第8話 反発力


「「「「「キルス……」」」」」


「や、やめてくれ……」


 生首が俺を責め立てる。いずれも恨みの表情を浮かべながら。


「何故切った」と。


「ゆ、許してくれ……」


「「「「「許さん……」」」」」


「ヒ……って、俺は何をビビってるんだ。死ねええええええええええええええ!」


「「「「「ぎっ⁉」」」」」」


 俺は迫りくる生首を、【切る】スキルでズタズタに引き裂いてやった。


 ……つもりだったが、やつらはまたしても復活してきた。


「うわあぁああっ――はっ……?」


 気づけば、そこはベッド上だった。そうか。夢だったか。俺はアイテムボックスの家の中で眠っていたんだ。


 思い起こすと、あの後もうちょっと領地を拡大しようとしてたら、どっと疲れて睡魔が襲ってきた。それを切り取るのも難しいくらい疲れてきたんだっけか。


 んで、休憩しようとしたときに一部の盗賊たちが襲い掛かってきて、その首を刎ねたこともあってあんな夢を見たんだろう。


 やつらの鋭さを切らなかったのは、見張りに使うためだが、野心は切っておくべきだったと反省し、やつらの下心も一緒に切除しておいた。


 ただ、物理的にやるのと違って、概念は切ってもまたしばらくすると復活しちゃうんだよな。ん、なんか外が騒がしいな。


「――キルス様、触られました!」


「さ、触ってねえ! こいつ!」


「ん……?」


 どうやら俺の領土内で、何か問題が生じているらしい。話を聞いてみよう。


「どうした、パルア、それにウルド」


「キルス様、聞いてください!」


「どうか聞いてくだせえ、キルス様!」


 俺が連れてきたメイドの一人、パルア、それに、見張りの盗賊の一人のウルドがそれぞれ訴えてくる。


 パルアが庭を掃除中、ウルドに後ろから胸を掴まれたらしい。パルアはお気に入りじゃないメイドの一人だが、だからこそ触られる恐れもあるわけだ。


「それで、触った証拠はあるのか、パルア?」


「……そ、それはないですけど、本当なんです!」


「本当だと? 証拠がないのに本当だと抜かすか⁉」


「うぎゃっ……⁉」


 俺はパルアの頬を思い切りぶん殴った。


「これからは証拠を持ってこい。じゃなかったらもっと酷い目に遭わせるぞ」


「わ、わ、わかりました……ひぐっ……」


「キルス様、信じてもらってありがてえ。本当に、触ってなんかいねえんで。近くを通りかかったら、こいつがいきなり悲鳴を上げやがって。誰がこんなブス触るかよ……」


「おい、一言多いぞ、ウルド。お前も仕置きされたいのか?」


「い、いえっ! すいやせんでした!」


 触ったかどうかはこの際、どうでもよかった。それくらいで俺の領地内で煩わせるなってことだ。


 去勢でもしない限り、盗賊たちは性欲を切ってもそれは一時的なもので、また湧いてしまうからメイドを襲う恐れはある。なので、身分に応じて休憩所や寝所に関しては空間を切り分けている。身分が違うと入れない空間を幾つか作ったんだ。


 だが、真偽のほどはわかっていた。俺は【切る】スキルで『真実』を切り取ることもできるから、パルアの話が嘘か本当かわかったってわけだ。


 頭が切れるっていう言葉もあるし、頭脳を明晰にして考えようかと思ったが、それだと遠回りになってしまうからな。


 あと、『音』を切って相手の呼吸音、心臓の鼓動なんかでも判断できる。


 パルアがウルドに触れられてもいないのにああして訴えたのは、同情を引いて立場を上げようという意図があったのだ。これも『本音』を切り取り、それに耳を傾けることでわかった。


 さ、俺のアイテムボックス内を散策するか。昨日と比べると3倍くらい広くなってて、まさに領土って感じになってきている。


「お、エムル、頑張ってるな」


「ひゃ、ひゃい、キルス様、精一杯がんばりまふ!」


 エムルが領土内の色んなところで掃除をしているのを見かけるので偉い。あとで沢山褒美をやらねば。


 次は農奴のベルチェがいるところへ向かう。そこで色んな農作物を育てる予定なんだ。金はあるとはいえ、アイテムボックス内で自給自足ができるなら損はないからな。


『姿』を切ってから確認すると、ベルチェは畑にいたものの座り込んでて、それを耕す手が止まっていた。なんだこれは。まったく進んでないじゃないか。俺はやつの前で姿を現して詰め寄る。


「あ、キ、キルス様⁉」


「おいベルチェ、さぼるなよ」


「す、すみません……」


「若さと顔だけでチヤホヤされてきたお前にはわからんだろうが、本当に美しいもんはな、汚いものから生まれるんだよ」


「……は、はい、申し訳ありません……」


 ベルチェは表向き謝ってるがいかにも不満そうだ。だが、その顔にはハッとしたものがあったし、両手には握り拳があった。彼女には、若さと顔だけじゃないと反抗する力があったのだ。この反発こそ大事にしたい。


 別に殴ってやってもいいが、こいつには逆効果だろう。あと、こいつに関しては色々なものを切って事を急ぎたくないてのもある。じっくり攻めたいんだ。


「ほら、つべこべ言わずに泥だらけになってみろ」


「ひゃっ……⁉」


 頭から泥を浴びせてやると、ベルチェは凄くびっくりしていたがいい薬になっただろう。さあ、よく寝たし、領土も確認したから、そろそろ旅に出るとしようか。


「アッシュ、近くの町まで頼んだ」


「わかりやした、兄貴!」


 俺は以前と変わらずアッシュに御者役を頼んだ。過去の因縁から意外に感じるかもしれないが、今のところこいつが一番俺の相棒に近いように思う。


 昨晩も裏切り者の盗賊を始末した後で、こいつと酒を呷りながら話し込んだんだ。あっしは止めたんでやんすが、とアッシュが言わなきゃ裏切り者の仲間だと思って首を刎ねるところだった。


「――んで、調子こいたウルドがあんなアホなこと抜かしたんですぜ。本当にクソ野郎なんで。その場で仲間と一緒に大笑いしちまいましたよ」


「……そうか」


 この通り、アッシュは口が悪いものの、とにかく裏表が少ないやつなんだ。いつでもそのまんまだから落ち着ける。俺が騙されてるだけかもしれないが、何かあればすぐ切れるしな。


 これから町へ行き、色々と生活用品を購入したらそこからダリウス領地を出る予定だ。


 その町までがダリウス子爵の領地で、そこから先は俺の知らない世界が広がってるから楽しみだ。

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