第28話 一度の食事は7トンの肉だと判明した
「桜、WRSの二重起動って可能かな?」
『うーん、できないこともないですけど、今やっているような追尾は無理ですね。』
「ダメか。でも、それでもいいから、できるように準備しておいてよ。」
『承知いたしました。でも、そんな必要があるんですか?』
「気のせいだっらいいんだけど、嫌な予感がするんだ。」
『それって……。』
「白ゴジは間違いなくどこかで繁殖しているからさ、何匹か同時に現れてもおかしくないと思うんだ。」
知っている人が近くにいてくれないと、独り言を言っているみたいで少し恥ずかしい。
白ゴジは宮古島を通り過ぎ北上を続けている。
「これって、もしかして前回と同じコースじゃないの?」
「もう少し進んでもらわないと確定できませんが、可能性は高いですね。」
白ゴジは前回と同じように北上を続け、大陸棚に入った後、北西へ進路を変えた。
「白ゴジ、進路を変更。前回と同じコースを進んでいます。」
「でも、さすがに一週間経っていないし、漁船は出てないか。」
「衛星画像に切り替えます。進行方向に漁船数隻とおそらく巡視中のフリゲート艦と駆逐艦級の2隻が確認できます。」
「おいおい、マジかよ……。」
白ゴジは漁船に目もくれず、一気にフリゲート艦に向かっていく。
「船側も気づいた様子で、回避行動をとったようです。フリゲート艦からヘリが発艦。白ゴジの側面に回り込むようです。」
砲撃の白煙。ミサイルの爆発などが確認できるが白ゴジの速度は変わらない。
少し小さい駆逐艦の方も白ゴジの側面に回り込んで攻撃をしているようだ。
「白ゴジ、フリゲート艦の船尾に接触。」
「まさか、スクリューが弱点だと気づいたのか?」
「いや、たまたまではないのか?」
「船体を切り裂いてやがる……。」
「あれじゃあ、駆逐艦もヘリも火器を使えねえだろ。」
「えっ、白ゴジ、駆逐艦の方に移動しています。」
「一気に沈めないで、エサが出てくるのを待っているんじゃ……。」
「その間に駆逐艦を無力化……。」
「今度も船尾に突っ込んでいきます。」
「やっぱりスクリューが推進力だと理解したんじゃねえのか……。そんで、適度に損傷させれば沈没前に避難せざるを得ない。」
「あれ、駆逐艦をフリゲート艦の方に押して行ってるんじゃないのか?」
「戦闘機が近づいています!」
「いや、あれじゃあ攻撃できねえだろ。」
「それに、やっぱり脱出した人間を食ってやがる……。」
「あっ、ヘリが爆発しました!」
「熱波か……。」
「戦闘機もやられています!」
「真っすぐ向かってくるのを狙い撃ちかよ。学習能力が高すぎねえか……。」
横を通る戦闘機を狙うのは至難の業だが、直線的に向かってくるのであれば簡単に攻撃できる。
しかもビームのような集束された攻撃ではなく、幅のある波で攻撃しているのだ。
「わが軍が攻撃する時も注意が必要だな。」
「船が近づくのも危険ですね。最大速度で直線的に逃げることは可能なんでしょうけど。」
「最大船速で逃げて時速55km程度か。本当に逃げ切れるのか……。」
「それよりも、後部から熱波を放たれたら終わりでしょう。あれが追いかけてくるという前提なら、後方を攻撃しながら逃げるというのが合理的な選択だと思いますよ。」
そんなことを話している間に二隻の船はゆっくりと沈んでいき、白ゴジは海中に姿を消した。
「完全に餌場だと認識したかもしれませんね。今回のコースを周知して、当該エリアでの漁禁止と航行制限を徹底しましょう。」
「100人の兵士で満足したということは、1回の食事は約7トンの肉ってことか。アフリカゾウ1頭なら満足してくれるのか?」
「イルカやクジラはヤツと同じくらいの速度で逃げます。サメは動きは遅いけれど大きくても1トン程度だから7頭必要。」
「それに比べれば、船は動きが鈍くて、急所も把握してしまった。」
