第13話 魔法というのは人間の想像力が生み出したものだった

 チームのメンバーは20代と30代に別れる。

 特に意識したわけではないが、女性も3人在籍している。


 俺は、その3人に囲まれていた。


「ねえ隊長。」

「はい。」

「私たちは三人とも軍から引っ張ってもらったんだら、訓練については文句言いません。当然のことですから。」

「はい。」

「隊長さんにいわれたナビなしでの魔法も訓練していますわ。」

「ありがとうございます。」

「でも、このバトルスーツはありえないと思いませんか?」

「はあ……。」

「下着がもろに透けちゃってるよな。なあボス、これでブラなしだとどうなると思う?」

「隊長さんが望むなら、私は喜んでお見せしますわ。」

「えっと、14才の中坊には刺激が強すぎますね。」


 隊長と呼んでくるのは、三沢基地でスカウトした立木リサさん。

 色白の黒髪美人さんだ。

 背中までのストレートヘアを背中でまとめている、和服の似合いそうな女性だ。


 ボスと言ってきているのは吉川ステラ。

 ブラジル人の母親をもつ褐色のラテン系美女だ。

 青地に白いメッシュの入ったショートボブはスポーティーなボディとあわせて引き締まった印象を与える。


 そしてもう一人は、岩国基地からスカウトしてきた神宮寺紗香(さやか)さん。

 立木さんと対をなす黒髪美人だ。

 セミロングのストレートヘアは、姫と呼びたくなる優雅さを醸し出している。

 ボディラインがはっきりわかるバトルスーツは、健全な青少年の妄想を刺激する。

 

 三人とも165cm前後の身長で25才前後。

 チームのアイドルとして人気も高い。

 

「それで、具体的にはどういったユニフォームをお望みですか?」

「はい、3人でデザインを考えてきましたの。」


 サヤカさんがタブレットで提示してきたのは、白いブラウスに緑地チェックのベストと同色のミニスカート。

 ニーハイにスニーカーという……。


「えっと、どこのアイドルを目指しているんですか?」

「ほら、多少は男どもの欲求を満たしてやらないとよ。」

「これなら、隊長と並んで歩いても違和感ありませんでしょ。」

「確かに3人とも童顔ですから、この衣装でも耐えられると思いますけど……。」

「これが通るのであれば、PR動画もお引き受けしたいと考えておりますの。」

「はあ、分かりました。開発チームで仕様を考えてもらいますよ。」

「「「ありがとうございますぅ」」」

「でもなあ……。」

「問題でもあるのか?」

「簡単な移動用に、キックボード型の魔道具を考えているんですけど、ミニスカートじゃ乗れないだろうなって。」

「あら、それくらいなら大丈夫ですの。」

「そうですね。チラリ程度ならサービスいたしますわ。」


 こうして、女性隊員の新ユニフォームが採用された。

 それに伴い、軍の中でファンクラブが結成されたとも聞いたが、真相はわからない……。

 そして、特務隊のプロモーションビデオが撮影され、一般に公開された。

 新規で導入された滑空型キックボードを操る彼女たちの姿は、絶妙に下着が映らないよう撮影・編集されており、イマジネーションを掻き立てられた青少年の見学希望者が爆増したらしい。


 これに対抗心を燃やしてしまったのが、ほかの2チームの女性スタッフ。いわゆる机上組の5人で、年齢の幅も広いのだが、こちらは研究者をテーマにした特別仕様の白衣を要求してきた。

 これには、質感の違う白糸で刺繍が背中に大きく入っており、”我はヤマトの護り女也”という……まあ、意味と意気込みは理解できるが……。


 滑空型キックボード、略称エアボは、地上10mの位置を時速50kmで飛行することが可能で、飛行中のヘリから使えば、緩やかに高度10mまで降りてくることができる。

 ヘリから船へ、着艦エリアがなくても降下できるのは便利なのだ。

 それに、空中で静止することも可能だし、緊急時にはリミッターを解除して、10mより上でも飛行できる。

 最大200kgまでの重量にも対応しているので、詰めれば二人同乗することもできる。

 

 これにより、海難救助や雪山の捜索。高層ビルの火災対応も可能になってきた。


「隊長、激務っすよぉ。」

「うん、今エアボ専用のナビを開発してもらってる。それが完成したら、各基地に5台配備してもらうから、あと一か月お願いしますよ。」

「へえ、いよいよエアボを他の部隊へ展開するんですね。」

「ナビと込みで一式500万円だから、自治体からレスキューに導入したいって希望も届いてる。」

「第三セクターの新会社も儲かってますね。」

「500万か、俺も車やめてエアボにしようかな。」

「民間に売るわけないでしょ。街中であんなのが飛び回ってたら邪魔でしょうがない。」



 そんな中、政府はエゾの併合を発表した。

 エゾ暫定政府代表は、併合に踏み切った理由として、シベリアの脅威と特務隊の存在が大きいと発表した。

 

 防衛庁は早速部隊を編成して、網走と稚内に国防軍の基地を建設した。

 そして俺たちのチームも半数が視察に訪れている。


「やっぱり北は寒いですわね。」

「私のいた三沢よりも、更に寒いとは思いませんでした。

「あの半島の先に四つの島があるのですが、エゾ攻略の足がかりとして、シベリアはこの島を狙っているようなのです。」


 説明してくれるのは、元エゾ守備隊のアグリさんだ。

 現在は防衛庁に併合され、基地の副司令官として任務にあたっているらしい。


「稚内はともかく、ここから離島を防衛するのは難しそうですね。」

「そうなのです。エトロフには100名駐留させているのですが、とても100名で守り切れる範囲ではなく、攻勢を仕掛けられたらどうしたら良いのかと。」

「ここと稚内が、シベリアに対する最前線だとすれば、LRSを使える隊員を配置したいところなんですが、本隊からあまりにも遠すぎますね。」

「何か効果的な策はないでしょうか?」


 東京に戻って考えてみた。


「なあ桜。魔法って、最初から存在しているものじゃなくて、人間がイメージして作り上げてきたものだよな。」

『まあ、そう解釈していいと思います。』

「じゃあさ、LRSを超える範囲の探査魔法が存在してもいいはずだよな。」

『ま、まさか、魔法を作る気じゃないですよね……。』

「そう。区切りのいいところで、半径500kmを探査する、ハイレンジサーチHRSをプログラムしてみてよ。」

『そんな広範囲に広げたら、途方もない魔力を消費しちゃうんじゃないですか?』

「まあ、やってみないとね。」


 北に500kmだと青森と秋田の県境あたりで、南西なら淡路島を網羅するエリアになる。

 最初に表示させるレイヤーは、精度は必要ない。地形が分かればいいのだ。


『用意できました。』

「じゃあ、やってみようかね”HRS”!……うん、魔力を持っていかれそうな感じはある。」


 いつものように繰り返し”HRS”を唱えていると、2時間ほどで、発動を確認できた。

 そして意識を淡路島と大阪の間付近に集中していくと船舶まで確認できた。


「桜、照準を起動して。」

『はい。』


 俺は小島に生えていた木に意識を集中した。


「”ロック””フリーズ”!」

『あっ!』

「あっ!集中してたから、思わず発動しちゃったよ。」


 その夜のニュースで、小豆島付近の小島で、オリーブの木が凍り付いているのが発見されたと報道していた。

 俺はチームを総括するマリさんに事情を話し、対処をお願いした。



【あとがき】

 ハイレンジサーチ。

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