! と言っていたので。
卓球部を選べば、自分はたった一人になることだけは避けられるだろう、と。
卓球もクラブ活動もよくわからずに、入部届に卓球部と書きました。
そのクラスで、結局卓球部に入ったのは、その子だけでした。
あとの人気なクラブは抽選ですが、みんな入りたいクラブに入れたようです。
その子は苦しみました。
誰か一人くらい、知っている子が入って楽しめると思ったのに、一年、よくルールも知らずに男子ばかりの部で初めてのクラブ活動を耐えねばなりませんでした。
運動は好きだけど、卓球は嫌いになりそう。
やがて、高学年になったその子は転校しなければならなければなりませんでした。兄弟が障害者で、支援の多い県へ移ることになったのです。
地獄でした。髪型や服装、言葉遣い、すべてでいじめられました。物も無くなりました。
自分より酷い目に遭っていた下級生が、自殺をすると、心を痛めた農家から作物が届き、どうかこの事態を心に留めよう、考えよう、悼んでいこうというメッセージ性を感じさせました。
しかし、心無い生徒はその贈り物を学校の門柱に置いて去っていきます。
やがて、いじめがおとなしくなってきました。
いじめは生き物です。地の中をいくミミズのように進んで、生ごみを食べて、土を排泄します。
それらはやっと栄養となり、泥だらけのミミズの住む、良い土となりました。
学校を卒業する頃、改築が始まりました。すると、校庭から昔の土器が出土してしまったのです。工事は歴史的な出土品を発掘するため中断。
中途半端な工事現場で、何も選び取れない、選んでも自分の本心を満足させるに至らないその子は中学校を卒業し、高校生になりました。
高校は地元で一番頭の良い人たちが通う所に受かりました。卒業できれば人生に箔がつく。
そう。箔。
もはや自分で選んでも幸せになれないなら、周りが憧れている場所とその噂の裏付けを取り、友達の出方や全ての人の憧れの生き方をなぞるしかない。
しかし、その子の登校は、まるで五月雨のようにいつぶりかな……、でも、出席日数は足りているし学習もしていて、あとは毎日来てくれたらいいのに。
そんな登校の仕方でした。
というのも、自分にやたらとくっついてくる女友達がいて、そもそも、その子の事を友達ともおもっていなかったのです。
移動教室もこっちが遠くのトイレで予鈴が鳴るまで隠れてるのに、ドアの外で待ち構えて気持ち悪い。何がなんでも一緒にいようとします。
体育の時はチームを組むのに誘われるのを待っている。休み時間は自分が好きだと言った漫画をわざわざ学校に持ってきて一緒に見ようという。
ウザイ。
ベタベタしてくるから、登校減らそう。
その時。やっと。選び取れなかった今までの自分に、やんわりと未来のビジョンが聳え立ちました。とてもぼんやりとしていたので、そびえたつ、が本当に合うのです。
大学、は多分行ける。地元の「動物園」みたいな学校って言われてるところは避けたいけど学費が安いなら行かなくちゃ。
でも、成績に応じて決めた方がいい。その方が勿体無くなくない。
だったら、成績は良い方が良い。
ベタベタする奴から離れよう。
まずは家でも勉強を頑張らなくちゃ。
それから、お姉ちゃんは東京で働きたいからって「上京」した。
たいていの女の子は東京行きたがるよね。
私も「いつか東京行く組」にしよう。港区女子とか怖そうだなあ。怖くはないか。「高そう」って感じ。
漠然とした思いでいいんだ。
勉強しよう。
そこから。
人生は開けてく。
お金はどうなんだろう。
お姉ちゃんはアパレル関係だし、専門学校だったから。
大学と専門学校だとどっちがお金かかるの?
私立は高くて国公立は安い、とか聞くけど。
お金がかかっている私立だからこそ学びが充実しているところもあるって聞いたことがある……。
情報達が、やっと活きていた。
そんなふうに、生きられたらよかったのに。
今。かつていじめられて、しかし、反対にいじめっ子になり、好き放題で、他人を傷つけてきた彼女は老後に思う。
……癌か。
ステージ4。
私が何をしたっていうの。
やがて、同窓会の招待状が届いた。
行くことは出来ない。
結婚も出産もしたし、子供も独り立ちしたので心配事はない。
ただ、
「私の人生、なんだったんだろ」
終わらない選択を放棄していたら 明鏡止水 @miuraharuma30
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます