第16話 海ドラゴンは5000度に耐えられるのか

 これまでの目撃例から、海ドラゴンの進行速度は時速50km程度と推測された。

 これに対して、潜水艦の最高速度は時速40kmを下回る。

 攻撃手段の少ない潜水艦にとって、海ドラゴンは強力すぎる相手だと判断され、警戒エリアから潜水艦は排除された。


 哨戒機や戦闘機が毎日のように警戒エリアを飛び回り、対策本部を中心として対抗策の検討が続いている。

 俺も、初期対応車として防衛庁内の会議には参加している。


「ジン君のやった50m四方の凍結で3時間程度海ドラゴンの封じ込めには成功しているんだ。あれを実現できる魔法士はどれくらいいるんだね?」

「あれは、3軸を使った3D昇順で、なおかつ相当量の魔力が必要です。チーム内でいえば3名程度ですね。」

「だが、地対艦誘導弾でも肉を抉る程度だったんだ。」

「より高火力なミサイルを使うには、地上発射型か専用のミサイル巡洋艦を使う必要がありますね。」

「遠方からの発射では、海に潜られてしまうだろう。そんなに近づけるのかね?」

「ですから、氷で封じ込めている間に近づき、氷から出てきたところを狙うしかないでしょうね。」

「だが、ジン君の名前を出す訳にはいかないだろう。指名手配されていないろはいえ、犯罪者としての嫌疑がかかっているんだぞ。」

「あの、ちょっといいですか。」

「何だね、ジン君。」

「僕としては、海ドラゴンの魔法耐性がシールドによるものなのか、外皮によるものなのか確かめてみたいんですが。」

「何か、意味があるのかね?」

「シールドだった場合、外側の凍結か海水を高温で沸騰させるしか手段はないと思うんですが、外皮の場合は口の中とか目とかに耐性のない場所があると思うんです。」

「……、魔法耐性に穴があったら、そこをピンポイントで狙えるというのかね。」

「ええ。海ドラゴンは2000度くらいの熱をはきますから、その程度の耐熱能力はあると思うんです。では、その口を5000度で過熱してやったらどうなるか?」

「あるいは、口を直接凍らせるとかか。」

「はい。出現時の情報が入れば、LRSで25キロ以内にいるメンバーなら探れますし、俺ならどこからでも探れます。場所を特定してくれるサポートがあれば可能だと思います。」

「……本部には、氷漬けの作戦だけ提案して、耐性を探るのは防衛庁で独自にやればいいんだな。」

「はい。そうしてもらえると助かります。」


 こうして俺は、岩国基地の指令本部に常駐することとなった。

 24時間体制で、仮眠は隣の部屋に簡易ベッドを用意してもらい、食事も運んでもらう。

 大気中はワールドレンジサーチWRSの練習をしているので暇な時間はなかった。

 そして、海ドラゴン遭遇の連絡は4日目の15時に入った。


「こちら護衛艦アララギ、北緯32度58分、東経139度24分にて海ドラゴン発見。目標まで距離約3キロ。」


 艦からの無線情報を、補佐についてくれた西村さんが地図で表示してくれた。


「八丈島の西南西、約36km地点です。」

「ありがとう。」


 すぐにサーチを起動し、およその場所を拡大していく。

 

