第33話 白ゴジの卵が生きていた まさか育てるつもりなのか……
目が覚めたのは豪華すぎる部屋だった。
クイーンサイズのベッドが二つ並んでおり、片方にはサヤカが寝ている。
俺たちが艦においてきたはずの荷物も横にあったが、俺たちは着替えもせずに寝てしまったらしい。
まだ、頭がボンヤリしている。
順を追って思い出していく。
俺たちはアラブから16時間かけてアメリアのLAにやってきた。
うん、これは間違いないな。
LAの空港からヘリで沿海域戦闘艦という艦に移動した。
通訳の顔も艦長の顔も思い出せる。
サヤカが艦長に見舞った一本背負いも甦ってきた。
あれは、あまりにも綺麗に決まった。
夫婦喧嘩は極力避けなくてはいけない。
動画に残していないのがとても残念だった。
そして白ゴジの元へ出向き、サヤカが討伐を成功させた。
あの、伸身後方宙返りも綺麗だった。
ライブ配信していたはずなので、あれは動画に残っているかもしれない。
ああ、そうだ。
白ゴジを倒した時点で、サヤカは魔力切れをおこしたようだ。
今はどうだ……規則正しく胸が上下している。
顔色もよさそうだ。
その後で、白ゴジを冷凍倉庫に運んでからヘリに乗り込んで……その先の記憶がない。
二人とも着替えていないということは、そのまま運んでもらったのだろう。
「う、うん……。」
「おはよう。」
「ここは?」
「俺も今おきたところ。君は魔力切れを起こしてヘリで寝ちゃったんだよ。気分はどう?」
「う、ん。熟睡した感じ。さっぱりしてる。」
「俺も、全部片づけたあとで、多分ヘリの中で寝落ちしたんだと思うんだ。」
「だから二人ともユニフォームのままなんだね。」
「うん。シャワーでも浴びたいところだけど、勝手に使ったら怒られそうなところだから……。」
「こんなところ初めて。セレブになったみたい。」
少し話していたらドアがノックされた。
サヤカがベッドから立ち上がるのを待って返事をした。
「はい、どうぞ。」
「失礼します。起きられたんですね。」
「あ、はい。十分休ませていただきました。」
「16時間フライト直後の討伐でしたから、相当お疲れだったんでしょう。よくお休みになられていましたよ。」
「あはは、どれくらい寝てました?」
「えーっと、15時間くらいですね。」
俺はサヤカと顔を見合わせて笑った。
「申し遅れました。私、大統領補佐官のウィル・マシーニと申します。」
「あっ、ジン・シンドウです。」
「サヤカ・ジングウジです。」
補佐官と名乗った男性は、茶色の髪をした銀縁メガネの高身長イケメンだった。
「それで、ここは?」
「あっ、お休みの間に、ワシントンD.C.まで移動していただきました。ここはホワイトハウスに近いホテルです。」
「えっ、ホワイトハウスの近くなんですか!」
「お二人の了解もとらずに失礼いたしました。」
「それは別によいのですが、30時間以上この恰好なものですから、シャワーをお借りしてもよろしいでしょうか。」
「ここと隣の部屋はご自由にお使いください。シャワーの後で朝食を持ってこさせます。」
「いわれてみれば、腹減ってるかも。」
「それで、15時に大統領が白ゴジ討伐の会見を行います。お二人にも同席をお願いしたいのですが。」
「スピーチとかは無理ですからね。」
「同席だけで結構ですよ。記者から質問は出ると思いますけど。」
「」まあ、質問に答えるくらいならいいですよ。
「ありがたい!会見用の衣装は隣の部屋に用意してありますので、後ほどスタイリストとメイクを連れてきます。」
「重ね重ねありがとうございます。」
「それから、昨夜、大和政府が白ゴジに関して興味深い発表を行いました。隣にあるモニターにメモリをセットしてありますので、ご覧になった方がよろしいかと存じます。」
俺とサヤカはシャワーを浴びてさっぱりし、朝食を食べながら大和の発信したビデオを確認した。
***大和政府公式会見***
白ゴジは、ワニと同じ水棲爬虫類に分類されます。
生物学的な派生は確認中ですが、今回サンプルの採収に成功したことで、いろいろなことが判明しましたので紹介いたします。
今回のサンプルを解剖して分かったことの一つですが、この個体はお腹に5個の卵を抱えていました。
そして、この60cmほどの卵はすべて成長していたのです。
これは、白ゴジが卵胎生であることを物語っています。
更に驚いたのは、卵の中で死んでいた幼体と親の遺伝子を比較したところ、99.7%同じものだと判明しました。
このことから、この卵は単為生殖によって受精したものだと断言できます。
これは、ワニやヘビなどでも確認されており、そこまで珍しいことではありません。
ちなみに卵のうち2つは、母体が氷漬けにされた後でも成長を続けています。
大和で駆除された個体が、2時間氷漬けにされた状態から生存を続けていたことからも、それほど驚くことではありません。
孵化するかどうかは分かりませんが、大和としてはこのまま観察を続けていきます。
次に、体内についてですが、白ゴジの体内に高温を発するような器官はありませんでした。
気管にも、高熱に耐えられる様子はありませんでしたので、頭部に高熱を発する機能があると推測できます。
例えば、口の中が高温になり、そこを通過した息を加熱したり、魔法で息を高温に変化させている等ですね。
各素材に関してですが、外皮は耐魔法や耐熱・耐冷の効果を持っています。
しかも、衝撃に強いため、様々な分野で使える素材といえます。
そして、肉に関しては、今のところ有害となりそうな成分は見つかっていません。
これが食用になるのかどうかは、人を食べた個体ですから、味云々よりも倫理的に受け付けないでしょう。
結論からいえば、このような特性をもった個体が、まだまだ各地で出現する可能性は非常に高く、一度討伐されたエリアに出現することも考えられます。
この個体を産んだ親が、世界各地で子を産み続けている可能性も否定できません。
その子供も同様です。
これまでの出現パターンを見ると、大陸棚の外側。つまり水深200m以上に生息している可能性が高い。
そして、もっと上の水域の方が、エサになる大型の生物が多いことに気づいてしまったのかもしれません。
今回出現したいつの2匹は、非常に高い知能を備えており、学習能力も目を見張るほどでした。
大型の船を襲えば、大量の人間を捕食できるということも学習しており、それが他の個体と情報共有されていないとは断言できません。
海で生活されている皆さんは、十分に注意してください。
「卵胎生で単為生殖可能とか、ヤバすぎだよね。」
「そうですね。アレの幼体が世界中の深海で泳ぎ回っているとか、想像したくありませんわ。」
「それに、こうなってくるとますます自分たちの時間なんて持てなくなってくるし、下手をすれば世界中から派遣の要請が来そうだしな。」
「こんかいみたいな移動を繰り返していたら、ボロボロになりそうですわ。」
13時に、スタイリストやメイクさんがゾロゾロとやってきた。
俺の支度はタキシードを着させられて簡単なメイクをして終わったのだが、サヤカは時間がかかっている。
「海軍の公開したライブ動画がすごいことになっているんですよ。」
「再生数ですか?」
「ええ。24時間で5億回を超えて、まだまだ増えています。」
「……、考えてみたら、僕はまったく映ってないはずですよね。」
「そうですね。声が少し入っているだけで、サヤカさんメインの動画になっています。」
「それって、また僕の立場が弱く……。」
「はい。アメリアでのサヤカさんはスーパーヒーローですよ。いや、ヒロインですか。」
「ところで、相談があるんですけど。」
【あとがき】
16歳の少年と26才大人の女性。主人公交代?
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