第6話 家族になりたい

――――――翌朝。


眩しさで目が覚めた。体が痛い。

痛みをおして体を起こすと病院らしきところにいた。そして横を見ると真里亜。


僕は真里亜の頭を撫でた。

すると直ぐに真里亜が目を覚ました。


真里亜はずっと立ち上がって僕を抱き寄せた。


「責めたりはしない。けどしないでほしかった。なんかあるなら話して欲しかった。一歩間違ったら麗美と同じことになってたよ。」


「……何がわかる。」


僕は初めて逆らった。


「わかんないから話して欲しいの。」


僕はずっとこのもやもやを抱えてきた。

でも真里亜にも翔にも申し訳なくて、多分最後に言ったのは小学生の時。


でも今はまたその時と感情が違う。

本当にめんどくさい。


「ねぇ、まりや」

「うん?」

「どうせ俺は真里亜にとって子供でしょ?翔と一緒でしょ?だから俺以外の男がいいんでしょ?」


僕が手話で責め立てると、真里亜は僕に口付けた。


「私はあんたを愛してる。翔とはまた違う。なんで伝わらない?」

「……。」

「何。何が言いたいの?」


僕は真里亜を睨みつけた。


「私はあんたが好き。ちゃんと男して…子供としてじゃない。」

「……じゃあ結婚してよ!俺と籍入れてよ!一生俺の人になってよ!そしたら翔と俺と真里亜で本当の家族になれる!そうでしょ?!」


真里亜はハッとした。遠い記憶が鮮明に蘇ってきた。


僕は小学生の時に何度か家を飛び出していたが、ある時大好きな真里亜が居るのにそれが起きた。


あの日、僕は祖母に


「僕は独りだ。ひとりぼっちだ!翔が恨ましい!真里亜がいる!真里亜がいてくれる!いつだって真里亜がいる!なのに僕には真里亜がいない!一緒のおうちで暮らしたいのに真里亜がいない!翔もいない!僕は真里亜と翔と一緒にいたい!」


と言って家を飛び出した。


直ぐに歩いてすぐの真里亜の家に祖母が訪ねた。


すると真里亜は真っ直ぐに公園の滑り台の下に来た。


「稜太。出といで。真里亜だよ。」


僕はすぐにでも抱きしめてほしかったが意地を張って我慢した。


「どうしたの。」

そう聞きながら真里亜が同じ場所に入ってきた。


月明かりに照らされながらぎこちなく手話で伝えた。


『僕は真里亜といたい。翔といたい。けど、おうちが違う。おうちが違うってことは他人って事なんだよね?こんなに真里亜が大好きなのに、翔が大好きなのに、僕は独りぼっち。翔だけずるいよ。ママがいる。大好きな真里亜とずっと居れる。なんで?なんで僕には真里亜が居ないの?なんで??』



そう思いをぶつけると真里亜は僕を抱きしめた。


「ごめんね…寂しかったよね。稜太あたし達のこと大好きなのにね。」

「僕は…真里亜が好き。大好き!!ずっと一緒にいたい!帰って欲しくない!!ドアから出て欲しくない!!」


「そうだね…。じゃあさ、ばぁばに言ってみんなで暮らそうか?真里亜と、稜太と、翔で。どう?」


僕は声を上げて泣いた。


真里亜は声で伝えてくれる。でも真里亜は聞こえないから一生懸命手話で伝える。間違ってても何も言わない。伝わってるから。



「真里亜!!…真里亜!!…」

「大丈夫。大丈夫だよ。ここに居るよ。」



――――――――――――。


真里亜はその記憶と共に僕を強く抱き締めた。


「本当に変わってない。」


そう心の中で囁いた。

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