第17話 周防国(すおうのくに)の女がとんでもない事を言い出した
俺とサヤカさんは、護衛艦に乗船してヒゴの国へ向かう。
行程は大分で防衛軍関係者と懇談し、一泊した後に鉄道で首都熊本へ向かうらしい。
「サヤカさん、ヒゴの人ってどんな感じなの?」
「そうですね、魔法よりも火器や武術に長けた人が多くて、体育会系のイメージが強いですわね。」
「そういう風土なので、ジン君には風当たりが強いかもしれないが、おおめに見てやってくれないか。」
この人は、今回の使節団長坂本准将だ。
普段は岩国基地の副司令として神宮寺司令の直下にいる人だ。
ロマンスグレーというのか、銀髪で身長も高く、細身のわりに鍛え上げた感じがある。
「大丈夫ですよ団長。まあ、外見からしてバカにされそうなのは理解していますし、前総理みたいにあからさまに侮辱されても……多分大丈夫です。」
「うふふっ。隊長さんの実力はご存じないでしょうから、仕方ないのでしょうが、目に余るようでしたら……。」
「おいおい、サヤカ君。親善目的……いや、ヤマトの実力を理解してもらうのが目的だから、まあ、多少は大目にみるがやりすぎないようにな。」
「えっ?」
サヤカさんがやりすぎ?
まあ、魔法のデモなら効果はあるのだろうが……。
大分の港に到着し、バスで防衛軍の基地に移動する。
今回の使節団は、団長と副団長の下に陸・海・空軍の小隊長クラスが3人に、隊員がそれぞれ2名。
特務隊所属の魔法士が2名に俺とサヤカさんだ。
副団長の中川中佐は、主に資材部門の仕事をする机上職だと聞いた。
基地に到着した俺たちは、陸・海・空・魔法士が分散して、視察に行く。
俺とサヤカさんも魔法士に同行しようとしたが、幹部との懇談だといわれ、視察にはいけなかった。
懇談会の席上には、団長と副団長に加えて俺とサヤカさん。
先方は基地司令と陸・海・空の隊長3名が同席し、紹介された。
俺は本部特務隊特殊チームの隊長だと紹介されたが、明らかに場違いな同席者と認識されたようだ。
最初は近況報告の話になり、ヤマト側は直近の海ドラゴン討伐の成果を話した。
「ほう、海ドラゴンの遭遇は、わが国でも50年ほど前に漁船が襲われ、8名が犠牲になったのですが、具体的にはどの態度の脅威になるのですかな?」
「では、実際に対応した真藤隊長から説明させましょう。」
「はい。海ドラゴンは白い体で、外観はティラノサウルスを思わせるもので、体長約30mになります。」
「30mだと!」
「はい。最初の遭遇はザトウクジラと思われる獲物を捕食していました。そのクジラとの対比で約30mと推測しており、その後の遭遇情報からも同等の体長であると報告を受けています。」
「信じられんサイズだな。」
「その皮膚は、耐魔法の構造を持っており、当初は直接的な魔法による照準ができなかったため、周辺の海水を50四方厚さ9mで氷漬けにすることで動きを封じました。」
「50m四方の氷を作る魔法など想像もできないが、ヤマトにはそれほどの魔法士がいるというのかね?」
「そうですね。状況にもよりますが、4名はそれが可能なレベルにあります。」
「それはSS級の魔法士という事かね?」
「一応はそのクラスですが、当然ナビを使いますので、魔法力は関係ないですね。必要なのは魔力量です。」
「信じられん。SS級など、わが国には一人しかおらんというのに……。」
「次に、火器による成果ですが……。」
「待ってくれ!氷漬けにして終わりではないのかね。」
「ああ、氷は3時間ほどで破られました。多少動きは鈍ったようですが、決定打にはなりませんでした。一旦水中に逃れてしまったので、こちらも警戒態勢を敷いて対応しています。」
「指令、このあたりはマスコミでも報道されており、我々も確認しています。」
「そ、そうか。すまない。海ドラゴンが現れて、討伐されたという情報しか確認しておらんのだ。」
「火器については、62口径速射砲で傷をつける程度。地対艦誘導ミサイルで肉を抉ることには成功したのですが、再生能力があり数分で復元してしまいました。」
