第二章
第12話 白ブリーフは、とてもセクシーです……といわれた
俺は誘拐されてしまった。
敵はおそらくコークリ国だと思うが、今のところ確証はない。
現状は、推測だが東京港から中南米に向かう貨物船の中で、出港後24時間といったところか。
東京港を出入りする船は、1日100隻ほどだと防衛庁の研修の中で聞いた覚えがある。
俺からの信号が途絶えた時点で、オブロンも防衛庁も監視を強化しているはずなので、多分この船も監視下におかれているはずだ。
義手には通信ユニットを内蔵させてあり、俺の服や下着・靴にも通信用チップが組み込まれていたはずだ。
今の俺は、見覚えのない下着だけなので、早い段階で衣類は脱がされたのだろう。
おそらく、眠らされた直後と推測できる。
そして同じタイミングで義手も外され、電波遮断の保管庫に入れられ持ち出されたと推測できる。
出港後24時間程度なら、この船は八丈島くらいの位置だ。
当然、敵側も目立った動きはできないだろう。
動きがあるとすれば、明日以降だろう。
「どうかね、パスコードを渡す気になったかね?」
「だから、しらないって言ってるだろ!」
「今ならば、私の権限で君を解放することもできるのだがね。」
「もし、オジサンが独断でそんなことをしたら、どれだけの制裁が下されるか分かってるつもりだよ。そういう無駄な駆け引きはやめようよ。」
「まあ、一応防衛庁の教育を受けている軍人ってところか。」
「そうだね。お互いに手詰まりってところかな。」
「ふう。家族はおろか肉親はいないし、仲の良い異性といっても、赤坂リン程度だしね。」
「まあ、弱点にはなりえないよね。さすがに目の前で殺すとか脅されたら考えるけど。」
「五条サクラあたりはどうかね?」
「五条?ああサクラさんって、そういう苗字なんだ。」
「効果は薄そうだね。」
その時、ドゴンという小さくもない爆発音が響き渡った。
山岸氏が無線端末に怒鳴る。
「どうした!」
「それが、発電機室で爆発があったもようです。」
「攻撃か?」
「現在調査中で詳細は不明です。」
「わかり次第報告しろ。」
「あーあ、電気系統をやられちゃったら、もう動けないよね、この船。バッテリーを使っても、節約して1時間。」
再び小さな爆発音。
「今度はなんだ?」
「……。」
「バッテリーがやられたら、電源系統は全滅だね。無線も使えないし、自力航行もできないとなったら、海軍も強制立ち入りの口実ができるからね。」
「どういうことだ?」
「シミュレーション通りだなと思って。
「シミュレーションだと?まさか……。」
「はい、ここで質問です。僕の義手と最新戦闘機5機。国家予算を使うならどっちを買いますか?」
「馬鹿な!そんな情報は一切入ってきていないぞ!」
「まあ、そういうことです。さて、義手を返してもらいましょうか?」
「ふざけるな!他国の貨物船を攻撃するなど、国際問題になるぞ!」
「ところがですね。外部からの攻撃じゃなくて、内部で発生した爆発なんですよね。」
「それは……。」
「第三者視点で見ると、不振なのは内部で爆発事故を起こした貨物船であって、領海内でそのような事故があれば、ヤマトによる強制立ち入りは当然の対応なんですね。」
「うぐっ。」
「さて、義手を返していただきましょうか。」
「いやあ、仮想敵国をコークリにしてシミュレートしたケース2そのまんまでしたね。」
「ホント、戦略チームは優秀ですね。ドンピシャなんだから。」
「でも、隊長の下着姿……白のブリーフと白の半袖って、ホントにセクシーでしたわ。」
「やめてくださいよ。ホントにあいつらセンスないんだから……。それと、俺を隊長と呼ぶのはやめてくださいって、何度もお願いしましたよね。」
「じゃあ、ボス?」
「俺は、皆さんと同格の隊員です!」
「いやいや、隊長が集めたメンバーなんだから、仕方ないっしょ。」
ヘルメット型のナビシステムに、ゴーグル型照準機能を組み込んだうえ、AIを連動させたツールを開発させたのは、確かに俺だ。
スクリーンの視線操作の技術に優れていたのは三ツ星だったため、オブロンと三ツ星と防衛庁で第三セクターの事業体を立ち上げ、サクラさんに代表としておさまってもらった。
そして、全国の基地をまわりながら俺がスカウトした隊員10名をチームとして立ち上げ、国防軍特務隊に配置してもらった。
戦略チームやシステム開発チームも特務隊の中にあり、そこもうちと同じように階級はなく、全員がフラットな関係になっている。
必要があれば、チームを超えたユニットを結成し、独自のテーマで検討することもできるようにした。
この3チームを統括するのは、特務隊隊長を補佐する副長で、山下真理という女性だ。
30代と自称するマリさんだが、赤髪の癖っ毛でパワフルな印象がある。
身長も175cmと、女性にしては大柄で、ボリュームのある胸は男性隊員の憧れでもあるらしい。
まあ、14才の俺には二次元に桜がいるので問題はない。
誘拐事件以来、俺はナビなしでの魔法発動に取り組んでいた。
義手を外されてしまうと、俺はただの14才になってしまう。
元々、マギやマーリンはナビなしで魔法を使えたのだ。
俺は、一番簡単そうな”シールド”から取り組んでみることにした。
「シールド」「シールド」「シールド」
自分の体に意識を集中しながら、何度も繰り返す。
魔力が吸いだされそうな感覚はあるのだ。
「シールド!」 「シールド!」 「シールド!」
二日目、50回に一回程度は発動した。
イメージしていた物理シールドと魔法シールドだ。
キャンセルは、魔力の供給を止める感じで簡単にできた。
1週間続けると、発動率は50%程度になった。
毎日、少しづつ成功率が上がるのは実感できた。
20日後には90%程になった。
次は、照準だ。
「ロック」 「ロック」 「ロック」
一日練習して、3回発動した。
こちらは、2週間で90%に達した。
そして、ロックとフリーズだ。
ロックを発動した状態で「フリーズ」を連呼する。
10回目でペットボトルが凍り付いた。
俺は24本入りのミネラルウォーターを2箱購入し、繰り返していった。
3日で発動確率は80%まであがった。
ファイヤも同じ確率だった。
そして、声に出さずに意識するだけでも80%で発動した。
あとは、毎日繰り返して精度をあげていくだけになった。
こうして俺は、無力な14才から卒業した。
学校には10日に一度くらい通っている。
俺は榊さんのサークルに顔を出して、義手を外した状態での魔法発動を実演して見せた。
「おいおい、マジかよ!」
「結構時間はかかりましたよ。照準だけで一か月くらいですね。」
「でも、照準を練習したとして、発動したかどうか、確認はどうするんだい?」
「魔法が発動する時って、魔力を吸われる感じありませんか?」
「ああ、分かる分かる。」
「待てよ、そんなの感じたことねえぞ。」
「じゃあ、そこから練習ですね。」
「くっ、先は長いぜ……。」
「だけど、構内で発表するにはいいテーマよね。実演も映えるし。」
「そうだね。ジン君アイデアもらってもいいかい。」
「遠慮なく使ってください。」
軍のチーム内でも紹介して驚かれた。
お前はマーリンかよと揶揄われたりもされた。
【あとがき】
ナビなしでの魔法発動。魔法士の原点ですね。
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