第一話

あれから僕達は、そのまま大佐の部屋に向かい、大佐はローブを脱ぐ。

大佐が、うちで僕と一緒に暮らしたいと言い出したのだ。

まぁ、僕は元々一人暮らしだったけど、別にそこまで思い出もないって言うか、あまり大きな家でもないし、二人で住むには小さい気がする。

大家さんとかもいないし、別に放ったらかしにしても構わないだろう。

場所もそんなに遠くなかったから必要な荷物だけ持って来た。

恐らく、これで大丈夫だ。

…まぁ、僕が大佐と一緒に居たいって思う気持ちが強すぎるからそう思えてるだけなのかもしれないけど。

…それにしても、大佐の家は割と山奥、なのかな。

結構道を歩いて来たけど、もう少しで着くのかな…?


「…此処だ」


下げていた顔を上げる。

…山奥にあるのに、とても大きな家だった。

…綺麗でしっかりしてそうな家。

先生が自分で建てたのかな…?こんな場所に家なんて…、

僕は、大佐が家の鍵を開けるのを横で待った。

あれ、でも、オークションの時に五億円とか言ってたあれ、って…?

まさか、大佐って物凄いお金持ち…??


「…あの、大佐。

オークションの時に言ってた五億円とか言う大金、何処でそんなに手に入れたんですか…?」


鍵が開く音が鳴った。


「あんなものはガセだ。元々金なんて出すつもりはない

ただ、お前を助け出すだけの為にあの場にいたのだからな。」


…じゃあ、本当にオークションに参加する気なんてなかったんだ。

…何処から僕が彼処に居るって言う情報を手に入れたのか分からないけれど、とにかく僕を助けに来てくれた事を、改めて嬉しく思った。

大佐がドアを開け、僕に先に入るように合図した。

軽く頭を上げて中に入る。

…凄く、広々とした家…、

木造建築で、心が休まるように感じられる空間だ。

どの部屋に入ったらいいかまだ分からないけど、とりあえず今は大佐に着いて行く事にした。

大佐は真っ正面にある扉を開いた。

続いて僕も中に入って行く。

…その中は、やっぱり広くて、綺麗に片付けられていた。

…何か、こう、大佐って綺麗好きなのかな、やっぱり。几帳面なところもあるのかも。

何だか、色々なことにわくわくしてしまう。


「紅茶でも飲むか?」


キッチンの方から大佐が話しかけてきたので、そっちに振り返って返事をした。


「あ、はい。お願いします」

「そうか、じゃあそこの椅子にでも座ってくれ」


僕は、大佐が指を指した二つの椅子のうち、好きな方に座った。

大佐が紅茶の入ったティーカップを持って来て、僕の前に置いた。

そして、大佐が向かいの椅子に座る。

…わぁ、なんか、

何この親近感…!

