第27話 お前の仕事なんて誰でもできるんだよと言われてしまった
「今回、白ゴジが大陸側に現れたのは、フィリピンプレートが不安定な状態にあることの証拠です。もう一度大きな地震が起きる可能デイは非常に高い。」
テレビでは学者が訳知り顔で解説している。
聞いたことも見たこともない学者で、うさん臭さ満載である。
テレビ局としてはこれくらいインパクトのある発言を欲しているだけで、根拠のある証拠など何も示せていない。
そして、マイアミ沖での白ゴジ目撃情報については、フェイク動画であることが判明した。
噴火については4日目と6日目に2回目、3回目の噴火があり、様子見が続いている。
次に3日噴火が起きなければ火口を塞ぐ予定だ。
7日目までの降灰量は駿東郡小山町で2.5m。
神奈川県松田町で80cm。秦野市で45cm。横浜市北部で25cm。都内西部で4cmに達している。
降灰中の外部作業は禁じられ、神奈川のほぼ全域と東京西部は完全に機能を停止していた。
これまでのところ、雨は降っていないが、来週の後半には天気が崩れると予想されている。
完全に乾燥した火山灰に雨が降るとどうなるのか?
サラサラの火山灰は、雨が降ると水分を取り込んで固まってしまう。
重量がいきなり増えるだけでなく、電気を通すようになる。
短絡事故が起きれば、広範囲で停電が発生する。
しかも、一気に重量の増えた火山灰は、住宅どころかビルの天井を押しつぶし、山では土石流が発生する。
町でも排水系統が詰まってしまい、灰により浅くなった河川は、容易に氾濫を引き起こしてしまう。
避難しようにも、交通網は相変わらずマヒしていた。
そして、住民や行政の集めた灰は、処分場がなくビニール袋が積みあがっている。
「また、屋根の火山灰降ろしですか……、ちょっと量が多すぎですよ。」
「文句をいうな。他の部隊は津波と地震の後処理で出払っているんだ。」
「だからって、うちの10班だけで神奈川全域は無理がありますよ。」
「来週になって雨が降ったら、確実に被害が広がってしまうんだぞ。」
「でも、警察や消防。それに役所の職員は車の中から見ているだけで、外にも出てこないらしいですよ。」
「仕方ないだろう。魔法士以外はシールドを使えないんだ。」
「シールドの魔道具は全国に行きわたっていますよね。なぜそれを使わせないんですか。」
「そんなのうちの知ったことではない。ともかく誰か行かせるんだ!」
「……うちのチームがあなたの命令を聞く必要はないはずですね。これ以上の出動はメンバーの負担が大きすぎるので拒否します。」
「何だと!上官の命令に逆らうというのかね。」
「上官?」
「応援で来ているが、俺は陸軍の第7普通科連隊長押山だ。」
「それで?」
「単一部隊の貴様に、命令の拒否権などないということだ。なぜそれが分からん。」
「私に命令できるとしたら、統合幕僚長か防衛大臣か首相だけなんですよね。」
「なに!」
「特に今は、災対本部からの指示で特別任務中です。僕に指示できるのは首相だけ。お生憎様でした。」
「ふざけるな!ガキが嘯いてるんじゃねえよ。」
「パワハラ?でも上司じゃないからパワハラにならないか。」
「なにぃ!」
「連隊長だと一佐でしょ。」
「そうだ!」
「僕もね、大佐扱いらしいですよ。」
「お前が大佐のハズねえだろ。」
「そう。特任なんで正式な階級はないんですけどね。」
「ハハハッ、面白い冗談じゃねえか、まあいい、ともかくその現場へ誰か行かせろ、いいな!」
「すみませーん。災対チーム、今日はこれ以上受けられません。緊急のもの以外は明日にしてください。」
「でも、押山さんから全部受けろっていわれたので、受けちゃったんですけど。」
「この人に、うちのチームに対する権限があると思ってるんですか?」
「いえ、でも……。」
「そちらの判断で行政からの依頼を受けたのなら、そちらで責任を持って対応してください。ほら、暇そうな人がいっぱいいるじゃないですか。うちだって、内勤者もペアになって現場へ出てるんですよ。」
