第18話 ラップキュロットは男の夢を破壊する
「ジン君、あんなことを言って大丈夫なのかね?」
「まあ、1週間前までは亡命しようか考えていましたからね。」
「ダメですわ!隊長さんが亡命なんかしたら、私たちはどうなるんですか!」
「大丈夫ですよ。みんな実力はあるし、実績もあるんですから、俺がいなくたって活動できているでしょ。」
「それは、隊長さんの所在がはっきりしていたからで、何かあれば2時間くらいで合流してくれるって分かっていたからですわ。」
「確かに、今回の行程でも、絶対に連絡がとれるようにしろって、特務隊長からも念押しされていたよ。」
「それに、海ドラゴンが出たらどうするんですか!私たちだけじゃ、何もできませんよ。」
「あーっ、緯度と経度を連絡くれれば、対応するよ。」
「そういう事じゃありませんわ。今回のことがあって、みんなで話し合いましたの。隊長さんがいなくなったら、みんな軍をやめてサクラさんのところでお世話になるって決めましたのよ。」
「えっ、例の新会社?」
「そうですわ。そのトライスター社で、民間のレスキュー事業を立ち上げようって話があるらしいですわ。」
「へえ、確かにサクラさんのところなら、ナビもエアボも用意できるから、使いこなせる魔法士がいれば事業化できそうだね。」
「じゃ、団長、俺たちは魔法士の方を見学にいきますから。」
「ああ。18時からは全員で先方との食事会だから遅れるなよ。」
「了解です。」
今回同行している魔法士は、二人ともAAクラスで30代の男性だった。
茶髪のイケメンが三枝さんで、黒縁メガネの黒髪七三分けが鳥海さん。
当然、二人ともサヤカさんの元同僚だ。
「如何ですか?」
「あっ、お嬢。」
サヤカさんをお嬢と呼んだのはイケメンの三枝さんで、鳥海さんはサヤカと呼び捨てにしていた。
「それがですね、この国では簡易照準システムが導入されていないんですよ。」
「えっ、それって……。」
「ええ。3軸3ポイントの照準を使っています。しかも、ナビは20年くらい前のもので、MPUの速度も遅いしメモリ容量も少ないんです。」
「まあ!隊長さん、そのナビで簡易照準は導入できませんか?」
「うん、今AIに確認したんだけど、簡易照準自体は短いプログラムだから問題ないと思うけど、外部モニタとの接続が難しいみたいだね。」
「あ、あの、すみません。魔法小隊副隊長の緒方といいます。」
「あ、本部特務隊特殊チームの真藤です。こちらは同じチームの神宮寺さんです。」
「神宮寺紗香と申します。サヤカと呼んでくださいませ。」
「隊の支給品で運用が無理なら、私物のナビに導入はできないでしょうか。私もネットの情報で簡易照準システムは知っていたんですが、この国ではまだ実用化できたシステムがないんです。」
「じゃあ、実物を持ってきてください。確認しますから。」
「桜、どうだい?」
『うーん、そうですね。これならばスマホと連動させて簡易照準システムを組めますよ。』
「桜がシステムを組んでインストできるってこと?」
『はい。接続ケーブルを用意してもらって、スマホの方は赤外線通信をオンにしてもらってください。』
「大丈夫みたいです。AIがシステムを組んでインストール可能だと言っていますが、どうします?」
「ぜ、是非!」
接続ケーブルを用意してもらい、スマホの赤外線通信もオンにしてもらって俺の右腕に接続する。
「えっ?その腕は……。」
「これ、義手なんですよ。AIとナビを内蔵していますので便利なんですよ。」
「うちの隊長さん、AIの桜ちゃんと時々話をするんですよ。独り言みたいで気味が悪いかもしれませんけど我慢してくださいね。」
「サヤカさん、そう思ってたんだ……。」
「もう慣れましたから大丈夫ですわ。」
サヤカさんがニコッと笑った。
数分で緒方さんのナビとスマホに桜の組んだプログラムが転送され、完了が告げられた。
