第15話 魔生物、海ドラゴンはGではないのか?

 小型といっても、50m以上ある船だった。

 魔物討伐とはいっても、さすがに瀬戸内海で実弾射撃はできない。

 そのため、今回はゴーグル型照準器を備えた魔法士が5名乗船している。

 

「まさか、ナビなしで魔法を発動するなんて……。」

「昔のの魔法使いは、ナビなんて持っていませんでしたよ。」

「でも、その頃の魔法は、威力も精度も今とは比べ物にならない、レベルの低いものだったと……。」

「そうですね。でも、少なくともナビなしで魔法発動はできると信じるところから始めてください。」

「次は何をしたらいいんですか?」


 俺は、甲板で魔法士たちに簡単なレクチャーを行っていた。


「位置についてくれ。ここから魔物の出現エリアだ。」


 小隊長の声かけで、みんな持ち場についた。

 船首に等間隔で並んで魔物に備える。

 俺は無重力を生み出す”レビテーション”で浮かび上がり、手から噴出する風魔法を操って船外へ飛び出した。

 当然、シールドを展開して、風よけのヘルメットにゴーグル、マントを貸してもらい装備している。


 聞いている魔物は、ウミヘビ型のシーサーペントやサーベルフィッシュ、それと海坊主等だという。

 瀬戸内海にはサメも出没するので、それも討伐対象だった。


 俺は、船の50mほど前方を飛び、目についた魔物を”フリーズ”で凍らせていく。

 シーサーペントは10m程のサイズで、縦に波打つように泳いでいる。

 そのため、海面を泳ぐ時には3から4つのコブが現れる。

 これに巻きつかれて破壊された小型の漁船がいるらしい。


 サーベルフィッシュは、4mほどの魚型魔物で、その鋭いくちばしで船底に穴をあけられてしまう。

 海坊主はクラゲ型の魔物で、触手で魚を捕まえる大食漢だという。


 ほかにもテンタクルズというタコ型の魔物も討伐対象だが、俺が見つけたのはシザークラブというタラバガニのような魔物だ。

 こいつは、強力なハサミで生け簀の網を切り裂き、中で養殖中のマダイやハマチなどを食い散らかすという迷惑なカニだ。

 だが、その身は美味であり、3mの巨体ではあるが死骸を持ち帰りたいらしい。

 俺はそいつにもレビテーションをかけて浮き上がらせ、フリーズさせて船に運んでやる。

 船員たちは大喜びである。


 

