side story 課長と翠



『ええーー!!莉乃が倒れたの!?

 なんで電話もないしメールの一つも

 連絡してこないのよ!』



テーブルを両手でバァンとうちつけ

大声を張り上げると、仕事から帰宅した

ばかりの旦那を思い切り睨んだ



体だけは丈夫な子だったのに

倒れるなんて‥‥



『で!?なんで帰って来たわけ!?莉乃は?』


『み、翠、お、落ち着いて!

 お腹の子にさわるから。』



去年、5年付き合った作人と結婚して、

すぐに妊娠が分かり安定期に入ったけど、

一度流産しかけたこともあり今は

オンラインで仕事をしている。



偶然だけど、作人の職場が妹の莉乃と

同じで安心して、なかなか会えないけど妹の

様子をよく聞いていたのに、まさかの

報告に驚いてしまった



『りっちゃんは先生が送るって聞かなくて‥』



『えっ?先生?誰それ?』



『診療所の内科医の先生だよ。

 りっちゃんのこと何かと気にかけてて、

 点滴終わらないから様子見て家まで

 送りますって言うから住所伝えたよ。』



『それって男?』


『う、うん勿論‥』



莉乃のことを気にかけてる?

それで家までわざわざ医師が送る?



学生の頃や、社会人になってから

時々恋愛らしい話は聞いてはいたけど、

どれも長続きしなかったし、姉としては

心配もしていた



『住所って信頼できる人なんでしょうね?』


『も、もちろんだよ。仕事は完璧にこなすし、

 とてもいい人だと思う。

 (りっちゃんにかまいすぎてることは翠には

 内緒にしとこう‥‥。今日りっちゃんの

 名前の呼び方問い詰められてちょっと

 怖かったし。)』



『それならいいけど‥‥』



スマホを手に取り、妹にメッセージを送ると

思わず溜め息が出てしまう



私が10歳の時に初めて会ったのが

6歳の莉乃だった。



両親に酷い虐待され、

幼稚園にも行かせてもらえないまま

その後は施設に預けられ、

私の両親が私を産んだ後兄弟が欲しいと

わがままを言っていた私のために

引き取ったのが妹の莉乃なのだ。



最初はとても内気で静かで、なかなか

家族とも仲良くなれなかったし、

初めて行く幼稚園でも友達もできなかった。



今思えば、愛情不足で育ったのもあるけど、

誰かと接するのが怖くてたまらないんだと

思う



私は初めて出来た妹が可愛くて仕方なくて

時間がある時は常にそばにいて、

夜も一緒に眠ったりしてるうちに、

莉乃も私を姉として見てくれるようになった。



大人になるに連れて、意見も言えるように

なって来たけど、なかなか自分はこうしたいってちゃんと本音で言えてない気がする。



慣れた人や私と作人には明るく接していても、

やっぱりどこか遠慮してるのが伝わるから



『翠、あったかいお茶飲んで。

 りっちゃんは大丈夫だから。』



『うん、ありがとう。

 これからも莉乃のこと見てあげてね、

 作人さん。』

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