第20話 示現流の初太刀に対する術も学んでおりますのよ
「さて、ここからが本番です。」
「本番?」
「魔導基盤と魔石を用意してもらった理由です。」
「ああ、そうだったな。」
「シールドが常駐魔法ではないのなら、発動したあとでナビを外しても効果は継続する。我々はこの事を確認して、それならば据え置き型の魔道具で発動してやれば個人で魔道具を持たなくても使えるのではないかと発送します。」
「別にナビで発動できるのから、なぜそんな必要があるんだ?」
「その必要性を感じたのは、僕が魔法の簡易発動プロセスを開発してしまったからです。これにより、訓練をしなくてもシステムさえ装備すれば誰でも魔法を使えるようになってしまった。つまり、魔法犯罪の増加が懸念されたわけです。」
「ヒゴではまだ普及していないが、そんなに簡単に使えるものなのか?」
「それは、後で体感していただきましょう。特に子供に害を及ぼさないようにしたい。でも、すべての子供に魔道具を持たせるのも現実的ではない。だったら、町の主要スポットや学校に設置して、登校下校の時に発動してもらえば子供を守ることができる。これを実現したら、実際には交通事故に巻き込まれる子供が大幅に減ったようです。」
「マジかよ……。」
「真藤隊長の部下で神宮寺と申します。補足させていただくと、この魔道具の普及によって子供の事故はほとんどなくなりましたが、当然開発者の隊長は国民からは大絶賛され、魔法士に対するイメージの飛躍的向上にもつながりました。」
「あっ……。」
「ヤマトの魔導士は災害支援にも携わっており、先日の海ドラゴン討伐にも成功したことから国民からの信頼は揺るぎないものと確信しています。」
「その魔道具を作ってくれるのはありがたいが、それが一つ2つあったところでどうにもならないだろう。」
「今、魔導基盤を500取り寄せています。500あれば、少なくとも熊本の小学校くらいに配布できませんか?もっと多くしたかったんですが、流石に僕の財力だとこれくらいが限界です。」
「あ、ああ。それだけあれば。だが、それを個人で用意してくれると……。」
「まあ、それだけの魔石を用意してもらう必要はありますが、魔法隊主導で配置していけば、魔法士のイメージ向上もできるんじゃないですか?」
「現状でシールド装置は国外への輸出が規制されていますが、効果を確認して国で動いてもらえればヤマトの方でも検討すると思いますよ。」
「その輸出禁止のものをこの国で作ってしまって大丈夫なのかい?」
「あはは、昨日、防衛大臣と魔法大臣に確認したので大丈夫ですよ。開発者権限ってやつです。」
「君は何故そこまでしてくれるんだい。」
「うーん、共生……共に生きるという考え方は、倭の国が誇る国民性ですよね。」
「倭の国……。」
「ヤマトもヒゴもリュウキュウも関係ないですよ。同じ民族なんですから、力をあわせていけばいいじゃないですか。」
「そうか……同じ民族なんだな……。」
そのまま、村上隊長の用意してくれた魔導基盤に魔石を組み込み、義手とケーブルでつないで桜がプログラムを書き込んだ。
手先が器用だという隊員が、魔導基盤をプラスチックの箱に納めてスイッチをつけて完成だ。
動作確認を行った魔道具を夕方の懇親会で村上隊長から披露してもらうと、会場から歓声があがった。
「すみません、熊本海軍第5小隊の加藤です。それって、艦に搭載しておいて戦闘前に隊員が使うこともできるんですか?」
「岩国基地海軍第2小隊の小坂です。うちの船には搭載済みです。それにはシールドだけではなく、身体強化2倍の機能もつけてもらっています。」
「何で4倍じゃないんですか?」
「身体強化っていうのは、切れたあとの疲労感がきついんですよ。今は、普段の訓練も身体強化2倍でやっていますから、もう少し慣れたら3倍に増やす予定です。」
「身体強化ってホントに効果あるんですか?ホントは自己暗示みたいなものじゃないんですか?」
