Colonel日記
うゆみ饂飩
第零話
————あれから長い年月が流れた。
多分、三、四年程だろう。
僕は今、近所にあるカフェで甘い飲み物を飲み、まったりしているところだ。
僕はそれをストローで啜りながら、携帯の画面を上へ少しずつ移動させていく。
…実は、基地を大佐が去って行ったあの日から大体一ヶ月が経った時、
全国的に、軍を立ち上げて戦争をすることを禁止されるような法律が立てられ、
Colonel軍も他の軍も、もうすっかり解散してしまった。
きっと皆んなも僕と同じように、それぞれの家庭で何気ない毎日を過ごしていることだろう。
…戦争がなくなって、僕達は無事Faithfulさんの気持ちを受け継ぐことは出来たが、
戦争が法律で禁止され、もう大佐と会う機会はあれっきりなくなってしまった。
…そして、今も大佐とは全く会えていない。
顔も姿も見ていなければ、声も聞いていない。
何処にいるのかも分からず、手紙すら届かなくて、
大佐の情報は、未だあの時机に置いてあった手紙のみだ。
…でも、大佐のことは今でも愛していて、大好きだ。あれから、一度も大佐への気持ちを変えたことはない。
誰かがどこかで死ぬと、それはニュースとなって、テレビで報道されたり、ネット内で流れたりする。
僕は毎日、何処で誰が亡くなったのか、それを見て確認することにしている。
…もしそこで大佐の消息を知ってしまったら、
僕はとてつもないショックを受け、同時にこれ以上生きる事をよしてしまうだろう。
でも、まだニュースでも、それ以外でも大佐の事らしき情報は何処にも流れていない。
大佐は、今も何処かで生きている。そして、僕は今でも大佐を捜し続けていた。
…大佐も僕のことを捜してくれていたりはしないだろうか…。
それすらも分からないまま、毎日ニュースを見てはほっとし、何も起きないまま日々は過ぎていくのだった。
僕は用を済ませた為、レジで会計をして、カフェを後にした。
ここのカフェは僕の行きつけで、良く自分の時間として訪れている。
…いつか大佐とこんな所へ来てみたいなぁ…、なんて思うものの、
今ではまだ、雲を掴むような話だった。
僕は道の端っこを歩き始め、またさっきのニュースの続きを読んだ。
…ゆっくりと画面を上へ動かしていくと、
『×××町の地下深くで、闇オークションの開催?』
『ドラゴンの目玉、×××町地下の闇オークションで10億円で落札』
最近話題になっている、隣町でのニュースが目に入った。
この闇オークションは、一部の人しか情報を入手出来ないらしく、一般の人などはほぼそこには辿り着けないらしい。
…時々、実際に生きたモンスターや人間も出されるのだとか。
正直内容を見ていると恐怖を感じてしまうが、
まぁ、どうせ関わることないだろうし、あまり僕には関係のないことだろう。
また画面を上へ動かし、次のニュースを見ようとすると、
「、っ!」
携帯を見ながら歩いていた為、僕と反対方向に歩いて行く人にぶつかってしまった。
・・・その人が、冷たい目つきで僕を見下ろす。
「っあ、す、すみません・・・。」
やっぱり歩き携帯はダメだな…、端っこ歩いてれば大丈夫とか思ってたけど、
やっぱりそうでもないみたい。
僕は軽く頭を下げながら、そのままその人の横を通り過ぎた。
…それにしても、本当に何もない日々だ。やる事がなさすぎて、どうしても暇に感じてしまう。
正直大佐を捜しに行きたいけど、僕にそれほどの事が出来るとは思わないし、勇気が出なかった。
…でも、このままだと本当に会えないまま人生が終わってしまいそうで怖かった。
僕はそのことを忘れようとして、気を紛らわすようなことを考える。
…さっきの人、大佐と身長が同じぐらいで、
少しだけ、ドキッとしてしまった。
でも、モンスターの種類も全然違ったし、顔も違った。
明らかに大佐ではないのは確かだけど、どうしてもまた大佐のことを考えてしまっていた。
曲がり角を曲がって、少し斜め下を歩きながら歩く。
…せめて、みんなと別れる時、連絡先だけでも交換しておけば良かったな。
そうしていれば、少しは僕も退屈せずに済んだかもしれないのに・・・。
今になって、大分昔の事を後悔した。
肩を落とし、ため息を吐きながら歩いていた、
その時、
「っ、うわっ!」
突然、何者かに路地裏へ勢い良く引っ張られ、何人かの男が目に入る。
叫ぼうとしたが、その前に口を押さえられて遮られてしまう。
必死に踠いて抵抗しようとするが、
次の瞬間、首筋から痛みが走り、その後一瞬で意識が遠のいていった…。
—————————————————————————
「…っ、」
何か眩しいものに照らされ、僕は目を覚まし、ゆっくりと目を開ける。
…、何……?
…身体に違和感を感じる。
「…!!」
僕は、足と腕を空中で縛られ、宙吊りにされ、身動きの取れない状態になっていた。
必死に解こうとしたけど、全くの無意味だった。
「今回の品はこちら!!一般人の美青年スケルトンです!!!」
その、マイクで話すような響く声に僕は驚き、咄嗟に顔を上げた。
…大勢の人達が、僕を輝くような目で見つめていた。
「ひっ…、な、何、これ……っ」
僕は背筋が凍り付き、つい声を漏らす。
「見ろよあの表情、最高だと思わないか?」「うちで雇わせようぜ、良く働いてくれそうな顔だ」「顔の整ったスケルトンだこと、是非うちに来て住まわせてやりたいですわ。」
観衆達が歓声を上げながら僕に全視線を向ける。
僕は恐ろしくなって、声も出なくなる。
「さぁ、いくらの値をつける!!??」
ま、まさか…っ、これって例の闇オークション…!?
な、何で、僕が…っ!?
「一千万だ!!」「いや、三千万!!」「四千五百万!!」
僕につけられる値がどんどん上がっていく。
…僕、物扱いされて…っっ、
もう一度必死に逃げようとしたが、やはり無駄だった。
っ、嫌だ、嫌だっ!!
誰かも分からない人のところで、そんな大金を付けられてまで住みたくない…っっ!!
いやな想像が次々と脳裏をよぎり、僕の精神を削り取っていく。
本当に最悪だ、どうか…、どうか夢だと言って欲しい…!!
そう僕が思っている中でも、値はどんどん上げられていく。
「六千八百万だ。」「七千九百万!」「九千万!!」
もう一億にまで達して…、
せめて、せめてそんな大金を僕に付けな————
「一億五千万だ」
何者かによるその発言で、観衆は一瞬静かになった後、再び騒めいた。
…い、一億五千万だなんて…っっ。
や、やめて…そんな、そんな大金で、僕は…っっ!!
身体が震え、涙が溢れそうになる。
僕は…、僕はこれからどうなってしまうんだろう…。
精神的苦痛に耐え切れなくなって、思いっ切り目を瞑った。
「二億だ」
「っ!!」
僕は閉じていた目を見開いた。観衆がさっきより騒めく。
…もう、何も言えなかった。観衆も、もうこれ以上値は上げられないのか、段々静まり返っていく。
…ついさっき、二億まで値を上げた人が、その席を立った。
「…金ならいくらでもある」
静まり返った中、その声が響いた。
…僕は頭が真っ白になった中、
その声にはっ、とした。
…、
どこかで、
聞いた事がある声な気がした。
「…二億、二億以上の方はいらっしゃいませんか?」
司会者の声が会場内に声が響く。
…会場内は静まり返った。
……、
「……に、二億一千万っ」
更に値が上げられる。
…が、
「…五億」
席を立ったまま、その人は堂々と答える。
観衆達は、もう騒めきもせず、ただただ静まり返っていた。
「…そうして無理に粘るまでして手に入れたいものか?
……そもそも、一つの物や生き物に、本当にそれ程の価値を付ける意味があるのだろうか
そこまで、手に入れたいと思うものなのか?
…それとも、場を盛り上げたいだけか?」
席を立った人が、僕がいる壇上の方へとゆっくり歩きながら話す。
…その人にも、僕を照らしているスポットライトの端が当たり、
黒いローブを被った、高身長の人の輪郭が浮かび上がった。
「っ、席にお戻り下さ———」
「私の疑問に、答えることすら出来ないか?」
その人は、司会者の注意を遮るようにして言葉を挟んだ。
……どう言う、つもりなんだろう。
「……さっさと降りろよ!!!」
観客の中の一人が、その人に向かって怒鳴った。
「っ、そうだそうだ!!」「オークションにケチつける奴なんて参加する資格ねぇだろ!!」「分からず屋は引っ込んでなさいよ!!」
続いて、その人に観衆から批判が沢山飛んだ。
…でも、言ってる事はこの人の方が正しい、気がする。このオークション自体が、あまり良くないことのような気がする…。
…、でも、もしかしたら闇オークションの関係者達が低烈なだけ、かもしれない。
批判で騒めいた会場を、その人は手を上げ、黙るよう合図する。
…さっきと変わらず、堂々としていた。
「…はっきり言わせてもらう
私は別にオークションに参加して品を落札したかった訳じゃない
…こんなふざけたこと、私は参加したいとは思わん」
また批判が飛びまくり、会場内が再び騒ついた。
…それでもなお、その人は微動だにしなかった。
…、相変わらず、まだ顔はローブのフードで隠れて見えていなかった。
何故、この人はこんなに…?
…、司会者が声のトーンを下げ、マイクに向かって再び喋った。
「…当オークションを冷評することは、ルールに反しています。
連れて行け」
その人の周りに、黒スーツを着た男達がテレポートし、一斉に囲んだ。
「殺しちまえ!!」「そんな奴死ねばいいのよ!!」「殺せ殺せ!!」
観衆の民度が悪すぎて、僕も反論したい気持ちになってしまう。
…何で、正しい者は毎回恵まれないのだろうか…。
僕は不思議で不思議で仕方なかった。
その人は、呆れたように大きく溜め息を吐いた。
「…たく、これだから悪党どもは聞く耳を持たない
…何度も言わせるな。元々私はオークションに参加し、大金を注ぎ込んで、品を落札したかった訳じゃない」
男達がその人を捕らえようとする。
…っ、やめてよ—————
「奪い返しに来たのだ」
次の瞬間、その人は僕の手足を繋いでいる鎖を目に見えぬ速さで斬り落とし、僕を抱えた。
急な展開に、僕は僅かな声を漏らす。
「…元々私のものだ。」
風でフードがなびき、その中から一瞬顔が見えた。
…その顔を見て、
僕は、感情が溢れて目を見開いた。
「捕えろッ!!」
男達が僕ごとその人を捕らえようとする。
その人は僕を抱えたままそれを華麗に避け、カウンターを取った。
観衆からの騒めきが増す。
その人へは次から次へと攻撃が仕掛けられる。
が、再び余裕のある動きで避け、僕をしっかりと抱えたまま、男達に足で蹴りを入れていった。
……何だか、
酷く、安心する温もりで、
まるで僕を抱え慣れているかのような手つきに感じられた。
「今からここを出る。しっかり捕まっていろ」
その人が僕に話しかけ、僕は言うことに従い、その人の服にしがみついた。
その人は一気に会場外へテレポートし、そのまま跳躍能力を使いながら逃げて行こうとする。
が、後から残った男達が逃すまいと前に回り込んで来た。
「…しつこい奴らだ」
その人は低くて冷淡な声でそう呟くと、また華麗に避け、目に見えない速さで、まとめて全員地面に蹴り落とした。
……、なんか、
覚えてる、気がする。
こんなようなこと、前にもあったような…、
そのまま何処かの路地裏へテレポートし、
もう敵が追って来ていないことをしっかり確認した後、
その人はすぐに僕の手足に付いている金属の輪を取ってくれた。
…そして、その人は見せるようにして被っていたフードを取り、
僕を見つめた。
「…!!」
ローブの下に隠れていたのは、
「…、
Major、」
…大佐だった。
あの時から、少し顔立ちの良くなった気がする。
僕は、思わず大佐の胸に飛び込んだ。
…大佐が僕をゆっくりと、優しく抱いた。
「…やっと会えた」
耳元で大佐の声が響く。
…懐かしい。
本当に、懐かしい声だ。
そして、
ずっとずっと、聞けることを待っていた声だった。
僕も何か言おうとしたけど、その前に涙が止まらなくなってしまった。
…三、四年振りだ。
…細かく言えば、ほぼ五年も経っていたかもしれない。
ここまで、本当に長く感じた。
でも、
今まで待ち続けて、本当に良かった。
大佐の胸に顔を押し付け、声を漏らしながら泣いた。
大佐が僕を離し、顔を正面へ向かせる。
「…何も変わっていない
あの時の顔、性格、声、
…全て、
私が愛す、Majorのままだ」
大佐は、優しく微笑みながら僕にそう言った。
ただただ、喜びと幸せで身体が満たされていくのを感じた。
そして、大佐に昔以来の満面の笑みを見せた。
「…はい、大佐っ」
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