第5話 魔法って、もっと簡単でいいんじゃね?
義手を装着した翌日、俺は退院した。
逆にいえば、退院予定にあわせて義手装着のスケジュールが組まれていた。
俺は、退院日、直接学生寮には帰らず、アキバに立ち寄って桜ちゃんの指示するケーブルやコネクタ・工具類を買った。
そのあとで、世話になっている赤坂家に顔を出してから寮に帰った。
『じゃあ、そのケーブルの片側のコネクタを外して、買ってきたコネクタと付け替えてください。』
「えっ、それだけならこんなに色々と必要ないじゃん。」
『ダメですよ。こういうのは熱圧縮チューブでちゃんと絶縁しないと、思わぬトラブルが起きたりしますからね。』
俺が作らされたのは、義手とスマホを繋ぐケーブルだった。
『完璧です。これで、最新の情報に更新できますからね。』
「そうなのか?」
『はい。これで、最新の魔法構文もチェックできますし、社会情勢も把握できます。』
「マギ・ナビに、そんなのが必要なのか?」
『私は、単なる魔法用ナビシステムではございません。スーパー・マルチ・ナビゲーションシステムでございます。』
「じゃあさ、テストとかも手伝ってくれるの?」
『まあ、私はご主人さまの頭脳でもありますから、目立たない程度にはお手伝いいたしますよ。』
「クックックッ、これであいつらを見返してやるぞ!」
一瞬でもそう思った俺はバカでした。
卒業まで一か月を切っているのに、今更学科試験などあるはずがなかったのだ。
『ご主人様、準備ができましたので、魔法に関する初期設定を行います。』
「初期設定?」
『はい、まずは最も重要なポイントAですが、今まではどこに設定されていました?』
「ああ、一般的な右手の人差し指だよ。」
『では、こちらでよろしいですか?』
右手人差し指に緑の光点が出現する。
俺は右手を目線の高さで伸ばした。
「ああ、ポイントは左手に変更しなくちゃと思ってたんだけど、義手でもいいんだ。」
『はい。まだぎこちなさはありますが、すぐに慣れて、右手として使えるようになりますよ。』
「そうか、じゃあここでいいよ。」
『では、ポイントBは肘でよろしいですね。』
「ああ。」
その瞬間、視界に緑色の細い線が現れた。
『こちらがX軸になります。』
視覚化されて気づいたのだが、自分の想定していたラインよりも内側に傾いている。
『実際に、X軸の可視化を経験された方は、認識との誤差に驚かれることがおおいようです。』
「でも、僕が設定したのは、こうやって腕を伸ばした状態での、肩から伸ばしたラインなんだ。これに修正してくれるかな。」
『承知いたしました。』
X軸を修正してもらい、S軸とY軸をあわせて表示させると……ポイントするのは難しかった。
X軸が揺れるのに伴ってS軸もY軸も動くからだ。
「これって、手振れ補正できないの?」
『では、手振れ補正モードに移行します。』
これで、視界はだいぶ落ち着いた。
この3軸をみながら、ふと思った。
「ねえ、これって俺の中で完結するんだよね?」
『えっ?』
「なんて言ったら伝わるんだろう。この照準ってさ、対象がはっきりしてるなら座標で表現しなくてもいいんじゃないのか?」
『……、申し訳ございません。おっしゃっている意味が分かりませんけど。』
「ポイントで発動対象を固定して、ファイヤで発動しないのかな?」
『えっ?』
「ダメかな?」
『少し、お待ちください。サブシステムを構築します。』
待っていると、3軸が消えて視界の中央に十字が表示された。
『このような照準で如何でしょう。”ロック”で固定されます。』、
「いいね、これなら見やすいよ。」
『ロック状態で、魔法名を口にすれば発動するようにしました。』
「へえ。これがうまくいけば、相当時間短縮になりそうだね。」
『もし成立するなら、それこそ史上初の快挙ですよ。サクラのお給料も爆上がり間違いなしです。』
「じゃあ、試してみようか。」
俺はテーブルの上にあったペットボトルにロックした。
「あっ、これで魔法を使うとペットボトルの表面に魔法が発動しちゃうか……。」
『では、標準で1cm奥に発動するよう修正しておきましょう。……これで大丈夫ですよ。』
「じゃあ、気を取り直して”ロック”そして”フリーズ”!」
ペットボトル内の水が、一瞬にして凍り付いた。
『やりましたね。まさか、こんな発動方法があるなんて凄いです。』
「サクラさんのお給料も爆上がりかな?」
『そうですね。できましたら早めに報告してあげたいのですが……。』
「ああ、それなら、明日の魔力検査のあとで研究所に行ってみようか。」
『はい、お願いします!』
この日は、魔力検査に備えて、魔力放出もしないで寝た。
おかげで、体調は万全だった。
「よう、ヒーロー。言い訳のネタができて良かったじゃねえか。」
「ネタ?」
「退院したばかりで、魔力操作がうまくできませんってよ。」
「あはは、大丈夫だよ。ここまで魔力が回復したことなんてなかったから、うまく制御できるか自信ないけどな。」
「早川君さあ、重さ500kgのこん棒なんだよ。想像できるカナ?」
「ああ、僕も後ろで見ていて、少しちびったよ。ジンはそこに飛び込んで行ったんだ。」
「俺はそんな愚鈍じゃねえよ!」
「足元の地面が崩れて、滑り落ちた直後なんだ。いきなり現れたサイクロプスを前にして、即座にシールドと身体強化をしてみせたジンだぞ。お前にそんな芸当ができるというのならやってみろよ。」
「まあまあ、二人とも熱くなるなって。」
「……そうだね。ジンが馬鹿にされて少し感情的になったみたいだ。この程度の男、相手にするのは時間の無駄だね。」
「ええ。少し落ち着くために、お茶にしましょうよ。」
「なあ、豪。俺にかまってないで、魔力を磨いたほうがいいぞ。その魔力量じゃ、進学は難しいと思うけど……。」
「お、大きなお世話だ!」
早川 豪は行ってしまった。
入学時の魔力量は確かD4だったか。
魔法力が高かったのを自慢ばかりしていたが、授業態度も悪く、放課後は繁華街のゲーセンなどに入りびたり悪い噂ばかりが目立っていた。
検査でそれなりの成長を示さないと、魔法関係の進学は難しいと思う。
魔力検査は、先に魔力量の検査から始まる。
「では魔力量の検査を始めます。ポイントとして使っている腕をこの筒の中に入れてください。」
「義手なんですけど、大丈夫ですか?」
「AポイントとBポイントの間を流れる魔力量を測るので問題ありませんよ。では開始します。」
検査装置に内蔵されたMPUが魔方式を構築し、装置内で魔法を発動していく。
ちなみに、MPUは魔法演算処理装置の略で、魔法式を構築して実行する補助装置であり、MPUを組み込んでシュートカットキーなどにより魔法の発動を簡略化した装置をナビと呼んでいる。
魔力量の検査では、1000度以上の火柱をどれくらいの時間維持できるかを検査するものだ。
モニターには”0.00”だった数値がどんどん上昇していく。
魔力が吸いだされる感覚は、授業で使っていたナビと同じだが、量はずっと多い感じがする。
まあ、魔力を十分に回復している俺にとっては余裕だった。
入学時はE6だったから、魔力量は6.00を超えた分が入学以降の成長分になる。
やがて、数値は6.00を超えてさらに上昇していく。
10.00を超えたあたりで、検査官がせわしなく装置をチェックし始めた。
20.00を超えても数値は上がりつ続けている。
どうやら、毎晩魔力切れを起こしてまで努力してきた成果が現れているようだ。
その表示が25.00を超えたところで赤い”ER”表示になり点滅していた。。
【あとがき】
早川 豪君、登場したけど、使い道はない……。
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