第3話 視界良好
「……」
俺はだだっ広い荒野を歩くうち、立ち止まった。
腹が減ったし、疲れた……。
気が付けばもう夕方だ。町のある方角については教会付近で通行人に聞いたが、相当に遠いらしい。
一日中歩けばそのうち着くだろうから頑張りなさい、だって。ふざけんなwそれでも、今の俺には行く当てなんてないから、そこを目指すしかない。
「クソクソクソクソクソッ……」
俺の脳裏に浮かんできたのは、縁を切った連中の面だ。それも、ほら見たことかと言いたげなドヤ顔。俺はそれを文字通り滅多切りにする。
そうだ、概念も切れるんだったら空腹を切ってやろうかと思ったが、切ったらエネルギーを消耗するので悪化する可能性。喉の渇きに海水理論だ。
メイドたちの作るご馳走が食べられないのは残念だが、だからってあの屋敷へは絶対に帰るもんかよ。
いくら空腹が満たされても、外れスキル持ちとして弟や妹たちにバカにされ、親父から叱責される日々なんて耐えられるわけがない。
俺のスキルの性能を見せてやれば掌返しするだろうが、どうせならゼロから成り上がりたい。努力も苦労もするつもりはないが。
とはいえ、このままじゃ野宿、さらには野垂れ死にが待ってるのも事実だ。子爵令息が犬死にするなんて笑えない。
「あ……」
たった今、俺は名案を思い付いた。
それは、アイテムボックスを領地代わりにできないかってことだ。領地もアイテムの一種だと考えればいい。
というわけで、俺は早速その中に入り、『場所』を切ったパネルを、中に置いてみた。
すると、どうだ。ちゃんと地面らしき場所に変わったんだ。これは立派な土地だ。
その要領で、俺は外へ出ると【切る】スキルで周囲一帯の場所を丸ごと切り、そのままアイテムボックス内に貼り付けて俺の土地へと変えてやった。
これでアイテムボックスは俺だけの領地へと変貌を遂げたってわけだ。
もちろんまだ倉庫くらいの狭さだが、現時点じゃこれで充分だ。そのうち、他の空間を切り取ってくっつけて徐々に拡大していけばいい。
なんせ、あれは結構消耗するからな。今はただでさえ腹が減っててエネルギー不足だから厳しい。町に着いたら、【切る】スキルで何か商売でもして食事代くらい稼がないとな。
……はあ。死ねよもう……。
だが、現実は無情だった。歩いても歩いても何も見えてきやしない。いい加減、この荒野は同じ景色ばかりで見飽きた。そうだ。『視界』って切れるんだろうか?
気晴らしにもなるし一応やってみるか。というわけで、俺は視界を切って上下に二分割してみる。
お、ちゃんと切れた。とはいえ、これだけじゃ意味がない。俺は後ろと前方の下半分の視界をパネルとして切り取り、交換してみることにした。
これで、上半分は前方、下半分は背後の視点になるってわけだ。背後からなんか来たらすぐわかるし、こりゃ便利すぎる。
ん、その下半分からなんか来ると思ったら、あれは馬車だ。
まさか、親父らが俺を追いかけてきたのかと思ったが、どうも違うっぽい。
大きな馬車ではあるが、外観がやたらと地味だし、あれは親父――エルンスト・ダリウス子爵の所有する豪華な馬車ではない。
となると、まさか――
「おい、そこのやつ、止まれ!」
馬車が俺のすぐ近くで停車したかと思うと、荒っぽい声が耳に届いた。
馬車の中から一斉に覆面姿の男たちが現れ、あっという間に包囲されてしまった。おいおい、こいつらはどう見ても盗賊団だ。参ったなこりゃ。
「縛れ!」
「「「「「へいっ!」」」」」
リーダーっぽいやつがそう指示して、俺はロープでグルグル巻きにされた。こんなことしても【切る】スキル持ちの俺には無駄なことなんだけどな。なんか面白そうというか利用できそうなので好きに遊ばせておく。
「おい、確認しろ。ターゲットはこの男で間違いねえか?」
「ああ、こいつは子爵令息のキルス・ダリウスで間違いねえ!」
「よし! 外れスキルを貰ったせいで縁を切られたって話は間違いじゃなかったか」
「げへへ、縁を切られたといってもよお、金持ちのガキには違いねえしこれで一儲けできるなあ」
「……」
そうか、盗賊団にも知られてたのか。教会関係者の中、あるいは俺の身内の中にこいつらの間者が紛れ込んでたんだろうか?
「「「「「乗れっ!」」」」」
こうして人質にされた俺は、馬車に無理矢理乗せられることになった。だが、歩くのがしんどかったから助かった。
人質にされたんなら利用価値があるってことだし、飯も食わせてくれるかもしれないしな。
これからアジトにでも連れていかれるんだろうが、ありがとうと言いたくなる。ハグもおまけつきでw
盗賊団と俺を乗せた馬車はまもなく出発する。いいぞ、こりゃ最高の展開だ。
もし、そのあと殺されかけたら? もちろん、そうなったらすぐに連中を始末すればいい。ロープで雁字搦めでも、スキルは普通に使えるわけだからな。
どっちみち、俺が人質として使えないとわかれば用済みとして殺すだろうし。どっちが死ぬかの違いしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます