第19話 常駐魔法がまやかしだと知ったら……

「このシールドの発動を解明したおかげで、魔道具を持たない人に2時間のシールドを付与する魔道具が開発されたんですよ。」

「何のために?」

「朝、子供に町の集会所でシールドをかけて登校させます。帰りは学校でシールドをかけて下校させることで、不慮の事故や犯罪から子供を守れます。」

「それは……確かに効果が期待できますね。」

「ええ。そのシステムを導入してから、子供の交通事故がほとんど発生していませんの。」

「ヒゴにも導入したいですね。」


「あとは、我々も練習中なのですが、この二人はナビを使わずに魔法を発動するんですよ。まったく、とんでもないことを考えるんですよ真藤君は。」

「そんな……どうやって?」

「あっ、もう食事会の時間ですね。概要だけお話しすると、簡単なことですよ。ひたすらシールドって繰り返して発動を確かめるだけです。」



 会食には小隊長以上が参加していた。

 俺とサヤカさんは魔法小隊の席に座った。

 魔法部隊は大隊がなく、小隊長の園田さんと副隊長の緒方さんだけだったからだ。


「緒方から話は聞きました。簡易照準システムを各自のナビにセットしていただいたと。本当にありがとうございます。」

「いえいえ、大したことではありませんから。」

「それにシールドの仕組みも解明されたとか、我が国にもそのような魔道具を普及させたいものです。」

「そうですね。子供の命に直結するものですから、できる限り広めてほしいのですが……。」

「政府のおバカさんが、国外への持ち出しを禁止しておりますから……。」

「あれっ?魔法式の著作権は放棄したはずなんだけどな。ちょっと待ってて。今、サクラさんに確認してみるから。」


 俺はサクラさんに政府の制限内容を確認した。

 確かに国外への輸出は禁止されているが、魔法式に対する制約はないとのことだった。

 俺は防衛大臣と魔法大臣に確認をとり、ヒゴで作らせることに問題があるか聞いたが大丈夫だと回答された。


「うん。防衛大臣と魔法大臣に確認した。俺がこの国で作ることには問題ないみたいだよ。」

「隊長さん、それじゃあ。」

「園田さん、大分に魔道具技師はいませんか?」

「残念ですが、大分にはそういう技術者がいないんですよ。熊本には少数ですが開業している魔道具師もいるのですが。」

「そうですか。魔石と魔導基盤があれば僕でも作れるんですが……。」

「魔石は手に入りますが、魔導基盤はないと思います。使える技術者がおりませんので。熊本でも、おそらくそれほどの数は揃わないと思います。」


 俺はもう一度サクラさんに連絡をした。


「サクラさん、魔導基盤って輸出に規制がかかっていたりしますか?」

「魔導基盤が制約されているのは、コークリとシンとモルゴンだけよ。」

「じゃあ、ヒゴは大丈夫なんですね。」

「ええ。オブロンからも少量だけど輸出しているわよ。」

「俺宛に500枚ほど送ってもらうことはできますか。料金は払いますから。」

「500枚か、ホントはあげたいんだけど、流石にその数は無理ね。採算度外視で500万になるけどいいかな?」

「すぐに振り込みます。あて先は岩国基地の神宮寺指令宛でお願いします。」

「そうか、岩国から使節団への物資なら余計な検閲もないし、税金もかからないわね。」


「お父様には私から連絡しておきます。荷物が届いたら熊本までヘリで運んでほしいって。」

「あはは、助かるよ。」


「園田さん、シールド装置の目途が立ちましたよ。あとは魔石を用意して、ケースとスイッチを手配すれば作れると思います。」

「本当かい!それはすごい!魔石と関連する道具の調達は、僕の方から熊本の小隊長に連絡しておくよ。」

「そうしてもらえると助かります。」


 翌日、俺たちは熊本に向かった。

 移動距離は100kmだが、高速鉄道が整備されているため、実質30分だった。


 熊本には約1カ月滞在するため、俺たちは基地内の宿舎に案内され荷物を置いて再度集合した。


「今日は、夕食の時間までそれぞれの部隊と顔合わせして、情報交換してくれ。夕食時に会おう。」


 ということで、俺たち魔法士4名は魔法小隊との顔合わせを行った。


「本部魔法隊の村上です。あなたが真藤さんでよろしいですか?」

「はじめまして。本部特務隊特殊チームの真藤仁です。ジンと呼んでください。」

「大分の園田隊長から連絡を受けて魔導基盤や魔石を用意しておきましたが、いったい何を見せてくれるんですか?」

「シールドの魔道具を作ろうと思っているんです。」

「シールドの魔道具なんて、何に使うんですか?」

「シールドっていう魔法に対する認識を変えていただくところから始めましょう。」


 村上総隊長と小隊長が3名。各副長が4名集まっていたので、一度着席してもらい説明を始めた。


「皆さんもご存じのとおり、シールドを何の設定もなしに発動すると常駐しますよね。」

「当然ですね。」

「一般的なナビだと、常駐魔法は3種までですから、実戦で魔法シールド物理シールドを発動したら、あと一つ攻撃魔法しか使えなくなってしまいます。ここまでは同じ認識でいいですよね。」

「まあ、魔法士としては常識ですね。」

「実践ベースだと、ここに身体強化も入れたいけど、そうすると攻撃魔法が使えなくなってしまう。じゃあ魔法シールドを外そうかとか悩みますよね。」

「対魔物なのか対人なのかで選択は変わってくるが、何か問題でも?」

「ここで問題です。なぜ、これらの魔法は常駐するのか?身体強化の重ね掛けは2つ常駐枠を確保してしまうのか?」

「いや、それがこの魔法の特性なのだからどうにもならないでしょ。」

「誰がそんなことを決めたんですか?」

「えっ?」

「常駐している魔法は、その間魔力を消費していますか?」

「「「えっ!?」」」


「シールドの魔法自体それほど魔力を使いませんが、実は最初に発動したら魔力は消費していないんです。」

「「「えっ!」」」

「うちのチームメンバーは、ナビなしでもある程度の魔法は発動できますが、それ……。」

「ちょっと待ってくれ!ナビなしって、どういうことだ1」

「えーっと、マギやマーリンたちは、ナビなんて使っていませんよ。」

「「「えっ!」」」

「複雑な魔法式はともかく、単発のコマンドだけならナビなしでも発動できるってことです。」

「まさか……。」

「ナビなしでシールドを使った場合、個人差や負荷にもよりますが、効果は半日くらいで消えました。この場合、シールドはどこかに常駐していると思いますか?」

「……。」

「ナビなしの場合、身体強化は多分3重まで有効だと思います。この場合、従来思われていた倍々に増えるのではなく、2倍、3倍、4倍という感じで増えていきます。」

「それじゃあ、身体強化は4倍が限度だと……。」

「そういう事ですね。」


「いろいろと試した結果、この常駐という考え方はナビによる特性というかバグみたいなものだとわかりました。」

「そんな馬鹿な……。」

「そして、いつ切れるか分からないというのも不便なので、シールドや身体強化にオプションで付帯項目を設定可能だということを解明しました。」

「付帯項目?」

「シールドなら物理・魔法、そして効果時間。身体強化は、効果時間と強化倍率。」

「あっ……。」

「シールドは、耐熱や耐冷気もありそうなのですが、これは調査中です。」

「耐熱まで……。」

「当然ですが、これらを有効にするためには、魔法式を書き変える必要があり、場合によってはナビのプログラムを変えることもやっています。」



【あとがき】

 魔法教室みたいになってきました。

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