軍の時とは違って、何だかとても距離感が近い気がする。それに、会うのも凄く久しぶりで、とても新鮮な気分だ。


「…そうだな、

良ければ、私の今までの話でも聞いてくれないか」

「はい、是非聞かせて下さい」


僕は、幸せでニコニコしている口角を抑える事が出来ないまま、大佐を見つめた。


「分かった

私はあれから基地を去って、…まぁ、あまり目立つような事は特にしていないのだがな。

色々な所に行ってみたり、街を歩いてみたり、色んなものを見て来たのは確かだ」


僕は頷きながら大佐の話を興味津々に聞いていた。


「…そんなようなことをしていたら、いつの間にか戦争が禁止される世の中になっていたんだ

…それで、お前と会える機会がなくなったのは、本当に心苦しいものだったな

それを知った時、私は基地がある所からはかけ離れた場所にいたから、すぐに基地に駆け付けることなど出来なかったんだ」


気持ちは大佐も同じだったんだ、と共感の気持ちを抱くのと同時に少ししんみりした気持ちになる。


「それから、情報もないままMajorを探し出す旅に出ることにした

まずは基地があった場所まで行って、出来るだけの情報を集め、いち早くMajorに逢えるように努力しようと思ったんだ。

…こうやって考えると、長い間お前を探し回ってたことになるな」


こっそり僕も大佐のこと探してた、…なんて言ってみたいけど、ちょっと恥ずかしいな。


「それで、何故お前がオークションに出されているのかを知ったのかと言うとだな、

…偶然私はその辺りに居たらしく、たまたまオークションで今日出される品についての広告を見つけたんだ

それで、時間と場所を明確にし、どさくさに紛れてお前を助け出した、と言う感じだ」


こんな偶然ってあるんだな…、僕達、やっぱり何かで繋がり合ってる気がする。

それに、僕に”逢うために”とか、”助け出す”とか、

そう言う言い方をしてくれる大佐には、更に好感を抱いた。

…やっぱり、僕、

大佐のこと、好きだな…。

僕はつい顔を赤らめてしまい、同時に頬が緩んだ。


「…えへへ、ありがとうございます。

とても嬉しかったです。最初は全然気付かなかったんですけど、途中から声とか喋り方とかで薄々気付き始めました」

「…そんな小さなことでも私だと気付いてくれたのか?」

「ぇ、…は、はい。」


小さなこと…、

…そりゃあ、だって、僕もずっと先生を待っていたし、

先生の顔や声を忘れる筈などなかった。

…ずっと、大佐への気持ちも変わらなかったから。


「…それは有難いことだな」


そう言って、大佐は自然に頬を緩めた。

僕はそれに少しソウルを鳴らしてしまう。

…大佐の笑顔、久しぶりに見た気がする。

それに、なんか、

今の大佐の笑顔はどこか、前よりも柔らかい表情のように感じられた。

昔みたいな塩対応な大佐も大好きだったけど、

…良く笑顔を見せてくれるような大佐も、悪くないかもしれない。

僕は、ティーカップに入っている残りの紅茶を飲み干した。


「…そう言えば、お仕事とかはされてるんですか?

こんなに大きな家も建てるなら、それほどのお金も必要だと思うんですけど…、」

「あぁ、そう言えば言ってなかったな」


もう仕事もしてるのかな…。してないとしても、お金とか生活はどうしてたんだろう…。


「実は、明確には決まってないんだ。この家も、元々此処にあった空き家で、当時はかなり朽ちていたから、

能力で修理して、ここに住む事にしたんだ。

オークションの時に着ていたローブも、あの時だけのものだ」


そうだったんだ…、此処が空き家だったなんて…。

今では、元々空き家だとは思えなぐらい綺麗になっているのに…。

こんなに大きくて住みやすい家なのに、誰が捨てたのかな。

…まあ、お陰で僕と大佐が一緒に住めるようになったんだから、いいけど。


「だが、流石にこのままだと、私もMajorも生活出来なくなる

近いうちに就く職業を探そうと思っているのだが」

「そうなんですね、また僕にも色々と協力させて下さい」

「…因みに、私に就いて欲しくない職業などはあるのだろうか、」


…うーん、それは、別に大佐の好きにすればいいと思うけどな…。

相変わらず、大佐が気を遣おうとするのは変わっていないと感じた。


「大佐が好きなのに就けばいいと思いますよ。僕は全然それで構いません」

「…そうか、それならいいんだが」


大佐は少し心配そうに僕を見た。

僕は、別に職業まで強制したい訳じゃないし、むしろ大佐の自由は奪いたくない。

大佐が好きなように行動出来て、それが大佐にとって満足なら、僕はそれでいいと思っていた。


「…そう言えば、なんだが…、」

「どうしたんですか?」

「私達は、一応もう軍隊活動はしていないだろう?

…そろそろ、私の事を”大佐”と呼ぶのと、

敬語を使うのはよして欲しいのだが…、」


思ってもいなかった事を言われ、一瞬思考が停止してしまう。

…え、それってつまり、大佐にタメ口で話せ、と…??

