第37話 環境保護団体の無謀な行動
大使館で待機中のリサだったが、とんでもない行動に出た。
個人のアカウントで、アラビア海の白ゴジ親子と注釈をつけて画像を公開したのだ。
しかも、自分にはこの親子を殺すことなんてできないとコメントまで出してある。
回文本部からこの画像に関して問い合わせが入り、現在確認中だがおそらくケルトの隊員によるものだと思うと回答をした。
ジョンも大慌てで確認をとっていたのだが、リサはあっさりと認めたらしい。
これで、リサは軍規違反となり、本国から調査チームが派遣され取り調べが行われるらしい。
ジョンはリサの監視役としてサウリにとどまっており、実質ケルトの隊員はジョージだけになってしまった。
「それで、ケルトはどう始末つけてくれるのかな?」
「やめてください。今ジョージを責めても回答できる立場にないことは分かっているでしょう。これからどうするかは、3国で話し合って結論をだしてくれるでしょう。」
「ボス、そうは言ってもリサの投稿で白ゴジを擁護する書き込みが増えているんですよ。中にはアラビア海で討伐を妨害しようなんて意見も出ているんですよ。」
「それは困りますね。邪魔ができるとは考えづらいですけど、小型の船だと襲われる可能性が高いですからね。白ゴジがまた人間の味を覚えてしまったら、沿岸の国がパニックに陥ってしまいますよ。」
「アラビア海はリゾートも多いですからね。早く解決してあげないとヨットやクルーザーなどは沖に出られないみたいですよ。」
親子連れが出現してから1週間異常は見られなかった。
10日目になり、マダガスカル島近海で子供と見られる白い生物の目撃情報が出てきた。
子供といっても、15mほどのサイズであり、クジラの可能性もあったが、全身白ということもあり白ゴジと判断されている。
マダガスカルまでを巡回エリアにすると沿岸沿いを一周すると10000mになる。
そのため、目撃エリアを中心に巡回せざるを得ない。
俺は高度50mで時速100kmで巡回を指示した。
「ボス、あのゴムボートですが、環境保護団体グリングリーンのものです。」
「あんなゴムボートで何をするつもりなんだ……。」
「我々の邪魔をしようというのが見え見えですよ。」
「だが、放置もできないでしょう。」
マンボウをゴムボートに近づけて、船外スピーカーで警告を与えたが、船上の5人は薄ら笑いを浮かべて手をふっていた。
本人たちの意思でここにいる以上、俺たちにできることはない。
マンボウは巡視行動に戻った。
「ボス、あいつらライブ配信をしています。」
「シア、そのままモニターを続けて、何か変化があったら教えてください。」
「了解!」
シアとは、ゲルマンのアレクシア・キルハイマーの愛称だ。
ちなみに、全員を呼び捨てにしているのは本人たちから要望されたからだ。
相変わらず最年少17才の俺だが、このチームの隊長として受け入れてくれている。
「隊長!前方に航跡が見えます。」
大和のメンバーは隊長と呼んでくれる。
なんか、ボスと呼ばれるのは悪役みたいで好きじゃないかも……。
航跡の先頭にいたのは白ゴジの子供だった。
「シールド更新!」
「シールド更新しました。」
普通に泳いでいる状態で白ゴジが口をあけることはない。
この状態を打開するには、30m四方位を凍結させるしかない。
どうするか……。
迷っていたところに次の情報が入った。
「グリングリーンが白ゴジを発見したようです。」
「くそっ!こっちの奴は凍結する。速度をあわせて後方につけてください。」
「了解!」
桜にサポートしてもらって白ゴジの周辺事海を凍結させる。
「グリングリーンの方は?」
「白ゴジと30mくらいの距離をとって並走しているようです。」
「その姿を中継するって、頭おかしいんじゃねえか。」
「あっ、白ゴジがボートに近づいてきているみたいです!」
「くっ、高度50mで先ほどグリングリーンに遭遇したポイントまで全力で!」
「ボートの方はどうですか?」
「時速30kmで逃げているようです。白ゴジも同じスピードみたいですが、グリングリーンの方は船外機の馬力が30馬力で、今が最高速度みたいです。」
「間に合うか……。」
「ボートが急に方向を変えました!……進行方向にもう一匹現れたと言っています!」
「多分あれですね!」
「ボートに衝撃!追いつかれたようです!」
「副官、射手に入ってください。副官は進行方向右側の白ゴジを!ゲッツは左側をお願いします。」
「了解!」
「総舵手、高度10m、時速50kmまで減速!」
「高度10m、速度50km設定完了!」
「射手は照準でき次第魔法発動を許可!」
「「射手了解!」」
「ライブ画像消失!最後は白ゴジの顔と開いた口のアップ!」
「ファイヤ!右側の白ゴジ破壊!2撃目発動!」
「左の白ゴジ潜行!」
「射手は態勢維持。残りは生存者を確認!」
「正面ゴムボート残骸に1名!他は見当たりません!」
「総舵手、生存者の上空3mに移動。俺が救助に出ます。」
「隊長、無謀です!救命ロープで!」
「動ける状態ではなさそうだ。出入口開放!白ゴジが現れたら速やかに上昇するように。」
「了解!」
俺は桜のサポートを受けながら生存者の元にフライトで移動し、レビテーションで生存者を浮かせた。
「隊長!下!」
俺も気づいていた。
桜が咄嗟に10m上昇してくれた。
サメの映画のような感覚で足下に迫る口を見ていた。
その口が赤く光り、爆散していく。
「ジン君!大丈夫!」
サヤカが片づけてくれたようだ。
俺は大丈夫だったが、生存者は血まみれになっていた。
「副官は周辺の国に被害者の受け入れを打診して搬送してくれ。俺は死骸をサウリに届ける。」
「了解!」
俺はもう一度車外に出て、フライトで白ゴジの死骸2体分を凍結して浮かせ、サウリに向かって飛んだ。
サウリまで3500km。
最大速度で飛んでも3.5時間かかった。
氷漬けで放置した1体も気になったが、今はこっちが先だ。
移動中に海軍本部へ連絡を入れる。
グリングリーンのライブ中継はそれなりに話題になっており、本部から情報提供をしてもらうことになった。
グリングリーンのスタッフは4人いたはずだ。
3人は犠牲になったのだろう。
こっちの動画も、うまく加工して使ってくれるはずである。
サウリに着いた頃には暗くなっていた。
マンボウも救助者をソバリアの病院に届けてサウリに向かっているという。
サウリに着いたら、そのまま休憩するように指示を出して、俺はまた海を飛んだ。
凍結放置した個体が気になったのだ。
夜のアラビア海は真っ暗だ。
場所については桜が記憶しているので問題はない。
果たして、7時間前に凍らせた白ゴジはそのままだった。
そのままレビテーションで浮かせてサウリに向けて運んでいく。
途中で連絡が入り、ロバイに運ぶことになったが、大した違いはない。
この個体は、初の全身標本である。
問題は、完全に死んでいるか確認ができていないことだ。
ロバイに着いたのは早朝だった。
「凍結はしてありますけど、死んでいるかどうかは確認していませんよ。」
「大丈夫だ、我が国にも優れた魔法士はいる。こんな貴重なサンプルを他の国に任せるわけにはいかんさ。」
心配はあるが、この先は任せるしかできなかった。
【あとがき】
なんか、不安しかないですよね。
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