第18話この終幕は序章に過ぎない

エリナの回避能力の仕掛けが解ってもそれだけでは彼女を倒す事は出来ない

攻撃は尽くが空を切り、返す掌低でダメージを逐う、どうやら相手は気を用いた武術の使い手のようだ

(拳による殴打ではなく気を籠めた掌低、恐らくは合気と柔術の複合ね)

こちらの攻撃を受け流し逸らしてからのカウンターや連続回避からの隙を狙った掌低で体内に気を撃ち込み内臓等にダメージを与える、人間や動物には効果的であるしかし・・・

「我等は皆が臓腑ぞうふ無き精神の生命体、内臓を持たぬ我々に内臓系統への攻撃は効かない」

否、それは相手も同じ肉体、効かないと知っている筈の攻撃を何故繰り返すのか?

(何か狙いがあるのか、はたまた習った流派故の攻撃の癖なのか?)

戦い方を見れば合気を用いた流派であるが故にその手の攻撃が主体のように思える

しかし仮にも夢見ヶ丘を研究し挑む為の準備をして来た者がこちらに効果的でない技術を何故に用いるのか?

「これは如何ですか」

その答え、突如飛び出す拳を硬めた剛拳の一撃、背中の鍵爪アラクノクローを弾き飛ばし胸を打ち抜く攻撃を双刀を交差クロスさしてギリギリ防ぐ

「成る程、柔術を主体に戦っていたのは不意を突いての剛拳を飛ばす為の布石だったのね?」

柔術に慣れた相手に唐突に剛の拳を交えながらの攻撃、しかも多腕から繰り出される攻撃は予想が困難である

「腕が二本しかない人間には出来ない芸当ね」

こちらも背中の鍵爪アラクノクローと両の腕を入れれば十本の腕がある、しかしエリナの腕の数はこちらを大きく上回る

どんな達人も二本の腕しかない為一度に複数の技を同時に繰り出す事は出来ない、しかし達人に数十の腕が在ればどうだろうか?

全くの同時に複数の技を繰り出せる、柔術も剛術も、本来二の腕で生涯を掛けて覚える拳を同時に極め使用出来る、無論ソレ等を極めるには並々ならぬ努力と時間を必要とするが・・・

眼前の相手は人外、努力に要する時間は無限にある、その多腕という身体的特徴をフルに活かす技術を身に付ける為に己の長い生涯を武を極めどこまでも高める為に費やした、それが現在の彼女の強さに繋がっているのだ

お互い一進一退の攻防が続く、無限とも思える激闘はしかし唐突に終わりを迎える、エリナがその構えを解いたのである

「一体どういうつもり?」

「わたくしの役割は殿しんがり、つまりは部隊の撤退までの時間を稼ぐ事ですわ」

だからといって見逃すと思っているのだろうか?それともこの状況から撤退する術を持っているから殿しんがりを買って出たのか?

転移門ゲート

答えは後者、それは今の時代の魔術師キャスターでは使用する事の出来ぬ筈の当の昔に失われた魔法に匹敵する最上階悌の魔術である

「逃げられたか・・・」

だがこの戦争はこちらの勝ちだ、それは揺るがない、しかし・・・

「余り撤退の判断が早い、まるで最初から敗北するのが分かっていたみたいに・・・」

色々と思う事はあるが一先ずこの浦安みつりん地帯では自分達の軍勢が勝利した

しかし未だに東京での戦いは続いている、今度はそちらに行かねばならない

「この戦争はまだ終わってはいないと言う事かしら」

こうして浦安みつりん地帯を巡る戦争には勝利した、しかしこれは局地的な勝利に他ならない、敵の本軍は東京で未だに本校と戦っているのだ

一つの戦場の幕が降り、次なる戦場へと新たに主戦場は移る、果たして東京ではどのような戦争が待ち受けているのか?

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