第7話 ランク付け


 あれから【切る】スキルで色んなものを切った俺は、それを適用させるためにアイテムボックスの中にいた。馬車で出発する前に領地を開拓しておきたかったんだ。


 その甲斐あって、ボックス内の景色も少しは見られるようになった。自分の屋敷の一部を切り取り、配置してそれっぽくしてやったからな。


 普通の小さな一軒家と、大して広くもない庭、そしてそこに馬車がある感じだ。大人数だとまだ少し窮屈だが住めないこともない。


 もちろん、もっと広くしようと思えばできるが、いきなり大きくはしない。


 何故なら、空間を切るっていうのはそれだけエネルギーの消耗が凄まじいし、俺が疲れてるのを見るやいなや、盗賊たちの眼に鋭い光が宿るのがわかるからだ。


 おそらく、俺を襲って下剋上をする機会を虎視眈々と窺っているんだろう。


 その鋭い眼光を利用して、やつらを見張りとして使うことにしているが、そのリスクも承知済みだ。剣を手にするものは剣によって滅びるとキリストも言ってるからな。


 だが、俺の場合は事情が違っていて、刃の矛先すら見えない無双の剣。これは相手にはより恐怖の対象となって、暗殺や奇襲に歯止めをかけるだろう。


 っと、俺のお気に入りのメイドの一人、ミュリアがこっちに近づいてきた。この状況で自分のほうから俺に近づけるやつなんて今のところこの女くらいだ。


 ここは俺が作ったアイテムボックスの中だと説明すると、ミュリアはすんなり理解してくれた。


 そういうスキルがあると思ったらしい。ま、異世界だしな。そういう意味じゃ住民の理解は早い。


「キルス様、本当に心配したんですよ。盗賊団に捕まり、処刑されてしまったと聞いていたので、生きておられたのでよかったです……」


「馬鹿を言うな、ミュリア。この俺が死ぬわけないだろう?」


「ぐすっ……それにしても、なんだかすっかりご立派になられましたね。あれだけダメな子でしたのに……」


「……」


 ミュリアは、ダメな子ほど愛しいと思うタイプみたいで、それゆえに俺は可愛がられていたらしい。だから、こいつには悪いイメージはない。顔も体も性格も普通のメイドではあるが、そこがまたいいんだ。


「お前はここでもメイドとしてやっていくんだ」


「承知いたしました。あ、キルス様、粗相とかしてないですか?」


「いや、してないし、勝手に脱がそうとするな、殺すぞ!」


「ひゃっ、殺すだなんて……! キルス様、反抗期なんですねっ!」


「……」


 ミュリアはいつもこうだからな。お節介なまでに世話焼きだけど悪いやつじゃないから、こいつにはこれからもメイドとしてやってもらおう。


 俺は領地内でもう一人のお気に入りのメイドを見つけて近づいたら、露骨に嫌そうな顔をされた。


 そりゃそうだろう。このベルチェという女は、誰にも懐かないメイドだったんだから。だからこそ、俺だけのものにしたいと思ったんだ。


 顔やスタイルが抜群だってだけで親父に選ばれた我儘なクソメイドだ。しかも潔癖症で汚い仕事はしないというおまけつき。


「……な、何故、数あるメイドの中で、私をお連れしたのでしょうか、キルス様……」


 ベルチェはいかにも不満そうに顔をしかめてみせたが、それでも美人なのが悔しい。むしろそれが強調される感じなんだ。


 醜女が顔をしかめれば、荘子の故事のようにただ気味が悪いだけだが、ベルチェの場合は本当に憎たらしいほど美しい。


「ベルチェ、お前は今日から、俺のこのアイテムボックスで暮らすんだ」


「じょ、冗談ですよね、キルス様……?」


「いや、本当だ。しかも、お前は今日からメイドより下の身分の農奴だ」


「そ、そんなっ。私が汚らわしい土を弄る農奴など、考えられません。撤回してください……!」


「おい、そんな悠長なことを抜かしてられる立場なのか?」


「くっ……」


「少ないが給料はちゃんとやる。不満なら最底辺の奴隷に降格するが、どうする?」


「……や、やります……」


 ベルチェはいかにも不満そうだが、まあいい。これから現実を思い知ることになるだろうさ。


 次に、隅にある木陰でうずくまっているのところへ行く。


「おい、エムル」


「ひっ……!」


「よっぽどトラウマだったようだな? だが、ここから出ることは許さんぞ。お前は奴隷なんだからな」


「キ、キルス兄様、どうひて、しょんな酷いこと言うの……? ひっく……あんなに優しかったのに……。お願い、あの思いやりのある、温かいお兄様に戻って……」


「都合が悪くなるとすぐこれだ。俺を泣き落そうとしても無駄だぞ。おい、エムル。むにょーとは言わないのか?」


「ぐぐっ……」


 図星だったのか、エムルの顔が強張る。


「奴隷だから他のやつらより多めに働いてもらうが、それが認められれば農奴、さらにはメイドに昇格することもある。その上は、見張り、側近、妾、相棒、正妻だ。どうするかはお前次第だ」


「だ、黙ってれば調子に乗っちぇぇぇ……! キルス、あんちゃなんか怖くもなんともないもん! このまま何もしないって言ったら? あたちを殺しゅって言うの⁉ 今すぐやってみなしゃい!」


 お、エムルが開き直ったのか立ち上がって俺を睨みつけてきた。メンチを切るとはまさにこのことだ。


 さすが、9歳で恋人を作るだけあって迫力も中々だ。前世を思い出していない愚鈍な俺なら圧倒されていたかもしれない。


「いいぞ、エムル。もっと本心を剥き出しにしてくれ。そうじゃなきゃお話にならない。俺も本性を見せてやる。久々に切れちまったよ……」


「にゃ、にゃにをする気……⁉」


「……」


 俺はエムルに対して【切る】スキルを行使する。


「――あ、あるぇ……?」


 すると、俺を見るエムルの目がハートの形になる。何を切ったのかっていうと、彼女の俺への対抗心、嫌悪感、わだかまり、アンデルに対する未練、諸々を切り取ってやったんだ。


「俺に逆らえばどうなるかわかったな……?」


「……ひゃ、ひゃい。わかりまひた、お兄しゃま……」


 エムルは俺をしばらく放してくれなかった……。

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