「アララギらしい船影を確認……その先に海ドラゴンらしき影を発見。拡大します。」


 影の頭部らしい位置を拡大していく。


「桜、ファイヤーの温度を5000度に設定。」

『5000度に設定完了。』

「”ロック””ファイヤー”!」


「こちらアララギ、海ドラゴンの鼻先で爆発を確認。鼻から口にかけて吹き飛んだようだが、再生が始まっている!」


 大きくなったターゲットを再びロックしてファイヤーを発動。

 これを3回ほど繰り返すと、反応は消えた。

 この前の打ち合わせの際、照準可能となったらそのまま魔法で攻撃することで了解は得ている。


「こちらアララギ。海ドラゴンの首から上は完全に消失!再生している様子はありません。体も浮いてきませんが、引き続き監視を継続します。」

「こちら対策本部。何があったというのだ。」

「ソナーで確認。体は沈んでいきますが、完全に静止状態。討伐されたものと判断します。」


 無線の中に、やった!とかすげえ!とかいう声が混ざっている。


「アララギ、何があったのか報告しろ!討伐とはどういう事だ!」

「こちらアララギ。着弾の様子はありませんでしたので、魔法による攻撃ではないかと推察されます。」

「魔法だと?近くに特務隊の魔法士がいるのか?」

「いえ、当艦に特務隊の魔法士は乗艦しておりませんし、周辺に艦影は見当たりません。おそらくは未知の魔法かと思われます。」

「画像はないのか!」

「記録画像がありますので、防衛庁のサーバーに送ります。」


 この時、たまたま本部から中継していたTV局があり、一部始終が放送されてしまった。

 そこには、討伐の瞬間ガッツポーズをした防衛大臣の「ヨシッ!」という声も入っており、視聴者は防衛庁が何かをしたのだろうと察してしまった。

 そしてインタビュアーは防衛大臣にマイクを向けた。


「只今、海ドラゴンが討伐されたと護衛艦から情報が入りました。本部は情報を掴めていないようですが、これは防衛庁が攻撃を行ったと考えてよろしいのでしょうか?」

「……そうですね。これは、総理と私と数名しか知らない機密事項ですので、申し訳ないが詳しくは申し上げられません。」

「では、今回の指示は総理から出されたと?」

「とんでもない。それどころか、親コークリ派の総理はこの力を恐れ、その功労者を国務大臣に命じて逮捕させようとしています。」

「えっ、ヤマトの危機を救った方を逮捕ですか?」

「ええ。でも、ご安心ください。法務局は逮捕状の申請を却下していますから。」

「犯罪者なのですか?」

「総理がそう叫んでいるだけですよ。ああ、国務大臣も同意しているのかな?」

「何だか難しい話ですが、とりあえずヤマトは救われたと考えていいんですね?」

「ヤマトの護りは、防衛庁お任せください。今回も、そして今後もです。」


 このインタビューがきっかけで、総理の退任を求めるデモが各地でおき、総理は入院中のまま辞任した。

 民友党は急遽総裁選を行い、別の派閥から新総裁が選ばれ、総理大臣を拝命した。

 同時に国務大臣も辞任し、俺の逮捕命令は完全に撤回された。


「どうする、東京に戻るかね?」

「いえ、予定通りヒゴに行きますよ。」

「そうか、明後日には紗香が来るから、合流したらヒゴに向かってくれたまえ。」

「あっ、サヤカさんに決まったんですね。」

「ああ。一か月も一緒なんだ。手を出してくれてもいいぞ。というか、是非手を出してくれ。君なら娘を任せられる。」

「うーん、僕まだ15才なんですけど。」

「大丈夫だ。入籍なしの事実婚でいいじゃないか。」


 大丈夫なのか、このおっさん……。


 そして二日後、サヤカさんがやってきた。


「隊長さん、おめでとうございます。」

「ああ、君たちにも心配かけたね。ありがとう。」

「でも、どうやって海ドラゴンを倒したんですか?」

「口の中を5000度であぶってやっただけだよ。」

「その辺は私もわかりますわよ。でも、ここから現地まで600km近くありましてよ。」

「そうなんだよ。長距離射程のHRSハイレンジサーチっていうのを開発したんだけど、それでも届かなくてさ、WRSワールドレンジサーチっていう練習中の魔法を使っちゃったよ。」

「HRSって、探査範囲が500kmだと噂になっている新魔法ですよね。まさかWRSって……。」

「まあ、想像に任せるよ。」



【あとがき】

 Gマイナスみたいなイメージになってしまったか……。

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