第29話 火口を冷却して塞ぎます -世界初のライブ配信-

「ジン君、白ゴジに備えて、琉球のうるま基地で待機してくれないか。」

「ですが、チームが心配です。」

「安心してくれ、陸軍の押山は謹慎処分にした。」

「それだけじゃ安心できませんよ。」

「大丈夫だよ。君も知っている、海軍の高山君を暫定で災対チームを統括させることにした。まもなくやってくるだろう。」

「高山さんを?でもあの人、魔法研究所の所長さんになって忙しいんじゃないですか?」

「いや、ここで最新の情報を集めた方が、よほど効果的だと喜んでいたよ。」


 こうして俺は琉球本島のうるま基地に飛んだ。

 琉球での待機中に災対本部は火口凍結の決定を下した。

 俺が戻ろうとしたのだが、サヤカが立候補してくれた。


 東京から富士まで100km程度。

 フライトなら10分程度で到着する。


 これは防衛庁のサイトで、リルタイム配信されていた。

 何故かサヤカは俺と同じコスチュームを着用している。

 カメラマン兼インタビュアーとしてチームの磯崎さんが同行している。

 磯崎さんも白ゴジを任せられるレベルの魔法士だ。


「サヤカさん、いよいよですね。緊張してないですか。」

「大丈夫でーす。」

「火口まで行くのは初めてですよね?」

「当然でしょ。」

「では、ご主人に向けて一言。」

「えっ!……えーっと、こっちは私たちに任せて、白ゴジの方に集中しててください。愛してまーす。キャッ、言っちゃいました。」


 おいおい、防衛庁のサイトで何言ってんだよ……。


 そして飛行中。

 右手を前に突き出してヒーロー姿勢で飛んでいる。

 ボディスーツが体のラインを際立たせている。


「あっ、メッセージ……旦那さんからでーす。」

「何て?」

「えーっと、危険な任務なんだから、ふざけてないで集中しろって……怒られちゃいました。グスン。」

「あらあら、こんなに頑張っているのに。」

「でも、配信見てるからがんばれって。エヘヘ。」

「おーっと、これは惚気なのかぁ、独身の僕に対する当てつけとしか思えません。」


「10分で火口上空に到着しました。これから火口を凍結。マグマを冷やして固めます。」

「お願いします。大和国民が見ていますよ。」

「ふう”ロック”そして”フリーズ”!」

「おお!ご覧ください。凍結魔法により、一瞬でマグマが冷えて固まりました。成功です。」


「ここで質問です。」

「はい。」

「もっと早く対処できたと思うのですが、ここまで時間がかかったのは何故ですか?」

「今回、水蒸気による爆発は噴火当日、4日目、6日目の3回発生しています。つまり、まだ水蒸気が抜けきっていなかったんです。」

「はい。」

「ですから、噴火直後に火口を塞いでいたら、時間をおいて2回目の噴火、3回目の噴火という可能性があった訳です。」

「まあ、1週間前だと、私たちも今回使った魔法の開発・訓練中だったから、対応できなかったんですけどね。」

「そうですね。こんな風に噴火をおさめたのって、多分世界で初めてのことですからね。」

「まったく、こんな非常識なことを考えるなんて、頭が飛んでるんじゃないですかね?」

「……ごめんなさい。うちの旦那さんです。」


「それでは、今回の動画は富士山の火口から、私、神宮寺紗香と。」

「僕、磯崎修二がお送りしました。ご視聴ありがとうございました。」


 ここで、噴火口を魔法士が冷やして塞ぐという異例の中継が終わった。

 まあ、被災者がいる以上、不謹慎だとか批判されることもあるだろう。

 だが、一歩間違えれば確実な死が待っていたはずだ。

 そこを評価してほしいものである。

 俺はサヤカに労いのメッセージを送った。


 この動画は世界中に拡散され、概ね効果的に受け取られたようだ。

 24時間経っても、再生数は止まる気配がない。


 そして翌日、白ゴジは同じルートを辿って3回目の北上を始めた。

 ということは、このラインを逆に辿ればヤツの巣があるのかもしれない。

 琉球海溝あたりだろうか。


 俺は洋上で待機する護衛艦「ときね」に移動した。

 衛星画像で見る限り、餌場の海域にいるのは、フリゲート艦4隻と駆逐艦8隻。

 シン国側に気づいた様子はない。


 距離30kmで哨戒機がヤツを発見したようだ。

 一斉に放たれたミサイルだったが、2・3発着弾した時点で、ヤツは潜った。

 それほど深くはない。衛星画像でも白い影が見えている。

 だが、ミサイルは水面で爆発していく。


 ヤツはそのまま一番近いフリゲート艦の後部を破壊し、そしておそらく船底を傷つけて次の艦へ矛先を向けた。

 水中の敵を攻撃する手段としては、魚雷や爆雷が考えられる。

 シンの司令部もそう考えたのだろう。

 だが、ヤツは魚雷を避けたようだ。

 射線上にいた船の底部が爆発を起こした。

 スクリューを破壊され、おそらく底部を切り裂かれた船が二隻・三隻と増えていく。


 航空機とヘリには為す術がなかった。

 4隻目が航行不能になった時点で、他の船は逃げるべきだったと思う。

 だがシンは近接攻撃を選択したようだ。

 白ゴジとの距離を詰め、砲塔から白煙が立ち上り、爆雷による水柱が何本も出現した。

 そして、30分足らずで12隻は沈黙した。

 浸水による動力系統の不具合だろうか。

 

「ジン君、シン国からの応援要請が入った。出動してくれ!」

「はい。」


 臨戦態勢にあった護衛艦「ときね」は、戦闘海域に向けて進攻を開始。

 だが距離は200kmある。

 全速力でも2時間かかってしまう。

 俺はヘリに乗り込んだ。


 ヤツは戦闘機やヘリを相手にしながら食事を始めていた。

 ヘリで約20分。

 俺はカメラに向かって宣言した。


「白ゴジ討伐開始します。」


 本当は必要ないのだが、ヘルメットのゴーグルを下ろし、俺は空へ飛び出した。

 二日連続の防衛庁生配信だ。

 だが、主役の二人が事実婚の夫婦というのはどうなんだろう。視聴率が心配だ。


 コスチュームは昨日と同じ。あとは適当にテロップで補足するとか言ってたけど、若干不安は残る。

 ヘルメットにもマイクとカメラが装着されており、指令室で順次画像を切り替えているはずだ。

 ヤツとの距離は10mに縮まった。

 流石に迫力がある。


「口と目と鼻の穴は魔法の照準が可能ですね。では、ヤツの気を引いて船から引き離しましょう。」


 俺は目の表面を1000度に加熱した。


「うーん、1000度は効果ないですね。では3000度。」


 魔力量を抑えているので、威力は低い。

 だが、効果はあった。

 一度焼けただれた目の表面に白い泡がでて再生していく。

 

「はい。やっと僕を認識してくれたみたいですね。睨まれてます。怖いですね。」


 直後に前足で薙ぎ払ってきた。

 無意識に左腕でブロックする。

 まあ、衝撃もないのだが。

 続けて噛みついてくるが、これは桜が制御して避けてくれた。

 もう一度目に攻撃。

 少し距離をとっていく。


「完全に注意を引き付けました。船から離れて向かってきます。おっと、ブレスです。高温でマントが燃えています。」


 カメラは俺の視線にあっているはずなので、見ている人にも伝わるだろう。


「マントのデザインは気に入らなかったのでちょうど良かったです。今時”大和魂”は、流行らないですよね。」


 俺はマントの留め具を外して投げ捨てた。


「すみません、不法投棄ですが緊急事態なのでご容赦ください。でも、ブレスはちょっと臭いです。もう受けたくないですね。」



【あとがき】

 公開討伐開始です。

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