第6話 サクラさんの給料が爆上がりしたら何か見返りをもらえるんじゃないだろうか

「信じられないけど、君の魔力量はこの計測器では測定できなかったわ。暫定でSランクになるけど、どこか専門機関で再検査してちょうだい。」

「どこに行けばいいんですか?」

「都内だと、立川の防衛庁基地か品川の魔法庁研究所。民間だと大田区のオブロン研究所か、練馬の京橋電子装備の4箇所ね。どうする?」

「あっ、別件で用事があるので、オブロンがいいです。」

「じゃあ、連絡しておくわ。明日でいいかな?」

「大丈夫です。」

「じゃあ、次は魔法力の測定だから隣の建物に行ってね。」


 隣の建屋は、煙突のような高い塔が特徴の建物だ。

 ここでは魔法力の強さを測定する。

 1000度以上の火柱をどこまで伸ばせるか計測するもので、この施設では20mまで計測可能とk¥なっている。


 だが、俺にはこの計測が意味のあるものとは思えなかった。

 俺にとって、この測定は魔力量を図るのと同じだったからだ。

 授業で使っていたシミュレータでは、いつも20mを超えており、俺はその不満を教師に訴えた。


「君の主張はもっともだと思うよ。でもね、そこの水準に満たない人のことを考えたほうがいいかもしれないね。」

「水準に満たない?」

「そう。生徒の中には、魔力量は少ないけど、瞬間なら威力の高い魔法を使える人が存在する。」

「でも、そんなの実戦じゃ役に立ちませんよね。」

「うん、実戦では役に立たないけど、研究者や技術者になる道は残されている。そういう生徒の救済措置だと思ってくれていい。」

「じゃあ、本当の魔法力って……。」

「例えば、1万度の過熱をするとかいっても、結局その魔法式に対応できるだけの魔力量があるかってことだろ。多分、本当の魔法力というのは、マルチタスクとか習熟の早さとか、そういう部分なんじゃないのかな?」


 そう考えると、魔法力の検査って俺にとっては意味のないことなんだろう。

 だけど、MPUは勝手に所定の魔法式を構築し、最大計測値の20mを超えてしまった。

 ここでも暫定Sランクで、再検査となってしまった。


 この検査で、俺は暫定SSの判定を受けた。

 そして翌日、オブロンで再検査を受けることになった。



「ああ、ジン君のOBRA-0158には魔力量や魔法力が常時把握されているから、わざわざ来てもらうことはなかったんですよ。」

「へっ?」

「ちょっと端末を繋ぎますね……と、あらっ、MPは512E……とんでもないことですけど、最新の計測システムでも計測範囲を超えていますね。まあ、MPPも計測範囲を超えた512E。つまり、512メートル以上の火柱が出せることになりますね。」

「あっ、そういえば、魔法発動のプロセスを、桜ちゃんに改善してもらったんです。フォルダ”X12851”にデータが入っているので確認してください。」

「発動プロセスの改善って、そんなの実現したら、国際マギ賞を受賞できちうわよ。まあ、中身は確認するけど……。」

「サクラさんの給料爆上がりだって言ってましたよ。」

「……えっ、新照準システム導入による、座標指定プロセス不要の魔法発動……って、”ロック”と”魔法名”だけ……ちょっと待ってよ!」


 サクラさんのチームスタッフが集まり、全員で議論が交わされる。

 「こんなの、あり得るはずがない」とか「視覚系照準システムありきの効率化ってことですね」や「これってリュウ主任研究員とサクラさん二人の成果ですね」こんな話が飛び交っていた。

 結局リュウ研究員というメガネオタの代表みたいな人も同席して、実演することになった。


「いきます。”ロック””フリーズ”!」

「マジかよ!凍りやがった……。」

「MPUには、他の魔法式は記録されていません。本当に2行だけです。」

「所長を呼べ!それから、本社の本部長と社長のスケジュールを押さえろ!」


 オブロンの研究所は大騒ぎになり、3日後、社長による記者会見で視覚系照準システムと簡易魔法発動理論が発表され、オブロンは世界のトップ企業に躍り出た。

 関係者には臨時ボーナスが支給され、サクラさんはOBRA-0158特別研究室長という大出世を果たしたそうだ。


「真藤 仁、進路決定通知だ。」

「はい、ありがとうございます。」


 俺の進路決定通知は、他の生徒よりも3日遅れて届いた。


「ジン、どこに決まったんだ?」


 俺はハカセとリンに進路決定通知を見せた。


「な、何だよこれ!」

「防衛庁特殊学校中等部魔法科って、知らないわよこんな学校。」

「ああ、全国で1学年100人の定員だし、男子校だからな。」

「うん、僕も聞いたことはあったけど、詳しくはしらない。」

「実戦訓練に特化した学校で、1年は魔法科と科学科なんだけど、2年からは特務科が加わって3クラスになるんだ。俺はそこを目指している。」

「何でそんなところを志望したのよ。魔法学校でよかったじゃない。」

「俺の父親がそこの卒業生だったらしい。俺は自分の親がどういう環境で育ったのか知りたかったんだ。」

「そんな……、お父様は知っているの?」

「ああ。2年前に話してある。」



 俺は、卒業式を待たずに、防衛庁の学生寮に入居した。

 この寮には。高等部の生徒も入居しており、500人を収容できる巨大な施設だ。


 そもそも、この学校の中等部と高等部は神奈川県横須賀に浮かぶ人工島に作られており、島には学校関係の施設しかない。

 島に来る時も、防衛庁の揚陸艦が使用されており、民間人が紛れ込むことはないのだ。

 そして一度島に入ってしまえば、任務と訓練を除いて6年間、島から出ることはない。

 こんな過酷ともいえる学校に、100人もの応募があったとは、ヤマト国は変態の集まりではないかと心配してしまう。


 島に到着してすぐにオリエンテーションがあり、支給品も回付された。

 下着からユニフォーム・スウェット、靴にいたるまで、すべてが支給され、破損したら希望すれば再度支給される。

 在学中は、月に2万円の小遣いが支給され、必要なものは島の購買で入手できる。

 アラソンなどのネットも自由に利用できるが、島に届けられる際に検品を受けるため、注意が必要だといわれた。

 俺には、オブロンから褒賞として月50万円が3年間支給されるらしい。

 欲しいものがあれば、好きなだけ買えそうだ。


 ナビについては、支給品も使えるのだが、原則自由とのことで、俺の義手も問題ないそうだ。

 

『ご主人さま、早速支給品のナビを繋いでみましょう。』

「なんで、そんなに嬉しそうなんだ?」

『やっぱり、未知の領域ってワクワクするじゃないですか。』

「だからと言って、支給品のナビに欲情するのはお前くらいだよ。」

『そんなことありませんよ。サクラだって、同じように興味を示すはずですわ。』

「まあいいや、それでどうなの?」

『さすがに早いです。もう最新のタブレット連動照準システムと簡略式魔法発動プログラムが組み合わさってセットされています。』

「それって、視覚系照準システムとは違うの?」

『基本は同じなんですが、タブレットで発動ポイントをタップしてロックするたいぷですね。これでも、魔法発動は相当早くなると思いますよ。』

「へえ、じゃあ俺が有利って訳でもなさそうだね。」

『おそらく、近いうちに視線入力システムも連動させるでしょうから、アドバンテージはほとんどありませんね。』

「まあ、元々同じ条件でスタートするつもりだったから問題ないよ。」

『そうはいきません。ご主人さまは3kgというハンデがあるのですから、ナビで優位にたっていただかないといけませんわ。』


 その時、ショートメッセージが届いた。

 寮監からの呼び出しだった。



【あとがき】

 6年間の寮生活。耐えられるのでしょうか?

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