桜の案内で操作方法を説明し、システムを起動してもらった。
「じゃあ、あのペットボトルを凍らせましょう。」
「えっ、あんな小さな標的なんですか?10mも離れてるんですよ。」
「スマホの画面を拡大すれば大丈夫ですよ。」
「こ、こうですか……。」
「そうしたら、ペットボトルの場所をタップして照準を固定してください。」
「はい、やりました。」
「右に出てきたコマンドから、フリーズを選んでください。それだけです。」
「こ、こう……わっ、もう!」
ペットボトルはそれだけで凍り付いていた。
「な、何ですか、こんな簡単な操作で!」
「これが隊長さんの開発された簡易照準システムですわ。」
「えっ、確か開発はオブロン社じゃなかったですか?」
「隊長さんが子供の頃に開発して、オブロンに提供したシステムですわ。」
「今でもまだ純真な15才の青少年だよ。」
「あら?首相に正面切って喧嘩を売る人が純真な青少年だと?」
「……そうだよ。純真だからこそ、理不尽な要求に反発しただけだ。」
「……首相に……喧嘩?」
「ええ。その挙句、先日辞任に追い込まれましたけど。」
「待ってよ。あれは俺のせいじゃないでしょ。」
「いいえ。隊長さんに対する理不尽な扱いに、国民が反発した結果ですからね。」
「まあ、……そうだけど。」
この様子を見ていた他の隊員たちも私物のナビとスマホを持ってきて、簡易照準システムをセットアップしてあげた。
「ありがとうございます。これで、他の隊にバカにされずにすみます。」
「コマンドの水球は、火災に特化した魔法なんですよ。これも隊長さんが開発した魔法で、照準を合わせて実行すると、2mほどの水球が対象物のところで破裂します。」
「えっ、魔法士が火災で出動するんですか?」
「普通の火災で出動することはありませんけど、高層ビルの火災や災害出動がありますわ。エアーボード必須ですけどね。」
「エアーボード?」
サヤカさんは自分の荷物の中から、折り畳み式のエアボを取り出してみんなに見せた。
「これがエアーボードです。飛行可能な魔道具なんですよ。」
「飛行?これが飛ぶんですか!」
「ええ、見ていてくださいね。」
「いや、サヤカさん俺がやりますよ。」
サヤカさんは例のユニフォームだ。短いスカートは飛行には向いていない。
「大丈夫ですわ。隊長さんが不在の間にラップキュロットタイプの新しいユニフォームを作りましたの。」
サヤカさんはスカートの端をつまんでヒラヒラさせている。
いやいや、その悪戯っぽい笑顔はダメですよ。
分かっていても、空を飛べばスカートの奥に意識が行ってしまう……。
「すごいです。ヤマトではこのようなアイテムまで開発されているんですね。」
「いえ。俺たち基地の魔法士に配備されるのはこれからなんですよ。今はまだ、サヤカのいるチームだけなんですけどね。」
「これも隊長さんの開発されたアイテムなんですよ。」
「真藤さんって何者なんですか!」
「うふふっ。隊長さんはヤマト最高の魔法士ですわ。」
「確かにね。真藤君は軍の中から選抜されたチームのトップだし、魔法開発でも他の追随を許さない人だから間違いないよね。」
「他にも我々の知らない魔法とかあるんですか?」
「そうですね、皆さんのシステムに入れたシールドは、物理シールドと魔法シールドの両方を発動するもので、2時間で終了する設定なので常駐しないようにしてあります。」
「えっ、それって……。」
「その分、ほかの魔法を発動できます。例えば、身体強化を発動しておいて、攻撃魔法を使うとかですね。」
【あとがき】
ラップキュロット……反則ですよね。短パンを常時着用するレールガンみたいに……。
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