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 美里は航のことが好きだった。

 きっかけはよく覚えていない。いつの間にか自然と航を目で追うようになっていた。特別かっこいいとも思わないし、一緒にいて心がときめくかと言うとそういう訳でもない。

 ちょっぴり間抜けだし、ものすごく頼りないし、怖がりで臆病。好きな理由を五つ挙げろと言われたら、三つ目を答える最中で制限時間の三十秒がきて頭の上の爆弾が爆発する。

 それでも航が好きだった。

 好きな理由なんていらない。これは紛れもない恋なのだから。


『大きくなっても、美里と遊びたいかな』


 美里は航の家に行く道中、ふと十年前のことを思い出した。

 十年前、航とスカイランタンを見に行った日。あの時言われた言葉を今でも覚えている。まだ八歳だった航はランタンに何をお願いするか聞かれ、何気なく言ったのかもしれないけれど、美里にとってそれはすごく嬉しい言葉だった。

 ────この先、果たしてそれは実現するのだろうか。

 お互いが別々の道に進んでいく。航は大学に進み、美里は家業を手伝う。航は東京に行き、美里は地元に残る。進む道も、住む環境も全く異なる。

 そんな状況でまた二人で同じ時間を過ごすことができるのだろうか。

 航が地元に帰ってきたとき、都会に染まって今とは全くの別人になってはいないだろうか。

 二人の思い出が、別の誰かと過ごすことで上塗りされたりしないだろうか。

 可愛い彼女ができて、自分のことなんて忘れてしまわないだろうか。

 考えたって無駄だし、ただの幼馴染である自分にそんなことを考える資格なんてないとわかっている。全部わかっている。

 それでも、考えずにはいられなかった。

 美里は、航のことが好きだった。

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