第10話修練と憂鬱

疾風はやて弓道アーチャー趣味ぞくせいを持った生徒せんしである、基本的に怪人としての高い身体能力を駆使して戦う事を己の誇りとする夢学生徒達は飛び道具の使用を暗黙の内に避ける傾向にある

そんな夢見ヶ丘にあって弓兵は卑怯者の謗りを受けることもままある、しかし己の殉じる趣味ぞくせいの為に敢えてはぐれ者となる覚悟を決めた彼女の思いは強い

そんな彼女は今日も今日とて鍛練に余念がなくその全身には師と同じように身体の各所に数多の修練による傷痕がついていた

自身に科した通販で送り届けられる荷物を透明な箱に梱包して他人づたいに渡されるという、己の性癖を多くの者にさらけ出すその過酷な修練の只中に彼女はいた

多くの生徒せんしが極めようと手を出し遂ぞ果たせなかった苛烈窮まるこの修練を修める為に精神的ダメージを負いながらも彼女はなんとか耐えていた

しかし彼女には目下その修練よりも五体を苛む責め苦があった

同胞から透けた荷物を受け取りダメージを受けた身体を引きずる彼女の元に今日何度目かになる着信音が鳴る

ギクリとして震える手で己の携帯電話を取り出すと、そこには多数のメールが届いていた

廊下を一歩歩く度に届いている、そのような幻覚さえ抱かせる量とスピードで届くのは自らの師より届くスパムメールの頻度さえ上回る修練デスメールである

内容は直視するのも恥ずかしい身に覚えのない師と己の百合妄想ガールズフィクションの数々、しかも全て文面の違う長文メールに畏れ戦かざる得ない

大事な師からのメールで流し見は出来ないしましてや上級生からのメールを着信拒否にする等持っての他、まごう事なきパワーハラスメントのようなモノなのだかこれも師の与える試練と生真面目ストイックな彼女は窮めて前向きに解釈する他なかった

苛烈極まる試練の只中にその身を置く彼女は悪夢を振り払うことが出来ずにいた

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