「味も好みだったとか……。」
「もし、陸上の方がエサの数が多いと知ったら……。」
その後、俺は災対本部とのテレビ会議に参加させられた。
「では、白ゴジに対する検討会を開催します。」
官房長官より、今回の出現に伴う報告があった。
「幸いなことに、大和には優れた魔法士がおりますので、我が国に出現したときの対処は可能と判断できますが、通常兵器による撃退は不可能なのか議論いただきたいと思います。」
「前提条件として、局所的な傷は、高い再生能力により回復してしまうということがあげられます。これをクリアする最短の方法は戦術核になると思います。先ほど、シンの報道官もその可能性を示唆しておったが、どこまで本気なのか分かりません。」
「もう一つの方法として、白リン弾の使用が考えられます。白リンは燃焼温度が4000度なので、口の中で破裂させ、傷口に追加で攻撃していけば討伐できるかもしれません。」
「いや、その情報はデマだよ。白リンの燃焼温度はせいぜい1000度だそうだ。」
「……では、核以外での成果は見込まれないと……。」
「すみません、よろしいですか。」
「ジン君、何かアイデアがあるのかね?」
「前回の白ゴジ討伐以降に、わがチームでは、飛行魔法開発とシールドの追加効果解明に成功しています。」
「ああ、聞き及んでいるよ。この短期間に素晴らしい成果をあげてもらい感謝している。」
「シールドで熱と風と物理攻撃を無効化できるので、白ゴジの熱波も爪も脅威ではなくなったと判断できます。」
「それは本当なのかね。」
「そして、飛行魔法で行けば単独で白ゴジの元まで行けるので、条件があえば検証してみたいと考えています。」
「それは、前回のような遠隔魔法ではなく、直接対峙すると……、だが、そんなことをしたら、画像が出回って世界に知られてしまうのではないかね?」
「隠しておきたいのは遠隔魔法の存在であって、シールドと飛行魔法はいずれ世界に出回る情報です。だったら、世界に同時配信して、大和の力を見せつけるのも効果的ではないかと思うのですが。」
「……、シン国からは、我が国で行った討伐の情報を隠ぺいするのは非人道的だと非難されておる。まあ、民間にも被害が出ているので、的外れとも言えないが……。」
「総理!それなら、要請があれば討伐チームを派遣すると宣言できますな。そして、世界中が注目する中で白ゴジを討伐して見せる。いやあ、スーパーヒーローの誕生ですな。」
「これが検証できれば、僕以外にも3人。討伐可能者が増えることになります。」
「くぅ、戦隊ヒーローですな。」
政府は、要請があれば白ゴジの討伐チームを派遣すると声明を出した。
そして、それはシン国の主張するような隠ぺいではなく、魔法攻撃によるものだと明言して具体的な攻撃方法であるファイヤによる5000度の連撃であると説明した。
それにあわせて、白ゴジの詳細情報も公開し、核を使う必要などないと断言した。
ネットでは、5000度のファイヤ連撃は凄過ぎ!とか、魔力量半端ねえだろ!などの意見が飛び交い、魔法大国大和が世界に知れ渡った。
戦略チームでは、知らない間にコスチュームまで作られてしまった。
ゴーグル付きのヘルメット型ナビはうちの標準装備であるが紺色に塗装されデザインが施されている。それに紺のボディスーツをあわせ、全体的に旭日をイメージしたデザインとなっている。
「マントは絶対に嫌だ!」
「何故ですか、スーパーヒーローにマントは必須ですよ!」
「俺はそんなものになる気はない!」
そうだった。戦略チームはアニオタの集団だったのを忘れていた。
【あとがき】
紺地に白の旭日デザイン。マントには大和魂の刺繍。腰には日本刀型ナビですよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます