第2話 驚異的性能
子爵としての立場を切り捨てるなんて、バカなことをしたと思うやつもいるかもしれないが、別にこれでいいんだよ。
なんせ、一度は死んだ身だしな。
それに、スキルがハズレだからって奴隷みたいに扱われるなら、そんなところに長居したっていいことはないだろう。
言いたいことがあるんだったら、遠慮せずにズバッと言い切ればいいんだ。
誰かに嫌われるのを恐れて芋虫みたいにウジウジする生き方はもう御免だ。それほど惨めなことなんてないからな。去勢された雄に等しい。
とにかく、終わったことはどうでもいい。
それより、このスキルについて知りたいってことで俺は教会へと舞い戻っていた。
さすがに親父らの馬車はなかったから、俺を置いて帰ったっぽい。
それでもスキルを贈与してくれたあの神父はまだいて、俺を見ると軽く会釈してきた。
「あ……キルス様、先ほどは、大変でしたね。しかし、あなたの堂々とした言動は、見ていて正直スカっとしましたよ。なんか、いきなり豹変したような感じで」
「そうかそうか。そりゃよかった」
そりゃ、前世を思い出したからな。
「ですが、大丈夫ですか? 父上のエルンスト様は、相当にお怒りでしたよ」
「カンカンってわけか。いい気味だな」
「ははっ……キルス様は豪気ですなあ」
「それより、【切る】スキルの効果を教えてくれ」
「あ、それについて教えていませんでしたね」
「っと、その前に。神父よ。効果を石板に表示するのはやめてくれ。その辺の連中に見られたくないんでな」
「かしこまり」
俺はプライバシーの侵害を許したくなかったので、神父から耳打ちで【切る】スキルの詳細を聞いた。
「【切る】スキルは、アクティブスキルです。物理的にだけでなく、概念的なものを『切る』ことができます。その際にはエネルギーを消耗し、スキルの使用者のエネルギーが弱まると『切る』力も弱まるということです」
「なるほど……って、それってやばい性能じゃ?」
聞けば聞くほど、俺のスキルが恐ろしい性能を持っていることがわかる。
「はい、キルス様。私も説明していて背中に冷たい汗が流れました。切られてしまうんじゃないかと」
「そうなのか。じゃあ試し切りしてやろうか?」
「ひいっ! お助けを!」
「冗談冗談」
実際に切れるのかどうかも不明だしな。
ただ、相手が俺にとって邪魔だと感じたら、一切容赦せずに悪即斬でいいだろう。ヤダー殺したくないよーウジウジ……ってアホか。力があるのにそれを使わないのはただのバカだ。
教会を跡にした俺は、とりあえずその辺の植物を切ってみることにした。
おお、切れる切れる。シュパシュパと、見えない鎌で刈り取ってるみたいに雑草退治だ。こりゃ気持ちいい。
部分的に切れるのはわかったので、今度は全体的に切ってやろうとすると、周辺の雑草がシュパパッと一気に切れた。
ははっ、凄いじゃないか。ただ、それでちょっと気力を消耗したのは事実。部分的なのはいいが、範囲を広くすると結構しんどいんだな……。
そうだ。雑草みたいな柔らかいものを切れるのは当たり前として、硬いものも切れるのか?
俺は手頃な石ころを見つけると、【切る】スキルを使ってみた。
「……」
信じられない。真っ二つだ。
これって、滅茶苦茶使えるスキルなんじゃね?
よーし、この調子で、次は概念ってのを切ってみるか。
概念っていえば、心とかそういう見えないものだろう。
ってことで、俺は少なからずあった不安を切ってみせた。
お……いい感じだ。不安が一気に払拭されたぞ。本当になんでも切れるんだな。
そうだ、抽象的なものといえば、『場所』は切れないだろうか? 地面とはまた別だ。
俺は早速試しに自分の足元という場所に【切る】スキルを使ってみる。
「ちょっ……⁉」
すると、切れた。
信じられないことに、何もない場所に切れ目がついたんだ。もちろん、俺が思うように切れる切れる。
場所の一部を長方形の小さなパネルの形に薄く切り取ると、そこに同じ形の黒い穴が開いた。ただ地面を切るだけじゃこうはならない。
黒い穴は見る見る元通りになっていくが、パネルはそのままだ。
パネルに手を入れてみると、切り取った場所から手が出てきた。ポータル化してるのか。これは凄いな。こんなこともできるとは……。
それなら、これはどうかと思って、俺は空間ごと深々と切り取ってみる。
「ふう……」
結構疲れたが、四角形の空間を手にすることができた。空間の中に頭を入れて覗き込んでみたが、真っ暗で何も見えない。
これはいわゆるアイテムボックスになりそうだ。さらに切ってサイコロみたいに小さくすることも、切ったものをくっつけて元の大きさに戻すこともできた。よし、これなら手軽に持ち運びできるから色々と捗りそうだな。
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