第35話 これって、魔道具なんですか?
「大和政府はこの件に関して沈黙していますが、どのように考えていると思いますか?」
「沈黙ではなく、具体的な申し入れがあったわけではないので、現時点では答えることはできないと言っているだけですよね。
僕は、大統領の会見に同席していたから個人的な意見を述べただけで、基本的には大和と同意見です。」
「今現在、魔法の開発でも、魔道具の舞初でも、大和は世界の最先端をいっているわけですが、何か特殊な薬をつかっいるとか、頭に機械を埋め込んでいるんじゃないかという噂が出回っていますが、実施はどうなんですか?」
「うーん、俺の右腕は義手なので、ナビが組み込まれています。だから、機械を埋め込まれていると言われればそうかもしれませんね。」
「そのナビに特殊な機能が組み込まれているのではないですか?」
「まあ、魔法の簡易発動プロセスを公表した時に発表された、オブロン社の視覚同調や視線入力は組み込まれていますね。それに、俺が開発に携わってきたツールやノウハウも入っていますから、市販されているナビとは比較になえあない機能は備えいますよ。」
「わが社の掴んでいる情報では、それを使えば誰でもスーパーマンになって、白ゴジの討伐が可能となるのだろう。なぜ、大和政府はそれを秘匿しているのだ!」
「秘匿しているわけじゃないでしょう。動画を公開しているわけだし、魔法の有効な部分を5000度で過熱してやれば焼くことができるって情報も公開しているんだから。」
「だったら何故、アメリアの軍隊は白ゴジを討伐できなかったんだ!他に隠していることがあるんだろう!」
「そりゃあ、自分たちで開発したり解明したこと全ては公開してないですよ。利権や著作権の問題もありますけど、そこはどの国も同じでしょ。」
「ふざけるな!そのせいで何百人もの兵士が犠牲になり、何億という人間が脅威に晒されているんだぞ!」
「全てを公開して白ゴジの脅威は無くなるかもしれない。だが、その分、危険な思想を持つ国や個人が過分な力を持ってしまうかもしれない。その方が怖くないですか?」
「そんなのは詭弁だ!」
「いやいや、力を持ってしまったら、使ってみたくなりますよね。核の時みたいに。」
「なにぃ!」
「アメリアは使ったじゃないですか、核を。」
「それとこれとは話が違う!」
「違いませんよ。それどころか、強力な魔法の方が手軽に使えるだけ質が悪い。」
「あっ、記者さんの出版社って、私の写真集を出版したところですよね。許可した覚えはありませんけど。」
「うっ……。あ、あれは公開された画像を使っているので、問題はないと……聞いている。」
「へえ、この国には、肖像権とか個人情報に関する法律ってないんですので。驚きましたわ!」
結局、アメリア政府はこの件に関する発言はなく、俺の報酬も新規開設したアメリアの銀行口座に振り込まれたので、俺たちはまた16時間かけてアラビア海に戻った。
そして俺たちとタイミングをあわせて高田竜馬さんと高梨雷蔵さんが派遣されてきた。
二人ともSSクラスのメンバーで、白ゴジを倒せるだけの実力があると思われている。
「隊長、白ゴジが出たら、俺たちにやらせてもらえませんか。」
「そうですね。複数の個体が出現する可能性もありますから、皆で実戦経験を積みましょう。」
経験のある俺とサヤカは別れ、二人一組のペアとなって船での巡回と本部待機に別れることにした。
ネットワークを使って、常時解放の音声会議で情報交換をしつつ、白ゴジの出現に備える。
そんな中、サクラさんからメッセージが入った。
AIのバージョンアップ用のファイルを送ったので桜に実行させるとの事だった。
俺が本部待機の時にそれが実行されたのだが特に違いは感じられなかった。
そして数日後、バージョンアップに伴うパーツが届いた。
襟につけるタイプのボタン型スピーカーだった。
『これで、外国語をすべて翻訳して、スピーカーから出力することができます。』
「それって?」
『通訳を介さないで会話することが可能になりました。』
「へえ、便利になったんだ。」
1か月の間パトロールを続けたが白ゴジは現れなかった。
実害も出ていなかったことから、大和政府は一旦帰還する決定をした。
その帰りに、ヨーロッパで共同開発中の魔道具を確認するよう指示がきた。
「共同開発中の魔道具なんてあったのね。」
「うん。戦略チームから有川さん、支援チームから塚田さんが派遣されているんだ。それと三ツ星が参加してる。」
「どこの国が参加してるの?」
「ケルト共和国とゲルマン連邦だね。」
「何を作っているの?」
「白ゴジ対策用の魔道具だよ。これが実用化できれば、俺たちの負担は相当減るはずなんだ。こことは別に、アメリアとシンと大和でも開発が進んでいるはずだよ。」
俺たちは中東からゲルマン連邦のブレーメンまでサウリの輸送機で運んでもらった。
空港には支援チームの塚田さんが迎えに来てくれていた。
塚田さんは32才になる支援チームのリーダーだ。
短髪のマッチョマンで、空手の有段者だと聞いている。
「隊長、お疲れ様。」
「進捗はどうですか?」
「基本的なシステムは三ツ星が作ってくれたので、こっちでボディーに組み込んで動作確認できるレベルまで終わってるよ。」
「すごい。もうそこまでいってるんですか。」
「できれば、少し休んでから試運転してくれるとありがたいんだけどな。」
「当然ですよ。せっかく対策チームのエース級が揃っているんですからね。」
開発チームの拠点は、ゲルマン連邦のブレーメン海軍基地の中にあった。
「こちらが、試作魔導挺1号です。」
「えっ、このバスが魔道具なんですか。」
「そうだよサヤカちゃん。」
「魔道具って聞いてたから、武器みたいなものだと思っていました。」
「ウフフッ。これまでの魔道具とは一味違いましてよ。」
「えっ?」
「ああ、こちらはケルトのリズ。システム部門のチーフだよ。」
「はじめまして。大和防衛軍災害支援特別部隊長のジン・シンドウです。」
「ケルトのマギシステム社から派遣されてきましたエリザベス・マイヤールです。」
「これって、ベースは2階建てバスなんですか?」
「ええ。タイヤはついていますが駆動機関はありません。航空機のタイヤと同じですわ。」
「一階部分は生活空間になっていて、仮眠用のベッドなんかと休憩スペースとトイレがあるんだ。」
「動力源は操縦者の魔力だけなんですか?」
「いや、小型核融合炉を搭載しているから、システム系は電気だよ。それに、非常用として魔石も積んであるから、万一の場合でも墜落の心配は不要だね。」
動作試験には両国から2名の魔法士と1名のエンジニアが同乗した。
合計9名がシステム制御用のゴーグル付きヘルメットを装着する。
俺は同じシステムをインストールしたのでヘルメットは不要だった。
「じゃあ、試験飛行を開始します。高梨さん、高度1mで方角150度に時速5kmで移動してください。」
「了解。高度1m、方位150度、時速5kmで移動を開始します。」
「サヤカさん、シールド展開。」
「シールド展開します。」
俺の視界には、現在の状況が全てモニターされている。
ボディーが完全に倉庫から出たことを確認し、高度100mを指示し、速度を徐々にあげていく。
海上に出たところで、時速1100kmまで加速していった。
【あとがき】
魔導挺1号発進! 次回第四章スタートです。
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