第6話 効果覿面
「……」
俺は姿を消すだけでなく、『気配』も切ることにした。
なんせ、これから様子を見に行くのはメイドでも愚弟でも愚昧でもない。剣を扱うジョブの中でも、上位のスキル【剣豪】を持つ親父だからな。
とはいえ、気配を切った影響か、自分が自分じゃないような気さえしてくる。なんか、完全に空気になったかのような錯覚さえしてくるんだ。
若干の気持ち悪さはあるが、これくらいしないと透明人間とはいえないだろう。もちろん、『足音』や『匂い』なんかも切ってさらに完全な存在となった俺は、満を持して親父の部屋へと足を踏み入れた。
……お、いるいる。
書斎の奥で偉そうに安楽椅子に鎮座した親父は、テーブル上に両肘を乗せ、頭を抱えていた。その前には執事が立っている。この男も俺をいつも小ばかしてきた男だ。
今のところ、やつらは俺の存在に気づいた様子がない。まあここまで色んなものを切ってるんだから当然だが。
「エルンスト様、それでどうなさるおつもりで?」
「どうするも何も、とうに匙を投げたわ。あのような輩、最早私の子息ではない。外れスキルを獲得した挙句、盗賊団に人質にされるなど、ダリウス子爵家の恥でしかない」
「……」
こんのクソ親父、今すぐ叩き切ってやろうか? ただ、不機嫌な様子も伝わってくる。
俺のことを腐っても自分の息子だと思っているんだろうか? それなら、ほんの少しは容赦しないでもない――
「だがもし、我が子を見捨てたとわかれば、よろしくない噂が流れる。それは、子爵家の評判、ひいてはエリックの将来に影響するやもしれぬ。それが心配なのだ」
……相変わらずの屑で安心した。
ダリウス子爵家は根底から腐っている。だから、俺が改めてやらなければ。
ただその前に、大きな障害を取り除く必要があるだろう。
それでも、己の力を見せつけたいなら……自分がしたことを後悔させたいなら、ただ殺すだけなのは悪手だ。それはバカが考えること。殺害さえすればいいってもんじゃない。
いや、別にそれでもいいんだけどねw殺すよりも良いやり方があるんだからそれを実行するまで。
「ぐあぁっ!」
というわけでまずは執事を始末すると、俺は『隠蔽状態』を切ってその場に姿を現した。
「な、何やつ⁉」
「俺だよ、ダリウス子爵家自慢のご子息のキルスだよ」
「キ、キルスだと? まさか、生きていたというのか……」
「ああ。親父たちに見捨てられて盗賊団に殺されかけたが、地獄の底から這いあがってきたってわけだ。こうして復讐するためにな……」
「父に向かって何が復讐だ。地獄に戻してやるから覚悟せい!」
「うぉっ……⁉」
俺は剣を抜いた親父によって、あっという間に壁際まで追い詰められた。や、やばい。スピードが段違いだ。さすが、【剣豪】なだけあってかなり強い。
「どうした。丸腰でどうやってここまで参上したのかは知らんが、そんなことでよく盗賊団から抜け出してきたものだな。どうせ、盗賊団の一人としてマッチポンプでもやろうと企てたのだろうが……」
「寝言は寝て言え。その程度で俺に勝ったとでも思ってるのか?」
「な、何ぃっ……⁉」
俺は親父の目線を切ったり、視界全体を切り取ったりして遊んでやる。あとは『スピード』を切るともう、四分割した視界のおかげもあり、相手が勝つ可能性は完全になくなった。
「ぬ、ぬぅう……! 一体、どこでこのような小癪な魔術を覚えたというのだ……!」
さて。もう弄ぶのも飽きたから、そろそろ直接的に切ってやるか。
「ぐああああっ!」
俺は【切る】スキルで親父――エルンストの右腕を切り落とす。予備動作なしだから躱しようがない。勝利宣言したいし、そのまま死なれても困るので流血を切ってやる。
「ぬ、ぬあぁ……キ、キルス、一体何をどうやったのだ……」
「お前が不埒だとか言ってバカにした外れスキル【切る】でやったんだよ。それに比べりゃ、【剣豪】スキルって弱いね。はっきり言って今の親父は雑魚だ」
「ぬぐぐうう……」
親父は悔しそうな唸り声を上げたかと思うと、その場に跪いた。
「す、すまん、キルスよ。【切る】スキルなるものが、当たりスキルだとは思わなかった。お前こそ、跡継ぎに相応しい。帰ってきてくれ……」
「なるほど。素直に実力を認めたと思わせて、俺を油断させて殺すつもりだろうが、そうはいかない」
「ぐ、ぐぐっ……キルスよ、まるで別人のようだな……」
「そうだな。まあ、あまりにも惨めだから、命だけは助けてやる。だが、色々と貰っていくぞ」
「え……?」
唖然とする親父に、俺はニヤリと笑ってみせた。
「これからが本番だ……」
「何をするつもりだ⁉」
「まあ、そこで大人しくしておけ。命が惜しかったら、な」
俺は書斎を出ると再び妹エムルの部屋へと向かい、中の様子を覗き込んだ。やつは相変わらずガレフ伯爵の息子アンデルとイチャイチャ中だった。
「あぁん……。あのむにょーに見せつけたら嫉妬するかもぉ。もう無様に死んじゃってるけど」
「無能って、君の兄のキルスのことかい?」
「しょーしょー。あたちに惚れてたみたい。盗賊団に殺されちゃったけどっ」
「ハハッ、実に滑稽だ。君の兄がもし今も生きてたら、我々のまぐわいを見せつけて鬱勃〇をさせることができたね」
「「ギャハハ!」」
「……」
ガキの癖に
というわけで、俺はアンデルのエムルに対する『恋愛感情』を切ってやった。
「エムル……残念だが、君とはもう付き合えない。さよならだ」
「ふぇっ⁉ ア、アンデリュウウウゥッ!」
いきなりアンデルに振られて涙目のエムル、可哀想に。
「よう、エムル。元気にしてたか?」
俺はタイミングよくそこに参上した。
「キ、キルス兄しゃま……⁉ 生きていらしたにょ……?」
「ああ。エムル、これからお前は俺の奴隷になってもらう」
「しょ、しょんな……!」
俺は妹をアイテムボックスに収納すると、今度は弟エリックのところへと向かった。
「――ワハハッ!」
エリックのやつ、酒が回ったのかすっかり出来上がってしまってる様子。まあまだガキだからな。
「ういー……無能な兄の死に乾杯! それとだ……この世のありとあらゆる女は僕のもんだ。僕が跡継ぎになったら全員孕ませてやるうぅ……!」
いくら酔っ払ってるとはいえ、11歳でこんなふざけたことを言うガキは許せない。
「おい、エリック、帰ってきてやったぞ」
「キ、キルス兄様……⁉」
俺を見て殴られたような反応をするエリック。まあ当然か。
「よく聞け、愚弟エリック。兄より優れた弟なんていないんだよ。思い知れ!」
「ぐぎっ⁉」
「エ、エリック様、どうされました⁉」
うずくまるエリックに対し、お付きのメイドが心配してるがもう遅い。
俺は愚弟の『アソコ』を切り去勢してやったんだ。これでもう孕ませられないねえ。こいつは無類の女好きだから、殺すよりもこうしたほうが効果敵面だ。精々、生き地獄を味わうんだな。
さて、最後にお気に入りのメイドたちを含めて人員を確保して、金品等も頂戴して帰るとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます