第四章
第36話 白ゴジにだって生きる権利がある!
魔導挺1号については、システム微調整と内装・外装を整えて大和で運用することになっている。
2号、3号に備えて、ケルトとゲルマンの搭乗者育成の訓練を行う。そのため、両国から3名の訓練生を受け入れている。
ケルトからはジョン・ジョージ・リサの3人で、ゲルマンからはゲッツ・カミル・アレクシアの3名。
ケルトのリーダーであるジョン・アダムスは190㎝の赤短髪マッチョでグレーの瞳、イケメンだが切れ長の厳しい目つきをしている。
メンバーのジョージ・コールマンは金髪ロン毛で172cmの穏やかな好青年。
女性メンバーのリサ・ニュートンは茶髪ベリーショートの碧眼娘で、いたずら小僧のような愛嬌のあるソバカス笑顔が人気だ。
ゲルマンのリーダーは、ゲッツ・ツァイスという名前の研究者タイプの魔導士で、少し暗いイメージの黒髪ロン毛の眼鏡青年だ。
メンバーのカミル・カミラは少し軽薄なイメージのある青年で、金の短髪イケメンである。
そして女性メンバーのアレクシア・キルハイマーは唯一の民間人で、俺と同じ17才の青髪ロングだった。
スレンダーで凹凸の少ない体形で口数の少ない女子だった。
「高梨さん、目的地大和海軍本部。高度10000m。速度1000km。自動操縦でセットしてください。」
「目的地、大和海軍本部。高度10000m、速度時速1000kmでセット完了。」
「1号艇マンボウ発進!」
マンボウというのは、開発チームが呼んでいた愛称だ。
それがいつの間にか定着してしまった。
マンボウは大和に到着後、大規模な改修が行われた。
レーダーや通信機器類が追加され、監視衛星とのリンクが可能となり、それらを操作する要員が追加で配置された。
そして、トライスター社の協力もあって、それらを統括制御するシステムが構築された。
この新システムは俺しか制御できず、クルーに知らされてもいない。
全てが換装された後で、俺たちの訓練は毎日実施された。
担当は日替わりでローテーションし、全員がどのポジションになっても対応できるようにしていった。
うちの災害対策チームのメンバーも週単位で入れ替えて慣れてもらう。
「ジン君。アラビア海で白ゴジが出現した。至急現地に向かってくれ。」
「了解。マンボウは全速でアラビア海に向かいます。」
アラビア海まで、約8000kmの距離なので、音速以下で飛んでも8時間必要とする。
「今回の出現場所は、オマーソのマシーン島30km沖合になります。貨物船が白い生物に乗り上げて座礁。舵と推進機の破損だけで人的損害はゼロと報告が入っています。」
「それって、討伐する必要はあるんですか?」
「ジョンさんの疑問はもっともだと思います。白ゴジを生物として考えた場合、絶滅まで追い込んでいいのかという問題ですよね。」
「それっておかしいでしょ。実際に海に出ている漁師や沿岸の住民にとっては脅威以外感じませんよ。」
「いやいや、リサちゃん。その理屈だと、人に害をなす動物は絶滅させてもいいってことになるよね。特定の生物が絶滅してしまうと、生態系のバランスが崩れちゃう場合があるんだ。」
「残念ですが、僕たちにその選択肢は与えられていません。僕たちは指示に従うしかないんですよ。」
厳密にいえば、指示を受けるかどうかは選択することも可能だ。
だが、一人が拒否したからといって、別のスタッフに指示が回るだけなのだ。
白ゴジを討伐しない選択肢など、はたしてあるのだろうか。
アラビア海に着いた俺たちは、そのまま巡視にまわる。
高度30m、時速50kmをキープして沿岸沿いを時計回りで移動していく。
食料や飲料水は十分に積んであるため、その気になれば10日くらいは継続して行動することができる。
「ボス、2時の方向に巨大生物らしい水しぶきがあがっています。」
「白ゴジですか?」
「それが……。」
近づいてみると、確かにザトウクジラのような生物が白ゴジに捕食されている。
「子連れ?」
「そうみたいですね。」
「大きさも半分くらいで、3頭……いや、4頭いるのか。」
「シールド更新!」
「シールド更新しました。」
「射手は親を狙ってください。」
「了解!」
「他のメンバーは子供を狙ってください。照準できたら即時攻撃を許可します。」
「「「了解!」」」
「待ってください!子供まで殺すつもりなんですか!」
「討伐の依頼が出ているんです。」
「大和はそんな残酷なことをするんですか!」
「白ゴジ、潜行していきます。」
潜られたら照準のつけようがない。
少しの間追跡を続けたが、やがて白ゴジは見えなくなった。
「ションさん、任務を放棄するメンバーは不要です。対処方法はお任せします。」
「しかし……、彼女の言い分も理解できる。幼体の駆除は指示されていないだろう。」
「そうです!親子連れを殺すなんて聞いていません!」
「ケルトでは、数百人の人間が喰われたことを知らないんだろう。」
「知らないわけないだろ!だが、白ゴジだって生きているんだぞ!」
「だったら、ケルトの周囲に誘導してケルトの責任で飼育してもらえばいい。」
「ザトウクジラだって、それほど多いわけじゃないでしょ。白ゴジが増えたらどうするつもりなの?」
「本国と連絡をとって調整してください。少なくとも、任務に支障をきたすようなら、マンボウから降りてもらいます。」
「なぜ大和は、白ゴジとの共生の道を考えないんですか!」
「それは、目の前で人が捕食されるのを見ているからでしょうね。」
「そんなのこれまでにもいたじゃないですか。ライオン、クマ、トラ。人間にとっては同じ脅威ですよ。」
「そういう猛獣だって、人間の生活圏にいるものは駆逐されてきただろう。白ゴジも同じことだ。」
「海は人間の生活圏じゃないでしょ!」
「いや、今海産資源を失ったら、人間が食料不足に陥ってしまいますよ。」
「そんなの、人間のエゴじゃないですか!」
リサを説得することはできそうになかった。
「本国に連絡をとったのですが、国でも意見が分かれたようです。とりあえず、リサはサウリの大使館で待機させることになりました。」
「そうですか。それで、白ゴジ保護派の具体的なアイデアは出ているんですか?」
「はぁ?」
「白ゴジを保護しようというのですから、何かしらアイデアがないと検討すらできませんよね?」
「そうですね。ケルト国内でいったら、ネス湖に連れて行って毎日インド象を一頭与えるとかいいんじゃないですか?」
「関係のないゲルマンが口を挟まないでください。」
「白ゴジを保護しようというのだから、少なくともその程度のアイデアは出てるだろうってことですよ。これまでもケルトは環境保護を前面に出しているけれど、理想論ばかりで実現性のない主張ばかりじゃないか。」
「そうですね。白ゴジを倒す意思が決まっていないのなら、なんでマンボウの共同開発に名乗りをあげたんだって思っちゃいますよ。」
「シア!そういう言い方はないでしょ。白ゴジを討伐する力を得て、初めて議論できる問題なんだから。」
「いやいや、もう一方の開発チームである、シン国やアメリアは実害のあった国だよ。当事者意識がないから、今頃になってそんな議論が起こってるんだよ。」
「そうそう。ケルトの沿岸に白ゴジが現れたら、そんな悠長なこと言ってられないだろう。」
リサとジョンに対する風当たりは強い。
今回は攻撃するタイミングがなかったが、意図的に見逃して、あとから人的被害が出たら、誰が責任をとるというのだろう。
具体的な対策もないままに、見逃せるはずがないのだ。
白ゴジは、いつ陸の人間に目をつけるかわからないのだから。
【あとがき】
白ゴジを生物としてとらえた場合、多分擁護派は出現するだろうな……という章です。
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