小坂さんは一瞬神宮寺さんのほうを見て引きつったような笑みを浮かべた。
「私も2年前までそう思っていましたよ。皆さんも機会があったら体感してみてください。」
「岩国基地陸軍の田代です。これだけは言っておきます。魔法士を舐めないほうがいい。シールドと身体強化した魔法士と剣道の試合をするでしょ。彼らは防具をつけないんですよ。だから早いし力が強い。」
「面白いじゃねえか。岩国の魔法士は熊本の魔法士と違うらしい。明日にでも是非手合わせをお願いしたいものだね。」
「こ、こら権田君。失礼なことを言うんじゃない。」
「あはは、田中指令、大丈夫ですよ。鳥海君どうだね、受けて立っては。」
坂本団長が名指しした鳥海さんは岩国基地特務隊の黒メガネ魔法士だ。
「はあ、挑戦されたのであれば……。」
鳥海さんの言葉を遮って、サヤカさんが立ち上がった。
「鳥海さんのような男性ですと、魔法の効果がよく分からないと思いますわ。わたくしが相手なら、魔法がどういうものか、よぉくご理解いただけると存じます。」
「サ、サヤカ君……。」
「バカを言うな。俺に女をいたぶる趣味はねえよ。」
「あら?ヒゴの男は、女に挑まれてお逃げになるんですの?」
「ああん、仕方ねえ。メガネ君の前に遊んでやろうじゃねえか。だが、嫁に行けねえ体になっても責任はとれねえぜ。」
会場から笑いがこぼれた。
「大丈夫ですわ。先ほど申し上げたように、シールドは交通事故から子供たちを守っております。あなたの剣がどれほどか存じませんが、走ってくる車よりも重いとは思えませんもの。」
今度はクスクスと失笑が漏れる。
ちなみに、俺はまったく心配していない。
魔法士といえど、サヤカさんも毎日のトレーニングは欠かさないし、似たようなシーンは何度も見てきたからだ。
翌朝9時半に屋外の練習場で摸擬線は開始された。
両者ともにシールドの魔道具を操作して、更にサヤカさんはナビを操作して身体強化を行っている。
うちのチームでは3重の強化で普段活動している。
「では、始めようか。」
「わたくしは3倍の身体強化を行っております。ご承知おきくださいね。」
「何倍だろうが関係ねえよ。1をいくら倍にしても1のままだ。」
「あら?1×1は1ですけど、1×2ですからね。もしかして頭の方も性格ににてお悪いのでしょうか?」
「う、うるせえ!始めるぞ!」
権田氏の顔は真っ赤になっていた。
まさか、マジだったのか……。
「では、熊本陸軍権田対ヤマト防衛軍特務隊神宮寺の試合を始める。互いに礼!……開始!」
「まいります。」
サヤカさんの表情が変わる。
愛想の良い笑みが口元から消え、氷のような目が権田氏を捉えている。
その姿がゆらっと揺れた瞬間、3mの距離を一気に詰めて右から横なぎに払う。
反射的にそれを竹刀で受けて見せた権田氏もたいしたものだが、これはフェイントだ。
左に移動してガラ空きになった胴を払い、そのまま顔面を打ち据える。
パシッ!パシッ!と小気味の良い2連撃が権田氏を襲い、次の瞬間には開始位置に戻っている。
おおっ!という会場のどよめきに応えるようにニコッと微笑むサヤカさん。
「これがシールド装置の効果と3倍の身体強化ですわ。ご理解いただけましたかしら?」
「ぐっ、まだまだだ!」
上段に剣を振り上げて気合とともに打ち下ろす権田氏。
示現流という、一撃必殺を狙った流派だと昨日聞いた攻撃だ。
多分避けることもできたであろうが、それを正面から受け止めたサヤカさんは剣を跳ね上げ、胴を打ち据える。
更に回り込んで、首元へ2度打ち込みを入れた。
「国が割れる前は、薩摩と周防に交流もありましたのよ。示現流に対抗する技も学んでおりますわ。」
「お前……剣を学んで……。」
【あとがき】
剣士、神宮寺紗香の秘密。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます