第3話 半月前
通報があった時間は、早朝だった。
まだ、真っ暗な時間だったということもあって、時間とすれば、4時前くらいっだったかも知れない。
「そんなに早い時間に?」
と刑事が聴くと、一人の女性が、震えながら、これ以上ないというくらいに、身体を縮めて、
「え、ええ、旦那様は、朝いつも早いんです。たまに、私どもがいる部屋の前を通りかかった、夜の当番の人に、挨拶をしてから、時々、表を散歩されるんです」
と、その女性がいった。
その女性は、どうやら、この家の、家政婦のようで、数人の家政婦が、家政婦の寝泊りできるところで待機しているようだ。夜中も、当番で、起きているようにしているとのことで、朝の散歩はその当番の人が、
「お見送りする」
ということになるようだ。
そのお見送りを今朝は、することはなかったといっているのだ。
「じゃあ、今朝は、旦那さんは来なかったというんだね?」
と刑事が聴くと、
「ええ、そうなんです」
と家政婦がいうと、
「散歩がないというのは、時々あるのかね?」
と刑事は聴いた。
刑事とすれば、
「散歩というのは、毎日続けるから効果がある」
と思っていた。だから、
「たまに、出てこない日があるのは無理もないことだが、それ以上に、あるということになるのかな?」
と刑事がいうと、
「ええ、そうなんです。でも、それも、パターンが分かっていることであって、ご主人様は、いつおもお散歩するとは限りません。たまに、選挙事務所の方で、朝早く起きた時には、お仕事をされていることもあります。これはごくたまにですが、事務所の方で飲酒をされて、そのまま寝てしまっていたこともありました。私たちはそれが怖いので、おご主人様が、いつもの時間に散歩に出られない時は、選挙事務所の方に、出向いていくことにしているんです」
というではないか。
「じゃあ、今日も、選挙事務所を見に行ったというわけですね?」
「ええ、事務所の掃除も私たちの仕事ですから、来なかった日だけ阿、一番最初に事務所の掃除をするようにしているので、それだけのことだったんです」
というので、
「今日ここに来てみると?」
と聞くと、
「ええ、机の上にうつ伏せになって倒れておられたので、これは、てっきり酒の飲みすぎで、倒れているのだと思いました」
というので、
「近寄ってみると、様子がおかしい?」
「ええ、寝息も聞こえないし、近づくにつれて、顔色が悪いのが分かり、よく見ると机の上が、何か濡れていたんです。水でないことは分かりましたが、電気をつけて見てみると、真っ赤なドロッとしたものだったから、それが、血だと思ったです」
という。
「それで、救急車と警察に?」
「ええ、どうしていいか分からないので、すぐに連絡して、ご主人様を起こそうとしましたが、冷たくなっておられたので、内線を使って、家政婦室に連絡を取って、他の人に来てもらったというわけです」
という、
「なるほど、その時、あなたが、もうご主人が亡くなっていると思ったんですか?」
と聞かれ、
「できることなら、目覚めてほしいとは思いましたが、冷たくなっているところに、口から、血が流れていたので、正直、もうダメだと思いました。それで、駆けつけてくれた家政婦仲間の人に、救急救命士の視覚を持っている人がいたので、見てもらうと、首を横に振ったので、その時、もう無理だと悟りました」
というのだ。
「ご主人様には、何か、基礎疾患のようなものがありましたか?」
と聞かれ、
「ええ、胃潰瘍のようなことは言われていたので、ひょっとすると、それが原因かとも思ったんです。ここで、お酒を飲むことも結構あったので、夜はまだ冷えたりするので、急に体調を壊されたのかとも思ったんですよ」
ということであった。
そうすると、近くに薬のような瓶が置いてあり、その向こうに何粒か落ちているのが分かった。
すでに、鑑識がそのあたりを調べていて、鑑識がいうには、
「瓶の中身が同じかどうか分かりませんが、そこの瓶に書かれているラベルは、睡眠薬ですね」
ということであった、
「睡眠薬を飲んで、血を吐いて死にますかね?」
と聞かれて、
「分量を間違えると、死ぬことはあります。ただ、実際に血を吐くかどうかは、その睡眠薬によって違ってくると思います。また、その服用者の体質であったり、体調なども影響してくるでしょうね」
と言われたが、
「そうですね、これは、今回に限らず、薬の服用というのは、ちゃんと身体を調べて、合う薬と処方したものを服用するのが当たり前ですからね。下手に市販の薬などであれば、怖いですよね。でも、それも、処方箋があれば、こういう瓶の睡眠薬というのもありの場合もあるでしょうね」
と、鑑識は言った。
鑑識は、薬剤師でも医師でもないので、ハッキリとは言えないが、あくまでも、
「考えられること」
ということで、話をすることくらいはできるだろう。
それを考えると、
「とにかく、鑑識の結果を見ないと分からないが、今は何ともいえないことだけは確かである」
といえる。
それでも、分かることも中にはあって、
「死亡推定時刻ですが、今晩未明の、たぶん、1時から2時の間くらいでしょうね」
ということであるから、死後、4時間か、5時間というところであろうか?
