第4話 引かない

僕はずっと真里亜との事で幸せだけど悩んでた。幸せだから悩んでた。多分正しくは贅沢な悩みを抱えてた。


僕は愛情の量を行為で測る癖がある。

どれだけ僕を見つめてどれだけ僕に刺激をくれてどれだけ僕を追い詰めてくれて、どれだけ僕を使ってくれるか。


真里亜のことは好き。愛してる。でもこたえてくれるからこそ求めすぎて辛かった。



――――――――――――夜中の公園。


「稜太ー」

「うん?…」

「…しない?」

「ここで?」

「どこでもいい。」

「…別にいいけど。お前入んの?」

「僕が入れたい」

「……無理。そんなでけぇの死ぬ。」

「……」


翔が微笑みながら僕を見る。

いつもの挨拶みたいな会話。

暫くぶりに会うと、翔は可愛い顔した狼みたいな奴になってた。


「なに。」

「可愛いなって。」

「うるせ。お前に言われたくない」

「僕は可愛いよ?」

「自分で言うな。」

「じゃあ可愛くない?」

「めちゃくちゃ可愛い」

「でしょ?」

「……。」

「なに?」

「耳、見せろよ」

「うん。」


素直に左の髪を耳にかけて見せる。


「最近どうなの?聞こえ方。」

「ほとんどダメ。付けてても聞こえてない。」

「じゃあ今は右頼り?」

「そう。」

「……」

「哀れんでるの?」


僕が悲しい目をして翔の頭を撫でるとそう聞いてきた。


「…違う。可愛いのとちょっと…興奮してきた。」

「変態。」

「変態だよ。真里亜もそう。お前もそう。耳に興奮する。ちゃんと付けてる時に。」

「ママはもう聞こえてないよ」

「うん。けど付けてるよな」

「『諦めたくない』って前に言ってたよ。諦めたら『奇跡』も信じられなくなるって。」

「……真里亜らしいな。」

「そういうとこ好きでしょ?」

「うん。大好き。」

「そういう素直なとこ好き。」

「…。」

「照れてんの?」

「…気のせいならごめん。なんていうか、、」

「なに?」


『凄く今…お前を…抱きしめたい…』


僕はたどたどしい手話でそう伝えた。


「ママにそれ使ってんの?」

「使うわけねーだろ。真里亜にはいちいち言わない。」

「甘えん坊だしね。稜太。」

「ママって感覚の方が強い時もあるから。」


「……」

「なに。」


『そうやって、いつまでも「親子」やってるから先に進めないんだよ。僕の事なんて気にしないで、「先」に進めばいいのに。』


「無理。」

「なんで。だってそうじゃん。」

「俺もママもお前が『邪魔』だなんて一度も思った事ない。お前がしがらみだとも思ってない。むしろ俺もお前が可愛い。ママだってそう。だから俺らは家族を壊したくなくてそうしてる。誰か一人でも悲しい思いしないように。」


「……」

「……。」


少し静寂が続いた後に翔が口を開いた。


「稜太。きついこと言っていい?」

「やだ。」

「言う。」

「聞かね」

「聞いて」

「……。」


「稜太、ママに遠慮してない?僕にも。これだけ近いはずなのにどっか稜太の中で線引いてない?」

「……知るか。」

「逃げるな。」

「黙れ。着いてくるな。」

「逃げるなって。」

「うるさい。着いてくるな。帰れ。」

「稜太!!」


僕は振り返って後ろに着いてくる翔を抱きしめた。

「それ以上言うな。いいか。」


そしてキスした。


「ずっと可愛い猫でいろ。喚くな。」

「じゃあして。」

「無理。」

「なんで。」

「しない。」

「真里亜とはするのに?僕が男だから?」

「……違う。」

「違わない!!」


もう一度口を塞いだ。


「…誤魔化さないで。」

「お前らには理解できないよ。」

「…ママでさえも?」

「そう。だから線を引く。」

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