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「これは……想像の五倍は悲惨ね」
美里は航の部屋を見てため息をつく。
部屋は足の踏み場もないほど物が散らかっていた。無数の段ボールに、散らかった衣類、学校や塾から配られたであろうテキストや大量のプリント。
どうしてこうなるのかと疑問符が浮かぶ。
片付けをしていたとは到底思えないし、そもそもこんなにも物が溢れる前にその都度不要なものは捨てていけばいいだけの話なのだ。
「だろ?」
「何得意げな顔してるのよ」
「いや、別に……」
「これ、本当に昨日片付けしてたの?」
「最初は順調だったんだけど……。片付けるうちに懐かしいものに目がいっちゃって。つい色々と掘り起こしてたら、こんな有様に」
「航は子供のままね」
「もう十八歳、立派な大人だよ」
「見た目は大人、中身は子供の迷探偵、みたいな?」
「なんだそれ」
気づけば二人の身長は逆転していた。ちょうど航の肩の位置に美里の頭がくる。美里がよくしていた身長いじりはもうすることができない。少しの寂しさと囂々とした苛立ちがある。
「それで、どうしよっか。まずはいる物といらない物の分別作業だよね。私は判断できないから、大まかにどれが必要か教えて」
「いやー、どれも捨てがたいんだよなー」
「そんなこと言ってるからいつまで経っても終わらないんでしょ? ほら、そこに散らばってるプリントなんて絶対にいらないでしょ」
「いやでもあれは俺が英語で初めていい点とったやつで」
「つまりゴミってことね」
美里は容赦なくプリントをゴミ袋に入れる。
「あっ、ちょ……。まぁ仕方ないか……」
航は美里に従う。決心がついたのか、航も次々に不要なものをゴミ袋に入れていった。
ゴミ袋が四袋埋まったところで、美里は新しく段ボールを開けた。必要なものだけを取り出して一つにまとめたほうがいい。
中にはいくつかおもちゃが入っていた。一見しただけでもだいぶ年季が入っていることがわかる。そんな中でも一つ、目につくものがあった。
卓上カレンダーだった。
「航、これって」
わざわざ卓上カレンダーについて聞く必要はない。ただ、『三月二十七日』に赤い丸印がついたこの卓上カレンダーには見覚えがあった。
「ああそれ、わかんないんだよな。他のものは覚えてるんだけど、それだけ思い出せなくって。それ十年前のやつだし」
「そう……」
美里ははっきりとこのカレンダーを覚えていた。
これは美里が航に渡したものだった。
「あのさ、航」
「ん?」
「来週にはもう東京行くんだっけ」
「そうだけど、どうして?」
「私さ、このカレンダーのこと知ってるんだよね」
「え、そうなの?」
「だから、東京に行っちゃう前に、このカレンダーのこと思い出させてあげようかなと思って」
いい誘い文句だと自分で思った。
元々、美里は航を誘う予定だったのだ。
「一緒に、スカイランタン見に行こうよ」
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