第4話 全能感
「いただきまーす。パクッ……うまっ!」
「「「「「……」」」」」
静まり返った盗賊のアジト内、俺のスプーンで皿をカチャカチャとやる音や咀嚼音だけが響き渡る。
提供された食事は、子爵家のものと比べると普通で大味だったが、それでも空腹の俺には物凄く美味に感じられた。
もちろん、俺はただ単に食べるだけじゃなく、周りの動きにも気を遣っている。なんせやつらは盗賊だからな。何をしでかすかわかったもんじゃない。
そのために、【切る】スキルで視界を四分割して、上下(前と後ろ)だけでなく両サイド(左と右)にも視点を用意したんだ。
だから、こうして食べ物を貪りながらも、連中の動きが見える見える。お、盗賊たちが一つに集まって何やらヒソヒソと話し始めた。
……気になって耳を澄ませてみたものの、何を喋ってるのかさっぱりわからない。
そうだ、このスキルは概念すらも切れるんだし、『声』も切れるはずだよな。
というわけで、俺はボソボソと聞こえてくる『盗賊の声』を切ってみた。
お……すると声が聞こえなくなった。
ってことは声を切ったってことだ。
切ったものはどこへ行ったのかと思ったら、テーブルの上に半透明の球体が転がっていた。
これが音の破片か?
それを拾って耳に当ててみると、信じられないくらいはっきりと聞こえる。性能のいいイヤホン並みだなこりゃ。
「おいおい、よく食うな、この人質」
「こいつ、なんか妙だな」
「ああ。人質にされたら、普通は飯なんてろくに食えねえはずなのに」
「それに、やたらと堂々としてるな。さすが子爵の子息」
「……」
なんかやたらと褒められてるな。まあでも、普通は連れてきた人質がこんなに食欲あるなんておかしいって思うのは自然な流れか。
「あ……おで、わかった気がする。こいつ、外れスキルを貰うくらいだし、すげーバカなんじゃね? だから頭の働きが鈍い」
「「「「「ブッ……!」」」」」
「……」
今ふざけた発言をしやがった盗賊は、何かあったらすぐ始末するとしよう。視界を四分割してるし、誰が言ったかもすぐわかるんだからな。
ん、リーダーがダイニングルームに入ってきて、盗賊たちが静まり返った。
部下の一人が俺のことを報告してる。人質の癖によく食ってるってさ。リーダーはそれに対して頷くと、鼻で笑ってみせた。
「フンッ。強がってるのかどうかは知らんが、食欲だけはあるようだな。食いたいだけ食わせておけばいい。だがな、もし使えないとわかれば……」
「……」
リーダーが剣を取り出すと、俺の首に刃を当ててきた。
これは片刃の剣でいわゆるファルシオンってやつだ。この男だけは食えないっていうか、さすがリーダーだと感じる。
先に始末するならこいつだな。
そのあと、盗賊団は子爵家に身代金を要求するために手紙を筒に入れて伝書鳩で送ることになった。ひとまず中継地点にいる仲間の鳩舎に飛ばすんだとか。
『盗賊の一人の視点』も普通に切れたので、それを視界の片隅に置けば、やつらがやろうとしてることが何もかも手に取るようにわかるんだ。
当然、切られたほうはしばらく視野が少し狭くなるから違和感はあるだろうが、物理的なものでなければいずれ元に戻るので警戒されることもないだろう。
改めて、【切る】スキルがいかにチートスキルなのか思い知らされる。
やがて、数時間後に伝書鳩が戻ってきて、盗賊たちが血眼で手紙を確認し始めた。
それによって俺がどうなるかわかるってことだな。ああ、ゾクゾクする。自分がこれからどんだけ恐ろしいことをやれるかって想像すると、鳥肌が立つくらい嬉しくなってくるんだ。
とりあえず俺も手紙の中身を見たいってことで、視界の片隅に置いた『盗賊の視点』を食い入るように見つめた。
何々――キルスはもう私の息子ではない。煮るなり焼くなり好きにしろ、だって。
あんのクソ親父……やっぱり盗賊団の取引には応じなかったか。
「うぬぅ。使えない人質だ。今すぐ殺――」
「「「「「お、親分っ……⁉」」」」」
ボスが俺の殺害を命じようとした瞬間、【切る】スキルによってその首が飛び、子分たちはギョッとした顔つきに変わった。
「よく聞け、カスども。これは俺がやったんだよ。お前らがバカにしてる外れスキルでな。ボスのようになりたくなきゃ、大人しく俺の言うことを聞け」
「「「「「イエッサー!」」」」」
連中はあっさり屈服した。この全能感、超キモティイイイッ!ww
これで俺は盗賊団を乗っ取り、馬車という移動手段や、人員を確保できたってわけだ。
さて、本当のショーはこれからだってことで、俺を乗せた馬車をエルンスト・ダリウス子爵の屋敷へと向かわせるとするか……。
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