「では、ミサイルで集中攻撃すれば討伐できるのではないかね?」
「相手が船ならばそれも可能でしょうが、相手は潜ることのできる生物ですよ。とても戦力が揃うまで待ってくれないですね。」
「では、航空機ならいけるのではないかね?」
「スクランブルでも離陸まで5分。500km先の海上まで音速で飛んでも20分以上かかります。わが国でも、氷漬けにしてその間に火力を集めて置き、動きの鈍ったところを集中攻撃する体制は整えていました。」
「うむ。確かに過去の事例で致命的な攻撃を与えたという記録はないのだったな。そんな魔法を放てる魔法士がいなかったとも解釈できるが……。」
「補足ですが、潜水艦は相手になりません。水中を自由に動ける相手に、魚雷程度しか攻撃手段を持たないのでは自殺行為と言えます。」
「海ドラゴンの攻撃手段は?」
「爪による攻撃で、潜水艦の装甲を切り裂かれました。海上では、2000度近くの熱波を吐き出します。」
「熱波だと!」
「護衛艦の装甲を溶かす程度には強力な攻撃ですね。一度しか受けていないので、詳細は不明ですが、少なくとも100m以上の射程だと思われます。」
「ああ、確かにどこかの島が焼き払われた記録が残っていたな。」
「ここからが本題です。ヤマトでの調査の結果、耐魔法能力は外皮によるもので、少なくとも口の中であれば魔法攻撃も有効であると確認できました。」
「では、通常兵器による攻撃も効くのだな?」
「それは未確認ですが、動く敵に対して効果的な一撃を叩き込めるのか、不安はありますね。よほど近距離から攻撃できれば可能かもしれませんが。」
「やはり、魔法なのかね。」
「機密事項なので詳細は明かせませんが、口の中を照準して、5000度に加熱することで大きな効果を得ています。その傷口に繰り返し魔法を発動したことで首から上を消失させることに成功しています。多分、動画でご覧になった方もおられると思いますが。」
「ああ、私も拝見した。あれは、そういう魔法攻撃だったのだな……。」
「私も見たが、ミサイルなどは見えないのに、頭が次々に破壊されていった。これで合点がいったよ。」
「だが、ネットでは、あれを撮影した艦に、そういう能力を持った魔法士は乗艦していなかったという情報が書き込まれていた……。」
「申し訳ございませんが、これ以上はお答えできません。」
「詳細事項は私にも知らされておりません。基地司令も同様です。この件を知っているのは、総理と防衛大臣、それに特務隊特殊チームの真藤隊長程度だと聞いております。」
「では、もし我が国に海ドラゴンが現れ、対処できなくなった場合には、応援要請に応じてもらえるのでしょうか。」
「できる限りの応援は約束いたしますが、最終的には総理の判断になると思います。」
「ありがとうございます。ヤマト国のご理解に感謝いたします。」
「隊長さん、それでいいんですか?」
サヤカさんがこっそり耳打ちしてきた。
なんだか、ゾクッとくる声だった。
まあ、そうだよな。
「えっと、これはオフレコでお願いします。」
「はいっ?」
「僕自身は、うちのチームの能力を政治的な道具にしたくはありません。」
「ジ、ジン君、何を言って……。」
「もし、緊急で対応の必要な事態に陥った場合は、防衛大臣と僕にも連絡をください。」
「そ、それは……。」
「半島ならともかく、同じ民族じゃないですか。判断が遅れて被害が出るようなら、僕個人で支援しますよ。」
「だ、だが、君一人では……。」
「あら、うちのチームは隊長一人ではありませんわ。」
「サ、サヤカさん……。」
「組織的な指示がない場合は、チームで判断して行動することが認められておりますの。つまり、隊長さんの判断で動けますのよ。」
【あとがき】
い、いいのか、これ……。
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