第55話 まだ午前中

「ハジメさーん!」

 死神しにがみちゃんが飛び跳ね、ツインテールが何度も揺れた。

「よし。じゃ、帰ろうか」

 ハジメは、言葉少なに伝えた。

 ナオキは、まだ車に乗っていない。駐車場ちゅうしゃじょうに立っている。

「お、おう」

「目的は達成できず、といったところね」

 長い髪をかき上げたマツの言葉に、ハジメは反応する元気もなかった。ため息を吐き出す。

「ハジメ。見てたよ」

 妹のフタバはにやにやしていた。

「フタバ。なんで、こんなところにいるんだよ」

「暇だから来ただけだよ。家近いし。偶然、偶然」

 フフフと笑うフタバ。

「本当かよ」

 ハジメは疑っていた。だが、そうしていてもなんにもならない。車に乗り込むことにする。

 殺気さっきは出ていなかった。

 ナオキが運転席に。助手席にはハジメ。ナオキのうしろの後部座席には、マツが。ハジメのうしろの後部座席には死神しにがみちゃんが座った。来たときと同じ席だ。

 シートベルトをつけることを忘れない。ちなみに、いくら死神しにがみちゃんの背が低いといっても、チャイルドシートではない。

「まだ午前中だから、一緒にどこかへ行ってもよかったのに」

 マツの言葉に、フタバが答える。

「ううん。いいの。それじゃ、またねー」

「ちゃんと歯、磨けよ」

「いちいち言わなくてもわかってるよ。子供じゃないんだから」

 歩いて帰るというフタバを残し、自動車じどうしゃはゆっくりと駐車場ちゅうしゃじょうから出ていく。

 それを、フタバは見つめていた。


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