第21話 年上をからかって喜んでいるなんて変態ですよね
「剣は鉄と共に大陸から伝わったといわれておりますが、実はその遥か昔からこの国でも刀が造られておりましたのよ。」
「なに!」
「剣と刀は、似て否なるもの。そうは思いませんか?」
「た、確かに……。」
「剣術は打ち据える術。これは剣に適した武術ですが、倭の国では刀に特化した切り伏せる武術が磨かれてまいりました。」
「そんなのは聞いたことがないぞ……。」
「それは、刀術が人殺しに特化した武術だからです。」
「なっ……。」
「だから時の政府は刀術を神の武術として神宮に隠蔽し、人々には剣術を推奨してきました。」
「まさか、お前はその刀術を継いでいると……。」
「さあ、どうでしょう?」
こうして、ヒゴの防衛軍でも魔法の重要性が広がり始めた。
「サヤカさん、さっきの話はホントなんですか?」
「ホントだったら、私のこと嫌いになります?」
「身に付けた技術と、その人の本性は別のものだと思うよ。人を殺さなければ、守りたいものを守れない時ってあると思うから、サヤカさんはそういう覚悟ができているんだろうなって思う。」
「……そうですね。その時が来たら、躊躇しないよう覚悟は決めているつもりですわ。」
「じゃあ、その時が来ないように、俺も頑張りますよ。」
「ウフフッ、期待していますわ。」
熊本本部の魔法士たちにも簡易昇順システムを提供し、くわえてナビなしの魔法発動も練習してもらう。
時間はかかるかもしれないが、いつか実戦レベルに到達するだろう。
そして、サヤカさんにはレビテーションを教えて訓練してもらう。
「くっ、何でエアボがあるのに、こんな面倒な魔法を考えるんですか?」
「ほら、そんなに手足をバタバタさせないで。」
「だって、バランスが……。」
「不安定な姿勢をそのまま受け入れて、風魔法の出力を細かく制御してバランスをとってください。」
「た、隊長さんにはAIがあるから細かいコントロールができるんじゃないですか!私は手動なんですから……。」
「ああ、そういうのも影響してるのかな。ねえ桜、サヤカさんのナビにAIって追加できないの?」
「ひ、必要ありませんわ、そんなの!」
『ご主人さま、このナビシステムは魔導基盤がオリジナルなんです。MPUとCPU両方を搭載できる基盤はオブロン独自のものですから、市販機では不可能なんです。』
「そっか、じゃあサクラさんに聞いてみよう。」
「ねえサクラさん、MPUとCPUを搭載できる基盤って、公開しないんですか?」
「そうねえ、研究は進んでいるんだけど、最大のネックはサイズなのよね。」
「サイズですか?」
「そう。ジン君の場合は義手に内臓しているから実現できているんだけど、外部装着にすると大きすぎるのよね。」
「そういうことですか。」
「MPUとCPUがもっと小型化されるか、うまい方法があればいいんだけどね。」
「わかりました。僕も考えておきます。」
「ああ、それからこの前聞いたレビテーションなんだけど。」
「はい。」
「あれって、3軸で制御できないかな。」
「3軸で?」
「そう。3軸で行きたいポイントを指定できるんじゃないかな。」
「あーっ、後で試してみます。」
「サヤカさんのナビにCPUを追加するのは無理そうです。」
「大丈夫です。私は人並でいいんですから。」
そのあとで、外に出て3軸でポイントを指定するレビテーションを試してみた。
結果としては成功だった。
「凄いですね。一瞬で飛び上がりましたよ。」
「うん、今度は浮いている状態で別のポイントを指定してみる。」
これは大失敗だった。
速度調整ができず、短距離なら一瞬。100mでも1秒ほどで移動できてしまう。
「ム、ムリだ。急発進と急停止で体にかかるGが半端じゃない。それに時速300km以上だから風圧も凄いし、寒いし……。」
「ウフフ、隊長さんが音を上げるなんて。人に無理強いしたバツですわ。」
「ダメだ、レビテーションは一旦保留しよう。シールドの耐熱・耐冷を試すか……。」
「あっ、耐熱は成功したってリサから連絡が入ってます。魔方式も記述されていますから送りますね。」
「ありがとうございます。……ああそうか、シールドだから耐熱じゃなくて熱でよかったんだ。」
「そのあとのメールで、耐冷も冷気で行けたって来ています。」
「へえ、じゃあシールドの補助項目に魔法と物理、熱と冷気の4項目を……、もしかして風もいけるかな……、桜、5項目を入れてみてよ。」
『承知いたしました。……完了です。』
「よし、”シールド”っと、どうだろう。」
自分の顔に風魔法をあてて効果を確認した。
「やった、風もブロックできてるよ。」
「チームにも連絡しておきますね。」
「ちょっと待って。これって、加速度……Gを無効化できないかな。桜、加速度の項目も入れてみてよ。」
これにも成功した。
これでレビテーションによる移動も問題なく使えるようになった。
「むう、私のナビじゃあ3軸のポイント指定でレビテーションなんてできませんわ。」
「あはは、ふくれたサヤカさんも可愛いですよ。」
「年上をからかって何喜んでいるんですか!」
夜は更けていった。
数日後、サクラさんに頼んだ魔導基盤が500枚到着した。
同数の魔石や周辺部品はヒゴの魔法部隊が用意してくれている。
魔法部隊の手を借りて、1日30台ペースで仕上げ、試験をしたうえで部隊長と広報員とで県内の小学校に届けられていく。
そして人々の話題になり、ニュースでも報道されていく。
下校中の子供の列にドラックが突っ込んだが、子供は無事だったとかのニュースが流れると、国中から設置を望む声が高まっていく。
俺と団長も国の機関である文部局や魔法局に呼ばれて会談の機会を持ったが、スケジュール的にこれ以上の増産はできない。
「魔導基盤や魔石などの材料はこちらで用意しますから、何とかお願いできないでしょうか。」
「それは、ヤマト政府と交渉してください。僕は魔道具を作る目的で来たわけじゃありません。これが限界です。」
「ヤマトとも交渉を進めていますが、なかなか返事をもらえないんですよ。」
「国家間の協議ですから、時間がかかるのは仕方ないでしょう。」
「ですが、国民の要望は日毎に高まっていく一方なのです。それに、情報を聞きつけたリュウキュウからも問い合わせが殺到していて、本当に困っているんですよ。」
「サンプルを提供したのですから、こちらの魔導具師に作らせればいいじゃないですか。」
「ですが、プログラムにプロテクトがかかっていて……。」
「そりゃあ、へたに編集できるようにしてしまうと、悪意のある書き換えに対処できませんからね。でも、シールドなんて難しいプログラムじゃないでしょ。」
「国の魔導技師にプログラムさせたんですが、どうしても思うように作動しないのです。何とか、お願いできないでしょうか!」
「はあ、やむを得んな。ジン君、こっちにいる間だけでも、協力してもらえないかね。」
「まあ、いる間だけでしたら。」
「うむ、ありがとう。それで、こちらへの見返りは考えていただけるのでしょうね。」
「えっ?」
「500枚の魔導基盤もジン君の提供だというし、使節団としての貴重な時間を割いているのですよ。ヤマトで最高の魔法士がね。」
「い、いや、それは……。」
「ヤマト国内でも1台30万円で取引されている魔導具です。この要望以前に、ジン君への感謝が一言もなく、自分たちの都合しか考えない。これがヒゴの姿勢だというのなら、失望を感じてしまいますな。」
「……。」
「そもそも、代表はこのことをご存じなのですかな?」
「……それは……。」
【あとがき】
サヤカさんの殺人剣……。
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