「机の上の血は、間違いなく吐血であり、死因は、毒物だということで、いいのではないか?」
ということであった。
争った形跡はないが、首に、掻きむしった後があることから、
「結構苦しんで死んだのではないか?」
と言えるのかも知れない。
第一発見者の話は、とりあえず、そのくらいにしておいて、今度は家族の話になるのだった。
その時集まったのは、長男夫婦と、奥さんの三人だった。奥さんというのは、相当年が離れているのか。奥さんが、息子の嫁と言ってもいいくらい若かった。
家族構成としては、まず、死んでいたのは、
「神里譲二」
奥さんは、
「なるみ」
息子夫婦は、
「孝弘、幸恵」
ということだった。
「このたびは、御愁傷様でした」
と、刑事が、礼儀を通し、お悔やみをいうと、
「あ、ありがとうございます」
と、息子夫婦は、神妙に、そう答えた。
「ところで、お父様は、何か悩みのようなものがありましたか?」
と聞いてみると、
「ああ、いえ、それがよく分からないんです」
と息子が言った。
「分からないというと?」
と刑事が聴くと、
「親父は、極端な秘密主義者なんです。もちろん。情報共有が必要なことは、皆に話をしますが、個人的なこととなると、本当に、疑心暗鬼になるようで、誰にも言わなかったりするんです。だから、何かに悩んでいたとしても、それはきっと誰も知らないと思います。それに、どちらかというと、悩んでいるような姿を見せようとはしないんです。だから我々も厄介なんですよね」
と、本当に困った様子でいうではないか。
長男の話を聴いていると、どこか、
「他人事」
というようにしか聞こえない。
そうなると、
「父親が死んで悲しい」
というようには聞こえないのだ。
それよりも、
「こんなことで煩わされてたまったものではない」
とでも言いたげであった。
奥さんの方も、夫の話を聴いているだけで、何も言おうとしない。
「私はそんな家族のことには無関心」
という様子で、それは、
「関わらないようにしよう」
という態度が、ありありだった。
それも、
「清純さ」
から来ているわけではなく、明らかに、
「面倒なことは御免」
と言いたげであった。
ということは、
「この奥さんに聴いても、何も得られないだろうな」
ということであった。
さらに、今度は、後妻だと思うが、若奥さんに聞いてみると、彼女も同じようなことをいう。
一応話を聴くのは、まず息子夫婦。その次に、若奥さんということで、それぞれに、個別に話を聴いた。
一緒に聴いてもよかったのだが、これが殺人事件とかであったら、話を合せる可能性もあるので、
「最初の掴み」
ということで、この刑事は、捜査方針として、
「まずは、別々に聞く」
ということにしているのであった。
実際に、分かれて話を聴くことで、
「分かるかも知れない」
ということもあったのだった。
二組の話を聴いていて、共通している部分と、それぞれの部分が聞かれた。
それは、普通に考えて当たり前のことだった。
「同じ家にいるのだから、行動などは、共通点があっても当たり前のことだ」
と言えるが、
「立場が違うのだから、その見え方は違うだろう」
という考え方である。
もっと言えば、
「同じ家にいても、見え方は違うので、結果、見え方が違うように見える」
という考え方であったり、
「立場は違っても、同じ角度からしか見えないことで、見え方は同じだ」
と言えるようなこともあるだろう。
二組の場合は、そこまでは分からない。
「今年の選挙について」
ということで話を聴いてみると、行動に関しては、同じような話をしていたが、方針であったり、方向性に関しては、どうも食い違っているようだった。
二組から話を聴いた、それぞれの刑事が話をして、
「どうも、二人はまったく違うことを、被害者から言われていたんだろうか?」
ということを一人がいうと、
「いや、そうではないかも知れないぞ」
と一人の刑事がいう。
「言い方を少しでも変えるだけで、まったく違った発想の言い回しになるんじゃないかな?」
という。
この刑事は頭の中で、
「事故か、事件かも分からないのに、被害者という言い方もおかしいんだがな」
と感じていたのだ。
それでも、彼としては、
「事件ということにしたい」
という考えなのか、それとも、状況から勝手に事件だと思ってしまったのかのどちらかだろう?
と思うのだった。
今回の、
「二組でいい分が違う」
というのはどうだおる?
普通であれば、
「受け取る側の受け取り方一つで、まったく違う受け取り方になる」
という発想は間違いないだろう。
そして、その気持ちも間違いではないだろう。
それを考えると、
「どうも、政治家ということを考えると、わざとそのようにしているのかも知れないよな」
と感じていた。
政治家というものは、
「二枚舌や、三枚、四枚とたくさんの舌と持っている」
と言われるが、まさにその通りではないだろうか?
それだけ、
「家族というものを信用していないか?」
あるいは、
「どちらかを信用していて、どちらかは、ほとんど信用していないのか?」
ということになるのであろう。
そんなことを考えると、
「どっちが、信用できるのだろう?」
と考えた。
しかし、それは、
「刑事が見た目」
と、
「ご主人が見た目」
とで、見え方も、立場も、経験も、まったく違っているだけに、何かの作戦を取るとしても、その発想は、いろいろあるに違いない。
「やはり政治家というと、何か贔屓目に見てしまいそうで、まったく違った雰囲気になるのではないだろうか?」
と感じるのだった。
ただ、話を聴いている限りでは、
「ご主人に対しての見方は、かなり違うようだが、行動に関しては、そんなに違うという感覚ではないようだ」
聴いた話によると、御主人は、寝る時間は比較的遅いということだった。
息子夫婦は、
「不眠症じゃないのかな?」
という話をしていたが、奥さんは、ハッキリと、
「ええ、不眠症です」
と言っていた。
ご主人は、自分のまわりでも、一部の人にしか、自分のことを話していないのかも知れない。それが今の奥さんであり、息子夫婦であっても、自分のことをペラペラしゃべるということはないのではないだろうか。
それを思うと、
「ある程度の不眠症というのは、信憑性があるな。そう考えると、あそこにあった薬は。睡眠薬だと思ってもいいんだろうな」
というと、奥さんと話をした刑事が、
「それは間違いないというような話をしていました。しかも、御主人は、薬を飲む時は、誰にも見られるのを嫌がるそうで、一度、奥さんが、意識的にではないけど。薬を飲もうとしているのを見て、相当起こったらしいんです。それで奥さんもビックリして、御主人が、何かコソコソとしているようなら、黙って放っておくことにするといっていましたね」
ということであった。
「じゃあ、御主人は、結構秘密主義なんだろうか?」
と聞くと、今度は息子夫婦に聞いた刑事が口を挟んだ。
「その通りのようです。特に、自分の部屋には、誰かを入れる時、必ず数分表で待たせるんだといいます。何やら片付けているのか分からないそうなんですが、その状態を見ると、相当な神経質だと思っているということでした」
「それについて、奥さんは何も言っていまかったかい?」
と聞かれた奥さんを担当した刑事が、
「いや、詳しくは聴いていないですね。でも、奥さんがいうには、元々医者だったので。自分の身体のことはよくわかっているようだと言っていました。医者の不養生とかいうじゃないですか。でも、御主人は、自分の身体のことが分かっているせいか、最近は、結構健康には気を付けていたようです」
というのだった。
これについては、息子夫婦も分かっていて、
「そうです、お父様は、よく健康にいいものを気にしていたようで、私にも、何か健康にいいものを作ってほしいと言われたことがありましたと言ったそうです」
というのを聞いて、
「そのあたりは、奥さんは知っているんだろうか?」
と聞くと、
「ハッキリとは分かりませんが、私は知っているのではないかと思いますね」
という。
「それはどうしてだい?」
と聞くので、
「あの奥さんは、我々が想像しているよりも、相当、いろいろ知っているような気がするんです。私が何かを質問しようとすると、その内容が分かっていたかのように、即座に答えが返ってくる。そんな素質のようなものがあるのかも知れない。そう思うと、僕らには分からない何かを分かることができるんでしょうね。だから、この家のような異様な雰囲気でもここまでこれたような気がするんです」
というと、
「なるほど、確かに、あの奥さんは、息子夫婦とも、わだかまりがなさそうだ。関わっていないというのもその秘訣なんだろうけど、それだけで、よくうまくやっていけるといえるものはないかと思うんですよね」
というではないか。
「息子夫婦は分かっているのかな?」
と聞くと、
「ええ、分かっているような気が私はしますね」
ともう一人の刑事がいうのだった。
捜査本部が開かれ、今のような話が報告されたのだが、そこに、鑑識からの報告も飛び込んできた。
捜査本部が開かれたのは、
「自殺よりも、他殺の方が強いからだ」
ということであった。
その大きな理由としては、死体のそばに転がっていた薬が、表題通りの睡眠薬だったからだ。
その睡眠薬は、確かに服用しすぎると、
「死に至る」
というものであるが、実際の死因は、
「青酸カリの服用によるもの」
ということで、明らかな服毒であったのだ、
「睡眠薬を飲んで、毒を煽る」
というのはおかしいだろう。
というのも、確かに、
「苦しむのを少しでも和らげるため」
ということであれば、青酸カリのような即効性のある毒を服用すれば、睡眠薬が効いてくる前に苦しみだすのだから、睡眠薬の効果はまったくないわけで、しかも、
「毒と睡眠薬を一緒に飲むなど、普通は考えられない。却って、苦しみを増すだけではないか?」
ということであった。
「自殺する人だって、そのことを分からないわけではないだろう」
ということで、
「今回の事件は、他殺の可能性が高い」
ということになった。
もちろん、自殺の可能性がまったくなくなったわけではないが、その両面からの捜査ということになったのだ。
ただ、鑑識からの知らせで、
「彼の部屋から、毒物らしきものは発見されなかった」
ということだった。
刑事が調べた時も、それらしきものはなかった。ということになると、やはり、他殺ということになるのであろう。
それを思うと、他殺の線が、濃厚だということになるのだ。
死亡推定時刻は、推定通り、深夜の日付が変わる前後ではないかということであった。その時の家族のアリバイ、そして、被害者のその日の、特に、その前後の行動などを中心に調べることになったのだ。
そんな状態において、さらに調べを進めていると、違う意味での、見方が出てきたのだった。
というのが、
「奥さんが浮気をしているのではないか?」
という疑惑だった。
そして、その相手というのが、何と、半月前に殺されていたのだった。
その事件も、同じ署内での殺人事件として、別の捜査本部が立ち上がっていた。こちらの事件が、殺人事件だと認定される前は、そっちの事件の方が問題は大きかったのだ。
そちらの事件に対しても、少し関わっていた数名の刑事は、その事件で殺された男が、
「誰かと浮気をしていた」
という事実は掴んでいたのだが、それが誰かということは、まだ捜査中だった。
しかし、こちらの殺人事件が勃発したことで、ここの奥さんと関係があったなどとは誰が考えることだろう、
それを思うと、
「この事件が、どういう様相を呈しているのか?」
ということが分からなかったのだ。
その時の事件の顛末というのは、
「あれは、半月前のことであった。一人の男性が、自宅マンションで殺されているのが発見された。その男は、無職に近い形だったが、捜査すると、暴力団関係者の経営する店の、用心棒のような人間だった」
ということである。
見た目は、普通だったので、捜査をしないと、
「まさか、暴力団関係者だったなんて」
ということである。
被害者の男は、確かに見た目は分からないし、そんなにガタイがいいわけでもない。一見では、暴力団関係者とも、用心棒とも見えなかったのだ。
見た感じは、そんなにひどいやつでもなく、もっと言えば、
「もし、暴力団関係であっても、チンピラ程度だ」
ということであろう
それを思うと、
「何か、うちわの喧嘩か何かによる衝動的な犯行」
ということで、
「この事件の解決までは、すぐだろう」
というのが、ほとんどの捜査員の一致した意見だった。
しかし、実際に捜査してみる、どうにもハッキリしないことも多かった。
確かに、人間関係もそんなになく、犯人を絞るとすれば、そんなに難しくもないと思われた。
しかも、それほど目立つわけでもなく、人間関係もさほど、ややこしくなかった。
そういう意味でも、
「事件解決は時間の問題」
と言われていたのだ。
だが、容疑者が数名に限られ、彼らのアリバイが捜査された時、その数名の容疑者が、全部消えるということになったのだ。
そう、
「全員にアリバイがある」
ということだったのだ。
そのせいで、
「事件は、振り出しに戻った」
と言ってもいい。
最初こそ、
「簡単に犯人が見つかる」
ということになっていたにも関わらず、
容疑者が絞られてきて、これからという時に、暗礁に乗り上げてしまったのだ。
こうなってしまうと、それ以降の捜査が先行きがつかなくなってしまい、捜査は、急に、
「どう進めていいのか分からない」
ということになったのだ。
事件をどうすればいいのか?
と考える前に、
「あまりにも見えていることだけにこだわろうとしたからなのかも知れない。もう少し、初心に却って、いろいろさらに周囲を見渡してみる必要があるのではないか?」
という本部長の意見で、さらに、広く被害者を見ることにした、
ただ、遠回りをしたのは確かであり、しかも、最初と捜査方針の転換をするというのは、厄介なことだった。
本当はその決断をした本部長が一番、
「無念だ」
と思っていることだろう。
「理不尽だ」
というところまで考えている。
何と言っても、それまでに時間を10日近くも費やしていた。
「時間の無駄」
ということを意識して極力失くそうという本部長の考えからいけば、本当に無駄なことをしたと思うことだろう。
そんな捜査において、また一から捜査をしなければいけない捜査員も、ショックは隠しきれないようで、この捜査に関しては、
「ほとんどの人が、大きなショックを受けている」
と言ってもいいだろう。
そのショックというものが、どういうものなのかというと、
「捜査員、それぞれに、犯人が誰かということを推理して、その通りになることを考えているので、自分が、捜査した相手にアリバイがあるとなれば、心の中で拍手するレベルであろう。だから今回もよかったと思った」
と感じる。
「しかし、実際には、
「容疑者すべてに、アリバイがあった」
ということで、
「捜査が却って事件を面倒臭くした」
ということで、
「自分でも、どうすればいいのか?」
ということを考えてしまうのだった。
そんなことを考えていると、
「一体、この事件は、どのような解決を見るのだろう?」
と考える。
すると、
「この事件は、一筋縄では解決しないような気がするが、逆に、見えない何かがいきなり出てきて、急転直下、解決に導く」
ということではないかと思うのだ。
しかも、その急転直下が、
「我々警察の手によるものではない」
ということになれば、
「果たして、事件が解決した時の憔悴感は、ハンパなものではないだろう?」
と考えられるのだ。
だから、捜査員も、それなりにショックは受ける覚悟で当たらないといけないということを覚悟しないといけないのではないだろうか?
この被害者の名前は、村上信夫と言った。
近所のスナックの常連で、ほぼ毎日いた」
というのだ、
客からすれば、
「あの人毎日いたけど、あそこのオーナーか何かじゃないのか?」
と、いろいろな意見もあったが、一番多いのは、この意見だった。
だから、やっているこおはチンピラでも、見た目は、落ち着いた男で、変な言い方をすると、
「見掛け倒し」
ということになるのだろうが、事実、それ以上でもそれ以下でもなかった。
しかも、別にママさんと関係があるというようなウワサもない。
「うまく隠しているのでは?」
とも思われたが、男もそんなに器用なわけでもないし、それよりもママの性格が、
「好きになったらとことん」
というほど、感情をあらわにするタイプなので、そうではないということになると、
「本当にウワサはウワサでしかないんだ」
ということになるだろう。
もちろん、ママが重要参考人であり、アリバイも入念に調べられたが、調べれば調べるほど、彼女に殺害の動機もなかったのだ。
むしろ彼に死なれることは、デメリットが大きい。それだけ、用心棒としての彼に期待していたと言ってもいいだろう。
被害者は、ナイフで刺され、自宅の玄関付近で死んでいた。
宅配業者をよく利用していたので、宅配の荷物がよく届いていたのだが、家に届いても、誰も出てこないのだから、表に見持つが重なって、さすがに、
「まるで引っ越し荷物のようだ」
と言われるようになったので、それも厄介なことであり、結局、管理人が、警察に届け、結果、中をあけてもらい、そこで殺されている被害者を発見したということだった。
そういう意味で、第一発見者は管理人と、一緒に入った警官ということになる。
「まさか、死んでいるなんて」
と管理人もビックリしていた。
「殺人事件が起こったなど、今までになかったことですから」
というが、
「そんなに事件が起こったりはしない」
と刑事は、それを聞いて、そう思うのだった。
管理人に被害者のことを聞いても、
「正直よく分からないんですよ。物静かだし、部屋にいるのか、出かけたのかも、あまりよく分からないかんじですね」
というのだった、
部屋関係だけではなく、被害者の身辺を洗っているっと、暴力団関係者とつながりがあることも分かった
実際に使用していたスマホに残っていた発着信履歴や、連絡先には、暴力団関係者や、事務所が頻繁にあったのだ、
そこで、
「組関係のいざこざかなにかに巻き込まれた?」
ということも視野に入れ、捜査が行われた。
だが、この事件で、最大の疑問が、
「辻褄の合わないことが多い」
ということであった。
一つ言えることとしては。
「今回の事件で、ほとんど怪しい指紋は検出されなかったということが一つ」
だったのだ。
つまりは、犯行は、手袋をしていたという可能性に、さらに、いろいろふき取った跡があった、
しかし、これは矛盾していることで、
「手袋をしていることで、十分であり、下手に指紋をふき取るのは、却っておかしいのではないか?」
ということであった。
さらに、指紋には気を付けていたくせに、スマホをそのままにしておいたこと。
もっとも、警察が殺人事件のためということで、令状でも取って、開示を求めれば、その情報は、取得できるだろう。
何と言っても、持ち主は殺されているわけで、
「被害者の無念を晴らす」
という意味では、開示が当たり前だと言ってもいいだろう。
そんなことを考えていると、
「この事件には、すべてが、中途半端な気がする」
と、捜査員の一部にはそういう気持ちがあり、
「このことを分かっていないと、事件はお宮入りする」
であろうし、
「逆に分かっていることで、事件は案外すぐに解決するかも知れない」
と考えるのであった。
そんなことを考えていると、
「今回の、議員殺害事件というものが、こちらの事件に何かを及ぼしているということは、議員の死体が発見されても、すぐには結びつくものではなかった」
と言えるだろう。
「奥さんの不倫相手ではないか?」