「ふん、お前だって内勤だろうが。」
「じゃあ、僕の仕事を押山さんにやっていただきましょうか。それなら、僕がその2件行ってきますから。」
「ああ、そうしてくれ。指示を出すくらいお前みたいなガキでもできるんだからな。」
俺はフライトをフルに使って1時間半で2件の依頼を終わらせた。
途中で連絡が入ったが、押山って人が代わりにやってくれるって言ってましたと断った。
まあ、30分で戻ると言ったら納得してくれたが。
基地に戻ると、陸上幕僚長が待っていた。
「ジン君、申し訳ない。」
「別にいいですよ。その代わり時間中に白ゴジが出たら、陸軍で対応してくださいね。押山って人が言い切ったんですから。時間外と夜間は契約なので僕が対応しますから。」
「本当に申し訳ない。押山はしかるべく処分する。機嫌をなおしてくれないか。」
「嫌ですよ。普段から思っていたんですけど、陸軍の内勤者ってホントに責任感ないですよね。」
「いや、それは……。」
「うちのメンバーが出払っていても、知らん顔で依頼を受けてくれるし、自発的に行動しようとしない。押山って人が育った背景が見えてきますよ。」
「……。」
「だから、せめて自分が言った言葉くらいは責任をとってもらいますよ。」
「いや、今、台湾の東部で出現していて監視中なんだ。」
「だったら、押山さんを指令本部に連れて行ってくださいよ。陸軍の力を見せるチャンスですよ。押山さーん!」
俺は押山さんの席に行って立たせた。
「ほら、白ゴジが出てるみたいですよ。」
「……。」
「こちらが依頼を受けまくるものだから、僕のフォローを頼むスタッフもいないんですよ。押山さーん。」
陸軍の内勤者は全員下を向いてしまった。
「何とか言ってくださいよ、押山連隊長。」
「……無理に決まってんだろ!」
「僕みたいなガキの仕事なんて誰でも出来るんですよね。自分の言葉に責任を持ちましょうよ。」
「ジン君、申し訳ないが今は指令本部に来てくれ。後でいくらでも謝罪させるから。」
指令本部は緊張感に包まれていた。
「ジン君、よかった帰ってきたんだね。」
「ええ、現在地は?」
「台湾の東部、500km付近を北上中です。このまま進むと、宮古島の東側に接近する恐れがあります。」
「周辺の船は?」
「退避させてあります。」
「大和の船は近くにいないの?」
「はい。前回のこともありますので、接近は航空機だけに限定してあります。」
俺はWRSを起動して影を捜した。
「くそ、目標がないから見つからない……。」
仕方がないので、地図と比較しながら宮古島を探し出し、その右斜め下を探していく。
宮古島まで直行されたとしても、まだ100kmほどの距離がある。
焦る必要はないと理解はしている。
「これかっ?」
20分ほど費やして、やっと影を見つけた。
「桜、追跡を頼む。」
『はい、ご主人さま。』
「ふう、やっと捕まえました。」
「ご苦労さん。大分疲れているみたいだね。」
「あはは、どこかの連隊長とかいう人のせいで、現場対応させられましたからね。」
「いやいや、君だけは基地内にいてくれないと困るよ。」
「だって、チーム全員出払っているのが分かっているのに、仕事をどんどん受けちゃう人がいるから仕方ないじゃないですか。僕が不在の間は、その連隊長が代わってくれるっていうから出かけたんですよ。」
「どこのバカだそいつは!」
「どっかの基地から応援に来てる人みたいですよ。」
この指令室は3軍統合式の複合施設で、陸・海・空軍の指令設備が整っている。
俺が普段使っているのは海軍の指令設備だが、少し離れた隣には陸軍のスタッフも業務についている。
事情を知っているのか、陸軍のスタッフは俯いてしまった。
【あとがき】
東日本大震災の時、僕は横須賀で地震を受けました。そのまま、職場に一週間泊まり込みで、働いていました。
会議・情報収集・対応物資の確保や各種手配。やることはいくらでもありましたね。
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