そして幻影の二人へ、忘るることなき前日譚を。
おとも1895
第1話 二人の少年の物語
「っっっシャァ! 今日の学校終わり!」
「うるせえな、どんだけ学校に縛られてるのが嫌なんだよ! 俺も叫んでいい?!」
「近所迷惑だ、やめれ」
「先に叫んだお前がいうことじゃねぇよそれ」
ニシシ、と二人の少年が笑う。
屈託のないその笑みは、どこか年齢____高校生らしさを薄めていて。
見るものが見ればまるで惹きつけられるかのように彼らのそのやりとりを目で追うのかもしれない。
東京の街の一角。
とはいえ都市部ではなく未だに緑が保守されている人口密度の低い場所でのことだった。
先に叫んだ少年、
「いったぁ、チョップはやめれチョップは」
「残念、ただ叩いただけでした。頭にチョップとか、こっちの手が痛くなるだけだからやらねぇよ」
進があきれたように言葉を吐いて、それに見広がえぇ〜と不満げな声を漏らす。
「いいだろドMキャラ」
「お前の性癖は聞いてねぇし、知りたねぇよ?」
ブォンと、彼らの横を無駄に最先端のテレビでCMしている車が通り過ぎていくが、二人にとってはそんなものどうでもいいことだった。
こうして二人で話しているのが一番楽しいと思う瞬間だったから。
「ちなみに進はどっち派だよ」
「俺は、他人のそんな風な場所に触れるべきではないと思うのです。神様はいつでも見ていられるのですよ」
じゃぁ少しは日頃の行いを直せよな、と言われて進はあっけなく撃沈されてしまった。大袈裟に、グハァと言って胸を押さえ込んでみている。
それを哀れな目で見ながら見広は一声。
「で、どっち?」
にっこりと、有無を言わせぬ声であった。
進は悟っていた。
「あ、これ逃げきれないやつやん」と。
半ば自暴自棄に進は炎天下の中、お日様に向かって無様にも叫んだ。
「断然、俺はちょいS派です! ツンデレ要素もあったらなおよし」
「サムズアップしながらいう内容じゃねぇ……。でも、本命は?」
ここまできたら、もはや羞恥心も対抗心も何もなくなってしまった可哀想な進くんは本心を包み隠さず晒し出す羽目になってしまった。
「無邪気な女の子です! 王道ですんません!」
「女騎士しか勝たんだろ!」
「だからお前の性癖は聞いてねぇよ」
と、バカみたいな話をしているのも疲れるので、二人は一度影になっている裏路地に入ることにした。
そこで、はぁと息をついてまたニシシと笑う。
「ん、なんか連絡来てたわ」
進はそう言ってスマホの方に目を落とした。
見広からは角度的に見えなかったが、だいたい想像はつく。
それでも聞かずにはいられない。
「誰からだ?」
「ん、里奈のやつから。今週末にある祭りにでも行かないか、だってよ」
そんな見広に無警戒にもスマホの画面を差し出して、進はそう言った。
それで、画面を覗き込んだ見広はウヘェと舌を出しながら声を漏らした。
「この不在着信の数なんだよ……おかしいだろ」
「そのままの意味だよ。それでも今日は少ない方だぞ? 多い時は十数分に一回かかってくるからな。おかげで俺の携帯はいつもマナーモード」
そりゃ、切り忘れた時の絶望感が想像できないな、と見広はぼやいてまぁこっちもそんなもんかと呟き直した。
進がスマホの画面から目線を上げる。
「彩花のことか?」
「あぁそうだよ……。里奈ほどではないけどあいつも、な」
ヤンデレ気質なのかよ、と進は苦笑してそういった。
あるいは、そうでなきゃ彼女ではないと言っているような。
「むしろ、健康ですって表明されてていいんだけどな」
見広の言葉に、進は困ったような顔になった。
「……いや、里奈は自分が死にそうになって入院したときもいつものペースで電話してきた、ぞ」
むしろ怖いよ、と見広はここにはいない誰かに対して引く感覚を知った。
結局木陰に来ても騒いでいた彼らは汗まみれだった。
それがお互いに気恥ずかしくなることはなく……どこからか見広が汗拭きシートを取り出した。
「いや、どこから出した?」
「ん、制服をちょっといじっててな」
どうにも、制服をちょっといじったら何にもない場所からティッシュを生み出すようなそんなマジックができるようになるらしい。
「いや、校則的になしだろ」
「校則なんてあってないようなものだし、いまさらだろ」
それはよくない奴の考えでは、という進の考えは一旦無視しておいて。
二人が、まるで台本に沿っているかのようなタイミングで同じ方向を振り返った。
「テメェら、俺たちのアジトで何をやってんだ?」
ゾクリと、いっそ底冷えするような低い声が二人に投げかけられた。
声を発したのは肩幅が広く、大柄な男だった。
「____よ」
「あぁ?」
「だから、しらねぇよって言ってるんだ。ここの土地、買ってるわけじゃないことは知ってるんだよ」
あきれたような、あるいは煽り立てるような進の言葉にピクリと男の眉が動いた。
こめかみ辺りと、口元が不自然な痙攣を起こしている。
「テメェ、舐めんな!」
と、同時に進に向かって突き出されたのは右拳。
一発本気で叩き込めば、そこらへんの華奢な人間なんかを一発で気絶させられそうな。
そんな拳の振るわれた瞬間に響いたのは、鈍い打撃音ではない。
どちらかというと、パシンという小さな払うような音だった。
「いきなり手を出すはないだろうが、クソ野郎」
見広だった。
進を庇うようにして、見広がその拳を払いのけたのだ。
体型の違いというアドバンテージを相手が持っている状態で、その相手から見たら小柄な見広が。
「くそっ、テメェら!」
仲間を呼ぶ。
「そんなの想定済みだ」
後ろから、傍観していたその男の仲間たちが動き出す瞬間。
進の手が、具体的には進が手に持った
そうしてそれが男の仲間数人の目をそれが焼く。
そんなものどこにあった……と聞く人間はそこにはいなかったし進は答えるつもりはなかった。
「うん、
「ちょっと待ってくれ、今戦って……。っしょっと、終わったぜ」
ついでに自分のカバンの中に入っていたロープで男の手足を縄で縛った見広は進の方へ振り返って。
「あーはいはい。こいつらも捕獲ね」
同じように、数人の人間を縛り上げた。
最終的に、芋虫のような状態の男が三人。
それを、彼らはどうしようかとは考えなかった。
「もうすぐ?」
「もうすぐだろ」
そんな意味深な言葉を男たちは聞きながら。
そうしていると、暗闇に大きな影がさした。
男の顔がパァと明るくなってそれに対応するように、嬉々した声が……。
「何してんだ?」
ドスの効いた声にかき消された。
二人は、振り返っていう。
「おう、
大柄な男よりも、さらに大柄な。
そんな男、響はここに住み着いている集団のボスみたいなものだった。
それに少年が親しげに話しかけたので、男はお目目をぱちぱちと高速で閉じたり開いてりしていた。
「それはお前らが挑発したからだろ……。まぁ、こいつらに教育が必要なのも確かだが……」
「だろ?」
俺たちは何も悪くないからな、と見広の言葉に被せるように進がいって、もう分かったからさっさと家に帰れ、と響は諦めたようにそういった。
「「了解りょーかい」」
ため息が一つ。
そんなため息をつかれた側の二人は、そんなこと気にすることもなくまた雑談に興じて遠ざかっていくようで。
まるでそれは、今日のようなことは気に留めるまでもないことだ、と言っているようなもので。
何か得体の知れないものを見たような気になったのはいったい誰だったか。
「……ボス。あいつら、いったい____」
「なんでもないだたの高校生に決まってんだろ。ただ少しだけ、裏路地の事象に詳しいだけのな」
身震いして響がそう言ったのを二人は知る由もなかった。
「これでも治安がいい国なんだぜ?」
「じゃぁなんで
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時系列的には、中三頃ですね。
高校生って言ってるのは響の勘違いです。
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