 そして、瀬戸内海から和歌山湾を抜けて太平洋に出た辺りにそいつが現れた。

 体長約30m。白い体に赤い口。

 トカゲ型のそいつは、クジラを貪っていた。

 海面がクジラの血で真っ赤に染まっている。


「桜、何だあいつは?」

『過去の記録と照合しましたが、おそたく”海ドラゴン”と呼ばれる魔物だと思われます。』

「海ドラゴン?」

『水陸両生魔生物ともいわれていますが、詳しく分かってはいません。』

「じゃあ、とりあえず狩っておこうか。”ロック”……なんだ……照準が効かない?」

『ご主人様、記録でも魔法の効果は低いとされています。』

「低いというよりも、シールドなのか体自体が魔法耐性を持っているのか確認が必要だね。桜、船に連絡して。」

『はい、ご主人様。』


「艦長、ジンです。現在、艦の50m先で海ドラゴンと思われる魔物と遭遇。魔法は効かないようです。」

「う、海ドラゴンだと……確かなのかね?」

「僕も初めて見たので確実ではありませんが、恐竜のようなフォルムで体色は白、推定30mの巨体。ほかに該当する生物はいないと思います。」

「分かった、応援を要請する。この艦には20mmしか積んでいないからな。」

「それで、魔法の直撃はダメなんですが、周辺を凍らせたり加熱を試していいですか?」

「許可する。無理はしないようにな。」

「了解。」


「桜、照準を3軸に切り替えてくれ。」

『承知いたしました。……切り替え完了です。』

「まずは、50m四方を15mの厚さで凍らせてやる。”ロック””フリーズ”!どうだ!」


 流石に魔力をそれなりに持っていかれた感じがある。

 だが、その甲斐もあって目の前に巨大な氷の塊が浮いている。


「こちらジンです。」

「どうだ?」

「一応、50mの氷に閉じ込めましたが、死んだかどうかは観察が必要だと思います。」

「わかった。申し訳ないが少ししたら駆逐艦”はやて”と”すばる”が来るので、それまで監視を頼む。」

「了解。」


 氷に異変は見られないが、いつ氷を破って海ドラゴンが姿を表すかわからない。

 桜によれば、炎系のブレスのような攻撃を放ったという情報もあった。

 30分後、駆逐艦搭載のヘリが現れたため、帰艦指示があり船に戻った。


 帰路も魔物を駆除して戻ったのだが、政府は海ドラゴン特別対策本部を設置し、防衛庁から指揮権を移譲されたという。


 そして3時間後、海ドラゴンは表面の氷を破って姿をあらわした。

 氷の中に閉じ込められていたせいか、動きはゆっくりだったという。

 10分ほどかけて氷から脱出し、海に姿を消すヘリからの映像が短縮版で公開され、危機は去ったとの報道があった。


 そして深夜になって、この動画の音声付き古バージョンがネットで公開されてしまった。

 動画は匿名による投稿であったが、そのなかで攻撃の許可を求める乗員の声が何度も繰り返され、待機せよという対策本部からの回答も同じだけ繰り返されていた。

 この動画は夜の間に5千万回以上再生され、翌朝からなぜ攻撃指示を出さなかったのかという批判の声が殺到した。

 マスコミからの追及に対し、第一声は動画が捏造されたものと公表されたが、無線を傍聴したらしい音声データが複数公開されると、対策本部は検討に時間を要したと認めた。

 だが、その時間に総理が会食を行っていたことが某放送局により暴露されると、今度は防衛庁の初期応動が悪かったと主張しはじめた。

 これに対し、防衛庁は初期応動としての凍結処理は極めて妥当な判断であり、政府への報告も迅速に行われたと主張。

 そして、巡洋艦からも攻撃許可の要請を行っていたが、対策本部に残っていたのは主要メンバーは防衛大臣以下数名であり、指揮権を持った首相とはその時間帯に連絡が取れず、独断で行動することができなかったと表明した。


 世論は完全に反首相に回った。

 TV局は、軍事評論家や大学教授の見解を放送し、反論の余地がなくなった首相は、代行権を副総裁に移譲して体調不良を理由に入院した。

 防衛庁は対策本部の指示で、海ドラゴンに対して、東海から近畿・土佐エリアに艦艇を動員して警戒強化にあたった。

 紀伊半島沖や八丈島近海で目撃情報が寄せられたが、なかなか海面に姿を現すことはなかったのだが、神津島沖で2度目の遭遇があった。

 

 2月15日、14時05分、護衛艦「つくも」は、シーサーペントを捕食する海ドラゴンと遭遇した。

 距離168m、水上に出た頭部目掛け、62口径速射砲による攻撃を開始。多少傷つけることはできたが、海ドラゴンの修復能力により、すぐに傷がふさがってしまった。

 これにより砲による攻撃を断念し、地対艦誘導弾を発射。頭部に着弾し肉を抉るもこれも回復されてしまう。

 そして、魚雷発射準備中に海ドラゴンから発せられた熱波により艦首を損傷。

 後に確認したところでは、推定温度1600度の熱により一部外装および機器類が5mの範囲で溶解していた。

 海ドラゴンは再び海中に姿を消した。


 3度目の遭遇は、潜水艦であった。

 八丈島の東、伊豆・小笠原海溝付近、深度200mで海ドラゴンに遭遇した潜水艦「あきしま」は、魚雷3発を発射するも回避され、そのまま爪による攻撃を受けて浮上を試みるも、船尾を破壊され航行不能に陥ってしまった。

 艦は緊急浮上システムによりメインバラストタンクに圧縮空気が送り込まれ、浮上を始めた「あきしま」だったが、海ドラゴンはそれを許さず、船体を何度も切り裂いて沈没させてしまった。



【あとがき】

 そういえば、ゴジラでも対潜水艦はなかったような……。

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