…えぇっ、そんな、急に言われても今から直せないよ…っ、

今までずっとこうやって呼んできたのもあって、今から変えようとなると、少し遠慮がちになってしまう気もする…。

そもそも、”大佐”じゃないならなんて呼べば…っ、


「…え、えぇーっと…、」


僕は、発言をするよりひたすら思考をぐるぐる回した。

…うぅぅ、どうしよう…。

…慣れていないのに、いきなりタメ口で、しかも名前呼び……、

…恥ずかしい何も程がある……。


「…そうだな、じゃあ若者言葉で構わない

これから私の事は普通に”Colonel”と呼んでくれないか」


わ…、心読まれた…、

大佐から心を読まれるのは凄く久しぶりで、更に焦るような気持ちになってしまう。


「っ、えぇぇえっ、…、」

「…嫌か?」

「…嫌、などではないですけど…、」


大佐は、少し困ったような顔になった。


「…私はただ、お前との距離を縮めたいと感じただけで、別にお前が嫌ならばそれでも構わないぞ」


…ホントにどうしよう。

でも、そうでもしなければこれからどうやって大佐を呼べばいいかも分からない…。

…本当に大佐がそれでいいって言うなら、頑張って慣れていってみようかな…。

僕だって、大佐との距離は縮めたい、し…。


「…んー、…、分かりました。

もし無理そうだったら、その時はまた言うかもしれませんけど…」

「あぁ、構わない。別に今からそうしろとも言わないしな

気が向いた時にでもそうしてくれると有難い」


そう言いながら、大佐は席を立ち、自分と僕の空のティーカップを持ってキッチンの方へと持って行った。

…なんか、僕達本当に二人っきりになったんだなぁ。

同居、かぁ…。

まだ慣れない気もするけど、凄く新鮮な気持ちだ。

同時に、凄く幸せな気持ちだったりもする。此処は結構山奥で街からも離れてるし、誰にも邪魔されない。何をしてても、誰にも見つからない。

…なんて恵まれた環境なんだろう。

僕は机と椅子が置いてあるすぐ横にあるベランダへと窓を開け、外に出てみることにした。

手摺りに腕を乗せて、景色を眺める。

…いい景色。

何だか、基地の屋根からの景色を思い出すなぁ。

大佐、単純にこの場所が少し気に入ったのもあったりするのかな。

それに空気も美味しいし、風通しもいい。本当に住みやすい所だ。

僕は、そんか心地いい環境に浸り、腕の上に頬を乗せ、目を瞑った。

…木が風に靡く音、鳥の鳴き声。色んな音が聴こえてくる。

…海の音も聴こえてきた気がして、僕はそっちの方向に顔を上げた、

その時、


「、っわ、」


大佐が突然、ゆっくりと肩から腕を絡めてきて、驚いてしまい、つい声を漏らす。

…とても久しぶりな気がして、少しソウルが鳴り始める。


「…Major、」

「…、何ですか?」


僕は、若干ソウルをドキドキさせながら返事をする。


「…、やっと二人っきりだな」


耳元で聞く大佐の声すらも久しぶりな気がして、またソウルをドキッとさせてしまう。

…確かに、僕達は再会して、もうこの後からはずっと二人っきりで居られる。

…あぁ、なんて幸せなんだろ、こんなに幸せな事が以前にあっただろうか。

僕は少しだけ頬を緩め、絡められている大佐の腕の上から手を重ねた。


「もう、離れないからな。」

「…あはは、恥ずかしい事言わないで下さい

…これからも、傍にいて下さいね、大佐」

「あぁ、勿論だ

これからもずっと、お前の傍にいよう」


僕達は、目の前に広がる景色を眺めながら、今ある幸せを身を持って感じていた。


「…大佐、」

「…何だ?」


……、

愛を伝えようとしたけど、これもまた久しぶりな気がして、しばらく口篭ってしまう。

…改めて、それを口から出そうとする。


「…だいす————」

「愛している。」


僕が喋っているのに、大佐が割り込んできて、僕が話そうとしていた言葉は遮られてしまった。


「っ、もう、やめて下さいって!恥ずかしいんですってば!」

「すまない、少しからかっただけだ」


大佐は鼻笑い混じりでそう言った。

そして、僕に絡めた腕に、もう少しだけ力を入れ、身体を委ねてきた。


「…、大好きですよ」

「あぁ、私もだ。愛している」


そう言って大佐は、背後から頬を僕の頬に当ててくる。

僕は、未だソウルを鳴らしながら、

目を瞑り、幸せに浸っていた。

—————————————————————————

「…そう言えば、今日の晩飯の話なんだが…、」

「はい、」


リビングでテレビを見てると、大佐に話しかけられ、振り返る。


「もし作れないようであれば、私が作るが、

…どうしようか」


あー、今日の夜ご飯かー…、

…あ、

夜ご飯!?

作りたい!!


「あ!僕が作ります!!」

「そうなのか?材料とかまだ買って来てないんだが…、」

「いえ、なら今から買って来ますよ!」


料理に関しては、少し自信がある。

ここは僕が率先して、大佐にいいところ見せたい…!

