第14話 警察がやってきて俺を逮捕するらしい
翌朝、俺はマリさんの元に出向いた。
機密事項なので、特別室を使う。
「それで、LRSの拡張版という話だったけど、今度は何をやってくれたの?」
「ハイレンジサーチという、半径500kmを対象とした探査魔法を考案しました。」
「それが、淡路島だというのね。」
「はい。照準を試して成功したので、ついフリーズを撃ってしまいました。」
「ちょっと待って。LRSの射程が25kmだったわよね。」
「はい。」
「それが何で500kmなんていう数字になるの?」
「エゾの網走からエトロフ迄網羅するには、500kmが必要なんです。」
「……そりゃあね、必要なのは分かるわよ。でもそれは、軍として対応の必要なエリアで、うちのチームが考えるレベルじゃないでしょ。」
「えっ、何を言ってるんですか?」
「これ以上、チームの負担を増やすなって言ってるのよ。」
「チームの負担?」
「ただでさえ、うちのチームは他の小隊から嫌味をいわれてるのよ。いえ、防衛軍全体からよ。だから、これ以上目立ちたくないのよ。なんでそれが分からないの!」
マリさんには、このチームの総括は荷が重かったのだろう。
特務隊隊長に言って、少し静養したほうがいいと進言しておいた。
「でも、マリさんの感じた通り、チームのメンバーにこの負担はかけない方がいいのかもしれません。」
「確かに、この情報が広まるのは避けたいな。首相と大臣と軍指令と私、この範囲に留めておくか。」
「そうですね。山口まで行けば半島の半分が射程に入ります。そんな情報が流れたら、チームのメンバー全員が暗殺の対象になりかねません。」
「そうだな。何の動きも見せない状態で、大統領官邸を爆発炎上させられる能力だからな。」
「いわれてみれば、俺って超危険人物じゃないですか。」
「今更だろ。」
「ヤマト内部で消されるかもしれませんね。」
「まあ、否定はしないよ。ところで、これってエリアを広げることもできそうだよね。」
「そうですね。日本を中心とした地球の面で考えると、中東くらいまでいけると思いますね。」
俺は、首相と大臣を前にしてデモを行った。
大阪の基地内にビニルプールを置き、監視カメラでモニターしながら一瞬で凍らせてみせた。
「以前見せてもらった房総沖の火柱……、あれが500km以内ならいくらでも再現できると考えていいのかね。」
「さすがにあれを試すことはできませんけど、戦艦一隻くらいならいつでもいけると思いますよ。」
「だが、魔法シールドを張られたら、手を出せないのではないかね。」
「シールドの外側を3分くらい加熱すれば、人間は耐えられないと思うんですけどね。」
「首相、魔法の直撃ができなくても、外部からの熱は防げないはずです。」
「例えば、この建物の周辺を2000度で3分加熱したらどうなるかということかね。」
「地下3mくらいから発動すれば、水や通信線・電源などは全滅。ガラスや外壁は溶け出して内部も数百度の地獄になると思います。」
「えっと、どうでもいいんですけど、これを考えたのは、エゾに対するシベリアからの侵略に備えるためです。間違っても侵略目的じゃないですからね。」
「ジン君、それは我々も承知しているよ。これは、自国の戦力を確認しているだけだから、誤解しないでくれたまえ。」
「大臣、いい加減にしたまえ。15のガキの機嫌をうかがうなど馬鹿げている。この国を動かしているのは我々なんだぞ!」
「首相おやめください。彼がどれだけ国に貢献してくれているのかをお考え下さい。」
大臣と首相の言い合いが続いているが俺にはどうでもいい。
「俺は別にいいですよ。ただ、この人の下では働きたくないって思っただけなんですから。」
「ふん、役に立たないのならナビを取り上げて牢にでも入れておけ!」
異変がおきたのは3日後だった。
「隊長さん、マリさんのところに警察が来ています。」
「警察?」
「隊員が耳にしたところでは、国家反逆罪で隊長の逮捕命令が出ていると。」
「なぜ?」
「理由は不明ですが、一旦どこかに避難してください。状況が確認できましたら連絡いたしますので。」
俺は、さやかさんが用意してくれた装備を持ってメンバーの一人、八神君の運転するSUVに乗り込んだ。
隊の車両ではなく、個人所有の車だ。
車は、東名高速を名古屋方面に向かって走る。
途中で入った情報によれば、首相の指示により警察へ逮捕命令が出たらしいのだが、閣僚の間ではまだ意見が割れているらしい。
防衛大臣と魔法大臣は俺を擁護してくれたらしい。
警察を所管する国務大臣は首相を支持しており、それが今回の逮捕請求へとつながっているようだ。
ただし、逮捕状の発行は法務局が行うが、法務大臣は現在のところ中立であり、許可は出ていないという。
俺たちは東名高速を厚木で降りて、厚木基地へ入った。
基地内へは警察も無許可で立ち入りできない。
そして俺は、防衛大臣の指示で岩国基地に飛んだ。
俺を運んでくれたのは、海難捜索機と呼ばれる垂直離着陸機で、時速600kmで飛行できるため、岩国までなら1時間半で到着できた。
到着といっても、基地上空で減速してもらいそのままエアボで飛び降りただけだ。
俺はパーロットとクルーに礼を言って飛び降りた。
俺を運んだ記録は残らない。
その間に、防衛大臣が罷免された。
だが、防衛軍の体制が揺らぐことはなかった。
「久しぶりだねジン君。」
「あっ、神宮寺さんご無沙汰しています。」
「さやかはどうだね。少しは役にたっているのかな?」
「当然じゃないですか。全国から僕が選んだ10人ですよ。僕がトークリに拉致された時も助けにきてくれましたし、災害でも大活躍ですよ。」
「親としては、早いとこ嫁に行って孫の顔を見せてほしいところなんだがね。」
「いやあ、全国にファンも多いですからね、本人がその気にならないと難しいかもしれません。」
「まあ、もうしばらく好きにさせておくか……。ところで、またとんでもないものを実現させたそうだね。」
「首相が大騒ぎしなければ、機密情報だったんですけどね。」
「まあ、その程度の男だったというわけだ。それで500kmというのは事実なのかい?」
「はい、現状では。」
「くっ、先があるんだね。500kmでも、ここから半島の半分は射程に入るというのに。」
「まあ、この力が抑止力になるのであれば、いくらでも努力しますよ。」
「そうだね。我々防衛軍としては、その力がどれほど心強いものなのか理解している。」
「そして、ぼくたちに戦争の意思はないとアピールしていかなくっちゃいけない。」
「そのうえで、基地司令として頼みがあるんだがね。」
「何でしょう?」
「使節団の一人として、ヒゴに行ってほしい。」
「ヒゴにですか?」
「ああ、併合の話がまとまりかけているのだが、もう一つ決め手が欲しいのだ。」
「……魔法の指導ということですか。」
「期間は一か月。うちの特務隊13名一緒にだ。それと、君のチームにも応援を頼んでいる。10日後に派遣してくれるから、到着したら出発する予定だ。」
「わかりました。」
「10日間は、基地の中で好きにしてもらっていい。」
基地の中で、ワールドレンジサーチWRSを練習していたら、海軍が魔物の討伐に出るというので、同行させてもらった。
多用途支援艦という小型の船で、20mm機関砲を備えている。
俺は、魔法士として乗艦させてもらった。
【あとがき】
海の魔物。クラーケンとかシーサーペントですね。
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