第34話 別に町を攻撃するつもりはない

「こんなの無理ですって!」

「いえいえ、とてもお似合いですよ。」


 スタイリスト達によって仕上げられたサヤカは、背中の大きくあいた白いドレスに髪をアップにした大人の女性に仕上がっていた。

 

「こんなヒールなんて履いたことないですから、転んじゃいますよ。ジン君、何とか言ってください。」

「い、いや、キレイだと思う。」

「そうじゃなくって、軍人の私がこんな恰好するのおかしいですよね。」

「もしかしてノーブラ?」

「ちゃんと貼ってあります!」

「ほらほら、メイクが崩れちゃいますよ。」


 本音をいえば、見ていたいけど、他人には見せたくない。


 15時からの大統領会見は予定通り行われた。

 俺たちは名前を呼ばれてから舞台に登場する段取りだ。

 

 俺の名前が呼ばれたとき、すごい歓声で迎えられた。

 そしてサヤカの時は、爆発のような大歓声だった。

 舞台中央で待ち受ける大統領と握手をして指定された席につく。

 やまない歓声と報道陣のフラッシュを浴び続けたあとで、大統領がそれを制した。


「我々は大和から二人の友人を迎え、そして昨日、白ゴジを倒すことに成功した。」


 再びのの大歓声とフラッシュの嵐。

 イベントホールに詰めかけた2万人の迫力はすごい。

 犠牲者への追悼とアメリアの力をアピールする大統領。


「今回の功績に感謝し、二人には名誉国民として認定したいと思う。受けてくれるかね。」

「はい、喜んで。」


 これは、大統領補佐官のウィル・マシーニさんから事前に打診されて了解してある。

 得点として非課税の恩恵があり、家ももてるらしい。


 そして、大統領は予想外のことを話し出した。


 昨夜、大和が発表したように、白ゴジはまた現れるだろう。

 しかも、太平洋だけではなく、アラビア海にも出現している以上、大西洋にも現れる可能性は十分にある。

 世界の守護者たるアメリアは、たとえ、どこの海に現れようと、人類を脅かす脅威には対抗する必要がある。


 会場から、賛同するかのように歓声が湧き上がる。

 ここで、少し間をおいて、話を続けた。


 しかし、みんな知っているように、化学兵器による効果は薄く、船の近くにいれば攻撃を受けないことを学んでしまったようだ。

 だが、そこに、この二人がやってきて、魔法ならばヤツを倒せると証明してくれた。


 ウォーッ!っと湧き上がる観衆。


 それならば、世界中から優れた魔法士を集めて、対策チームを編成すればいい。

 どうだろうか、わがアメリアが先頭に立って、そのチームを組織する。私は、そんな夢を描いているのだ。


 ウォーッ!再び湧き上がる観衆。


 おいおい、そんなの聞いてねえぞ。

 一人で、ナニ舞い上がってんの。


 質疑の時間になった。

 当然、今の対策チームについて質問がとぶ。


「大統領。今言われた対策チームは。どこまで話しが進んでいるのでしょうか。」

「まだ、私の側近にしか話していない。だが、それが必要だというのは誰もが感じていることだろう。」

「魔法士のレベルで考えると、大和の協力は不可欠だと思うのですが、そのあたりはどのようにお考えですか?」

「今回のことを見てもらえれば分かるように、急な要請にもかかわらずこの二人を派遣してくれた。アメリアと大和の関係は揺るぎないものだよ。」


 そして、俺たちにも質問が投げかけられた。


「お二人は、先ほど大統領が公表された魔法士による対策チームについてどのようにお考えですか?」

「大和では既に魔法士による災害支援特別部隊という独立した部隊を作っております。今回のような海外からの支援要請があれば、部隊として対応しますし、私としては隊長であり夫でもあるジン・シンドウの指示に従うだけです。」


 うーん、丸投げされてしまった……。


「先ほどの大統領のお考えは、単なる理想論ですよね。魔力量が多いからといって、強力な魔法を教えて優れたナビを与えることはできません。」

「それは、大和が魔法とナビのノウハウを独占したいからではないのですか!」

「もう少し考えて質問してくださいよ。動画を見てもらえば分かるように、今の魔法はあまりにも強力です。悪用されたらどうなると思いますか?」

「そこは、きちんと管理すれば問題ないと思いますが。」

「誰が管理するんですか?」

「そこは、政府や軍に優れた管理者がいるじゃないですか!」

「今でこそこのような地位を与えられていますが、数年前にコークリの人に誘拐され、前の総理には投獄されそうになりました。アメリアに来た直後に載せてもらった艦のトップは、状況把握もできず、僕たちを手ごまとして扱おうとしました。そういう人たちを信用できると思いますか?」

「では、対策チームなどできるはずがないといわれるんですね。」

「そうは言ってません。本気で信頼できる統率者とメンバーが集まれば実現できると思いますよ。ただ、そのチームは、どこの国の思惑にも左右されず、政治や宗教・思想とは切り離された環境が必須です。」

「では、不可能ではないと。」

「そうですね。逆に僕から皆さんに質問です。もし、そういうチームが発足して、アメリア人が選抜されなかった。指揮系統にも人が入らなかった。つまりアメリアにとってメリットは少ないが、費用は負担することになった。皆さん方マスコミは、この決定をした政府を支持できますか?社説でもなんでもいいので、皆さんの意見を聞かせてください。お願いします。」


 質問を投げかけた以上、少しは待つ必要があるだろうと押し切られ、俺たちはワシントンD.C.に少しの間滞在することになった。

 アラビア海で白ゴジが出没したら、すぐに駆けつけるとサウリには連絡をいれてもらった。


 大統領とは、あれ以来顔を合わせていない。

 俺の投げかけた質問は、3日経った今でも物議を醸している。


 意外なことに、資金の拠出肯定派は全体の61%を占め、数的には有意であるものの、支持者の多くが平均以下の低所得者層だった。

 この流れにいち早く乗ったのは野党の民和党だった。

 例え自国にメリットがなくても、世界の秩序を維持するための支出ならやむを得ないという意思を表明した。

 先に意思表示をされてしまったことで、与党共栄党はメリットのない出資は控えるべきという、富裕層の意見を支持せざるを得なかった。

 そして大統領自身は沈黙を貫いている。

 

 俺達にはマスコミの取材依頼が殺到したが、大統領補佐官のアドバイスで、公開討論会という形で全マスコミを相手に対応した。


「大和の魔法士が強力すぎるとのことですが、具体的にはどの程度の脅威になるんですか?」

「そうですね。例えば僕なら、物理攻撃と熱と風をブロックできます。つまり、既存の重火器やミサイルなどは無効化できるということです。」

「有効な攻撃手段はないのですか?」

「あったとしても、自分の弱点を公開するバカはいませんよ。」

「例えば、最新鋭のイージス艦相手ならどうですか?」

「白ゴジ相手に何もできなかった艦ですよね。仮にレールガンを装備していても物理攻撃ですし、レーザー兵器は熱を通さなければ効果ないんじゃないでしょうか。」

「攻撃手段としては、どのようなことが考えられますか?」

「艦尾を氷漬けにすれば動けなくなるし、内部か艦橋を5000度で加熱してやれば反撃能力はなくなりますよね。」

「航空機はどうですか?」

「照準が難しいと思いますけど、水平方向に面で加熱してやれば人間は耐えられませんよね。」

「町を攻撃する場合はどうですか?」

「それに答える意味はあるんですか?」



【あとがき】

 対人兵器。

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