僕は早速、買い物をしに行く準備をし始める。


「…どうしたんだ、そんなに張り切って」

「いえ、別に何でもないですよ!行って来まーす!」


僕はそれだけ張り切りながら大佐に言い残して、お金をある程度持って家を出た。

僕は駆け足で街まで向かった。

…って、あんま道覚えてないな…、まぁ大丈夫か、

僕なら何とかなるよね。

大佐、何が好きなんだろう…、何作ったら喜ぶのかな、嫌いな料理とかはないかな…。

しまったな、さっき訊いとけばよかったな。

でももう時間もあまり残ってないし、今更引き返す訳にもいかないよね。

色々な事を考え、妄想しながら街に向かった。勝手に大佐の喜ぶ顔を想像して胸が弾む。

…いいや、今日は何を作るとか、そう言うのは考えないで、

とにかく、美味しいものを作ろう。




…しばらく行くと、街に出た。

まずはお店を選ばないと。見た感じお店はいっぱいあって、材料には困らなさそうだ。

…んー、どんなのを作ろうかなぁ…。お店を歩いて廻りながら思考を回す。

…今日の気分的に、イタリアン?みたいな、何かスパイシーなものを作りたいな。

…よし、じゃあ此処にしよう。

僕は、ピタッとそのお店の前で足を止め、中に入って行った。

中は結構広くて、此処一軒だけでもかなり品揃えが良さそうだ。

まずは材料、その後は調味料…、あ、大佐の家にスパイスとかもうあったりするのかな…。

あー、ちゃんと見て来れば良かったなぁ…。

…いや、コピー能力で何とかなりそう。

僕は目を瞑って、真剣を集中させた。


…、結構色々あるな…、もしかしたら大佐もそう言う料理が好きなのかも。


よし、調味料は大丈夫そうだ。でも、オリーブオイルがもう少しで切れそうだから、ついでに買って行こう。

えっと、まずはトマトでしょ、それから……、

—————————————————————————

僕は買った物を持って店を出た。

よし…!僕的にも結構満足したのが出来そうだ。

最初は何を作ろうか中々決まらなくて少し悩んだけど、結果的には考えが纏まって、頭の中でもどんなものが出来上がるのか想像出来ている。

大佐、喜んでくれるかな…、

僕は一気に大佐の家までテレポートした。


「今帰りましたー!」


玄関を上がりながら、大きな声で大佐に帰宅を知らせた。

なるべく靴が散らばらないようにそっと脱いで、そのまま材料の入った袋を腕にぶら下げたまま小走りでリビングのドアに入る。


「…あぁ、」


大佐が少し驚いた顔で僕を見ていた。

僕は、ふと時計に目をやった。

…六時二十分、くらいか。まぁ、もう作り始めちゃっていいよね。


「…なんか、やけに張り切っている、のか…?」


僕はキッチンの台の上に材料を置きながら、大佐の方を見て返事をする。


「え?んー…、まぁ、そうですね!

ちょっと張り切っちゃってるかもです、」


僕は、とにかく今は早く料理を作って、大佐に喜ぶ顔を見たい気持ちでいっぱいで、適当に返事を返してしまう。


「…大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫です!今から作りますから、ちょっと待ってて下さい!」


大佐は、また少し心配そうな顔になりながらテレビに向き直った。

…待ってて、きっと満足させてみせる。

僕は、少し緊張感を持ちながら、コンロにそれぞれフライパンと鍋をかけ、火を付けて温める。

そして、引き出しからまな板と包丁を取り出した。




鍋の蓋を開けて、湯気を立てる出来上がった料理をスプーンで少しすくい、味見をしてみる。

…よし、いい感じ!


「大佐!出来ましたよ!」


料理を作り終わった達成感と、やっと自分の料理を食べた大佐の感想が聞けるわくわく感に押され、結構大きな声で大佐を呼んだ。

大佐は返事をせずに、いつもの顔で、すぐに机の方まで歩いて来て、席に座った。

両手に持った皿を、まずは大佐の席に置いた。


「…中々いい匂いをしているな」

「っえへへ、頑張りました!

ありがとうございます」


もうその言葉だけで十分だと言えるほど僕は嬉しくて、笑みを堪え切れずにいながら自分の椅子の前にも皿を置いた。

そして、またキッチンに戻り、取り分けて食べるおかずが乗った皿と、取り分け用の二枚の皿を持ってを運んでいき、机の上に置いた。


「あっ、食器忘れてた!」


つい声に出して、慌ててまたキッチンに戻って行った。

食器を持って来ると、そっと大佐の前と、自分の席に置いた。そして、すぐ様自分も席に着く。


「頂きまーす」


軽く手を合わせてそう言うと、早速それをスプーンですくい、口に入れてみる。

…よし、いつも通りだ!

おかずも箸で取り分け、口に入れてみる。

…よし、よし!いつも通り!

ふと大佐の方を見てみると大佐は、ぼーっと僕の方を見つめていた。


「どうしたんですか大佐、早く食べてみて下さいよー!」

「…あ、あぁ」


大佐もそれをスプーンですくい、少し見つめた後、ゆっくりと口に入れた。

…どう?どうかな…?


