第3話 薄いぺらぃ兄妹

飛行機であれば、一時間半で宮崎に着く。なぜ、飛行機にしなかったというと、理由は、田舎だからである。移動手段が、バスしかないド田舎。どうしても、車が必要になる。移動時間はかかるが、自分の車を持っていけるフェリーを選んだ。後は、お金の面でも、飛行機で行き、レンタカーを借りるよりも、数段安である。余計なお金、使いたくなかった。浮いたお金は、二十五年振りに顔を合わせる妹たち、そして、一回も顔を合わせていない、姪っ子たちの為に使いたかった。それにしても、十五時間は長かった。午後五時に出航して、志布志湾に着くのが、翌朝の八時。さすがに、十五時間は長い。小説を一冊持って行っていたのだか、それでは、時間つぶしにはならなかった。船体の揺れの中、文章を読んでいると、酔ってくる。そして、少しでも、お金を節約しようと、雑魚寝の二級席をしてしまう。周りに見知らぬ人間がいると落ち着かない。ビールを飲み、アルコールの力を借りて、寝ようとするが、なかなか眠れない。身体が興奮していた。あまり、いい思い出がない土地、二十五年振りの帰省だからか。アドレナリンが、出まくっていた。別に、青年期を過ごした土地にしんみりと浸りに出向くわけではない。妹の留美の顔を見に行くだけなのに、面白いもので、身体は勝手に興奮していた。とにかく、長い長い船上の時間をクリアーして、産みの母親が住む家に向かった。

「えッ、どうゆう事や!」

母親の家に着いた私は、衝撃的な現実を、母親の口から聞いた。留美は、バツイチである。生蕗という娘。私にとっては、姪っ子と二人で生活をしていると思っていた。なんと、留美は、再婚をしていた。そして、驚いた私が、飛び出た言葉が、これであった。確かに、この一年ほど、あまり、連絡を取り合ってなかったが、そんな大事な事、なぜ、連絡してくれない。まぁ、これが、私達、兄妹達の関係ではあるのだが…私が、妹たちに会ったのは、十七歳の時である。それまで、妹がいるという事も知らなかった。十八歳で、宮崎を離れているから、交流があったのは一年足らず…その後も、連絡は取り合っていたが、一緒に暮らしてはいない。だから、私も、兄らしい事は出来ていなかった。妹たちは、各々の人生を歩んでいた。私は、そんな妹たちのちょっとしたスパイスだった。自分の思いとは裏腹に、自分が生活する事を維持する事で、一杯一杯だった。自分の生活を優先するばかりに、気の向いた時に、連絡をして、世間話をする。手紙を書いたり、メールなどというモノもしていた。妹たちの恋愛事も、自分の意見を押し通さず、上っ面な、物分かりの良い兄を演じていた。そんな丁度いい距離感が、私達、兄妹だった。

母親が言うには、色々準備があるから、一時間ぐらいしたら、今、再婚相手と三人で暮らす家に来てほしいという事であった。私にとって、この一時間は地獄であった。留美が再婚をしているという事実。急に、再婚相手に会わなければいけないという現実に、変な緊張が、私を襲っていた。おどおど、やきもきしている感情が、表に出まくっているのは、私自身感じている。四十五のオヤジが、もっと紳士的にふるまわなければ行けないのだろうが、あの時の私は、どうする事も出来なかった。無駄に、家の中を歩き回り、声に出して、どうしたら、ええんやと、ブツブツと独り言を発していた。母親と一緒に住んでいた、一番上の妹睦美は、そんな私を見て、

『お兄ちゃんが、緊張しても仕方がないでしょ。』

と、笑っていた。いや、呆れていたのかもしれない。留美の再婚の事、睦美いわく、留美本人から、聞いていなかったのか、留美いわく、お母さんが、話していると思っていた。との事。改めて、コピー用紙みたいな薄っぺらい、私達の関係性が、浮き彫りになっていく。まぁ、私の感情なんて、どうでもいい。今回の二十五年振りの帰省の目的は、留美の顔を見る事である。

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