スキル【切る】が最強でした。~子爵の令息として転生しましたが、ハズレだからと縁を切られたので、流浪の貴族として色んなものをぶった切って快適に生活します~
名無し
第1話 スキル受贈
「さあ、そろそろ参るぞ、キルス」
「行きましょう、キルス兄様」
「行きょー、キルス兄ちゃまー」
「はい、お父様、それにエリックとエムルよ」
僕はエルンスト・ダリウス子爵の子息で嫡男のキルス・ダリウス。これからお父様、二歳下の弟エリック、四歳下の妹エムルらとお出かけだ。
僕の家は、公爵、侯爵、伯爵に次ぐ子爵というだけあって、屋敷は当然、迷子になるくらい規模が大きいし、庭も掃除中のメイドたちが泣き出すくらい広い。
辺境のほうだから都からは少し遠いが。まだ明るいうちから晩餐が終わり、大人数で教会へと出発する。まさに大所帯だ。
13歳になったということで、これからスキル付与の儀式を、家族とともにやる予定なんだ。
この世で成功できるかどうかは、スキル次第といわれるほどその依存度が強い。
たとえば、剣の中で最低スキルといわれる【剣使い】を獲得した人は、それだけで剣を持つと格段に強くなり、10年以上剣の修行をしたスキルなしの男を圧倒できるんだそうだ。
弱い順に【剣使い】【剣術士】【剣客】【剣豪】【剣聖】【剣神】と、現在確認されているだけでもこれだけある。
父はその中でも上位のスキル【剣豪】持ちとして数々の戦果を挙げ、つい最近になって昇爵して男爵から子爵になられた立派なお人だ。
僕はその子息として、かなりの期待を背負わされている。
「私の嫡男としては、最低でも【剣術士】スキルくらいは欲しいところだが、【剣聖】が出れば、さらなる昇爵と隆盛を誇ることができるであろう」
「は、はい、お父様……」
馬車の中でまでプレッシャーかけてくんのやめてもらえないかな?
「キルス兄様なら、最高のスキルを獲得できるはずです。できなきゃおかしいです」
「……」
おい、弟のエリックまで重圧かけんなよ、クソ……って、僕ったら、いくら心の中とはいえ、口が悪い。昨日変な夢を見たせいかな?
それは、自分が別世界にいる夢だ。
その世界は服装から自分たちが着ているものとは全然違うし、塔みたいな巨大な建造物が幾つもひしめき合うようにして並んでるんだ。
お、馬車が止まった。教会に着いたみたいだ。
「にいしゃま、着いたよー」
「お、そっか。エムルは可愛いねー」
「ありがと。れも、勘違いひないでね。あたち、恋人いるから」
「……」
妹のエムルだけは可愛いと思ったけど、こいつもダメだ。9歳で恋人?w マセすぎだろ、舐めやがって。死ね……あれ、僕ってこんなに口が悪かったっけ?
「どうした? キルス」
「あ、いえ、なんでもありません。お父様」
「ふむ……」
僕は、心の中に何か黒々とした、それでいて熱いものが蠢ているのを感じていた。
「――キルス様にスキルを付与いたしました」
面倒臭い儀式が終わったあと、教会の神父が厳めしい顔で宣言し、いよいよ石板に僕のステータスとスキルが表示される。
名前:キルス・ダリウス
性別:男
年齢:13
種族:人間
剣術:D
武術:E
魔術:F
聖術:F
スキル:【切る】
「な、な……なんなのだ、この不埒なスキルは……」
父親が石板を見てわなわなと震えてる。いや、震えたいし泣きたいのは僕のほうだよ。何このプライバシー完全無視の石板。早く消えてくれ。
「どのようなスキルかと言いますと――」
「神父よ、皆まで言う必要はない!」
「……」
いや、期待外れでお父様が怒ってるのはわかるけど、早とちりすぎだろ。神父様に説明くらいさせてやれよ。
「価値の低いスキルだというのは、何の変哲もないステータスを見れば一目瞭然ではないか。こんなどうしようもない、無様なスキルを獲得するとは……キルスよ、もうお前など、私の息子ではない。今すぐ出ていけ!」
「ププッ……兄様、無様ですね。でも、これで僕が跡継ぎ決定です。めでたしめでたし」
「あはは! バカみひゃい。変なしゅきる! むにょーの兄様らしー」
「……」
たった今、はっきりと思い出した。僕――いや、俺には前世があった。
父親から虐待を受け続けてきた俺は、それでも頑張って学校へ行き、就職して会社勤めをしてきたが、そこが24時間働けますかって感じのいわゆるブラック企業というやつだった。
それでも、俺は周囲をがっかりさせないように、期待に応えようとした。
その結果、誰からも愛されず、認められず、クソみたいな人生を生きてきた。いわば、奴隷だ。俺はピラミッドの下で搾取されてきたのだ。真面目に生きれば生きるほど馬鹿を見る。はい、紛れもない真実です。
真面目に頑張ることが無駄でバカな行為だと気づいたときには、もう遅かった。ストレスからか心臓発作で死んだんだ。
その数日くらい前から筋も血管も見えないくらい両足の先端がパンパンに腫れあがってたし、夜も眠れないくらい心臓がドキドキしてたから、早死にするんじゃないかって嫌な予感はしていた。
そうか、俺は子爵の令息として転生したんだな。なのにこんな酷い仕打ち。いいだろう。やり返してやる。
「何が子爵だ。笑わせるな。こんなクソみたいな家、俺のほうから縁を切らせてもらう」
俺はそう啖呵を切ってみせた。【切る】スキルなだけに。
「あばよ、カスども」
「「「「「……」」」」」
マヌケ面で唖然とする連中にそう言い残して、俺は教会を立ち去った。あとはもうどうにでもなれ、だ。
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