ということも、議員側の捜査から分かったことで、それも、完全な内部リーク、つまりは、
「タレコミ」
だったのだ。
出どころは、
「議員の嫁である幸恵」
だったのである。
議員の事件が、まだ、
「自殺か、他殺か?」
ということで、捜査本部を開くかどうか、考えていたところであったが、
「すみません。今日お話しした刑事さんにお話があるんですが」
ということで、電話が掛かってきたのだ。
どうやら、
「家の中からではまずい」
ということで、どこか表から掛けているようだった。
「はい、どうしました?」
と、最初に若夫婦から話を聴いた田所刑事が、電話に出た。
「あの、実は、先ほどお話できなかった件がありまして」
と言って切り出したのだが、
「私、本当は告げ口するようで嫌なんですが、実は奥さんが浮気をしていた可能性がああるということをお教えしたいと思ってですね」
と言い出した。
「どうしてあなたがそれを知ったんですか?」
というと、すると、
「一度、お父さん夫婦の部屋の前を通りかかった時、中から罵声が聞えたんです」
というではないか。
「その罵声とは?」
と聞いてみると、
「お父さんが、奥さんを怒鳴っているんです。この浮気者ってですね」
というではないか。
「その相手が誰だか聞きましたか?」
というので、
「ええ、その相手というのが、村上信夫だっていうじゃないですか? この間新聞で、見た記事の殺された男の名前だったので、嫌な予感はあったのですが、まさかこんな形で結びついてくるとは」
というので。
「まあ、まだ二つの事件が、何か関係があるとは言えないですが、有力な情報として、こちらも真摯に捜査されていただきます」
と話しておいた。
電話はそこまでだったのだが、それぞれの事件をいかに考えるかであった。
捜査本部でこの話をすると、
「これは縦横な問題ですね。しかし、浮気相手は、半月苗に死んでいるのだし、今回の被害者は、奥さんではなく、御主人だったんですからね。それに、あの若奥さん、、情報をくれたはいいか、信憑性はあるんだろうか?」
というと、
「どうしてですか?」
と田所刑事がいうと、
「いやね。旦那が死んで、奥さんが犯人ともなれば、遺産相続の件で、一人減れば、遺産がもらえる額が増えるわけだろう?」
と、少し濁していったが、それでも、なかなか簡単には口にしていいものなのか、難しいところである。
そんあことを考えていると、
「この二つの事件が、どこかで関わってくるかも知れないが、今は。まず、地道に、被害者の身辺を探ってみることにしよう」
ということで、議員関係で、恨んでいる人も多いだろうから、そこから調べるだけでも厄介に思われた。
しかに、実際に調べてみると、被害者を、
「殺したい」
と思っている人が、そこまでいないのも不思議だった。
「議員は憎まれて何ぼだ」
ということは、迷信なのだろうか、
政治関係に詳しい人に聞いてみると、
「汚いことでも何でもありの昔と違って、姑息なことをすれば結構バレるし、必要以上に大きな問題とするのも、無理なことではないかと考えるのだった。
そんなことを考えていると、
「捜査すればするほど、殺そうとまで考える人は本当に数人に絞られ、そのアリバイを探ると、皆にアリバイがあるのだった」
それでも、
「数人からは、情報を引き出すという意味で、話をしてなければいけないんだろうな」
ということで、数人に話を聴くことになった。
選挙関係の人間が多いので、なかなか捕まらない人もいて、そんな中には、
「やくざ関係者」
もいて、それらの中に、
「奥さんの不倫相手の、あの殺された男の関係者もいるんだろうな」
ということで、調べてみると、そのような人はいなかった。
「じゃあ、若奥さんが言っていたように、偶然聞いたという話はウソではないということであろうか?」
という話になるのだった。
とりあえず、あちらも事件の邪魔にならないように、こちらの捜査も行うということになったのだ。
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