「!…中々、美味いな」

「ほ、ホントですか?」


大佐はもう一回それをすくって口に入れた。


「…あぁ、結構美味い。いや、これは、

…かなり、美味いな…」

「本当ですか!

良かった…、ありがとうございます!」


僕は小さくガッツポーズをした。

続いて、大佐は箸でおかずをとって、口に入れた。

…大佐は何度か頷いた後、またそれを口に入れた。

…やった…!

何だか、言葉に表せられないぐらい嬉しい気持ちだ。


「…いつこんなに料理が出来るようになったんだ

…、しかし、本当に美味い

Majorにそんな特技があったとは…」


大佐は、僕の料理を相当気に入ってくれたようだった。

…物凄く嬉しい。

大佐に良いところを見せられた気がする。

…でも良かった、口に合ったみたいで…。

僕は食べるのをほったらかして、美味しそうに僕の料理を食べる大佐をニコニコしながら見つめた。


「…、何だ、」


大佐が、そんな僕に気付いて話しかけてくる。


「いーえ、何でもないですよー!

うふふ」


僕はニコニコしながら、大佐を見つめたまま返事をした。




「美味しかった。礼を言うぞ」

「いえいえ〜、いいんですよー!

お口に合ったみたいで良かったです、」


僕は自分の食器と大佐のものを流しまで持って行きながら、変わらない笑顔のままそう言った。

僕は今、大佐に自分の料理を美味しいと言ってもらえてかなり満足感に浸っていた。

今日はぐっすり眠れそうだ。表も心の中もずっとニコニコのまま、運び終わった食器を洗い始めようとすると、

大佐が横に来て、一緒に食器を手に取った。


「ん、どうしたんですか?」


大佐は、僕に顔を向けないまま食器を洗い始める。


「あんなに美味い晩飯を食わせてくれたんだ、食器洗いぐらい手伝わせてくれ」


大佐はそのまま黙々と食器を洗い続ける。

僕は少し感心しながら、一瞬大佐へきょとんとさせた表情を、また段々笑顔に戻していった。


「…えへへ、ありがとうございます。」


僕も食器に向き直って、改めて洗い始めた。

こういう仕事、別に僕だけが頑張るって言う風でもいいのになぁ…。

大佐は、何日も僕を全国を捜し回ってくれたんだもん。こんな僕じゃまだ感謝し切れないし、お礼もし切れない。

まぁでも、それでも大佐が手伝ってくれるなら、喜んで頼んじゃう。

なんて、色々考えながら、また微笑ましい気分になってしまう。

…すると突然、

横から、頬にキスされるのを感じた。

—————————————————————————

風呂を上がって、寝る準備も済ませた。

…はぁーっ、疲れたー…。

もう寝ちゃおー。

リビングに戻って、大佐におやすみを言いに行く。

…大佐もさっき寝る準備を済ませ、丁度電気を消そうとしていたところだった。


「大佐、僕ももう寝ます」

「そうか、部屋は分かるか?」

「あ、はい。多分分かります」


僕はリビングを出て、ベッドがある部屋を探しに行ってみる。

…順番にドアを開けて行くと、ベッドがある部屋を見つけた。

此処か、とりあえず大佐におやすみ言いに行こう。

リビングに戻ろうとして振り返ると、

…もう目の前にまで、既に大佐は来ていた。


「…すまない

寝室だが、一部屋しかないんだ。」


あ、…じゃあつまり、僕と大佐は同じベッドで寝なくちゃならない、ってこと…?

…まぁ、軍の時も一緒に寝たことはあったし、今更緊張はしないけれど…。


「あ、はい。全然大丈夫ですよ」


僕が部屋に入って行くと、大佐も続いて部屋に入って来た。

…でも、やっぱり少しだけ躊躇ってしまって、ベッドに座ったまま、布団に入れずにいた。

大佐は構わず、布団に入った。

…僕も、ゆっくりと布団の中に入った。

…、大佐、疲れてるのかな。…、

まぁ、いいか、おやすみぐらい言わなくても。

僕は、寝っ転がった大佐の背中を見つめながら、ゆっくりと目を瞑った。

……、


「…Major、」


目の前から声がしてはっ、と目を開ける。

…目の前には、寝っ転がったまま僕を見つめる大佐がいた。

僕は、少しびっくりして、頬を赤らめてしまう。


「…どうしたんですか?」


すると次の瞬間、

大佐は僕の口に口を重ねた。


「っ!」

「…、愛している。今日はありがとう

おやすみ」


そう言って、大佐はまた背を向けてしまった。

…、とても嬉しい気分になって、僕も返事をする。


「…大好きです。…、おやすみなさい。」

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