第54話 戦いの終わり

 こぶしをおろしたノボル。一言だけつぶやく。

「参りました」

「え?」

 こうして、ハジメの戦いは終わった。真の目的を達成できぬまま。

「すごい! ハジメさーん!」

「あらら。やっちゃったわね」

 いつものように、死神しにがみちゃんとマツは対照的な反応を見せた。

「やるじゃん。ハジメ」

「まさか。こんなことが」

 フタバは、こうなることが最初から分かっているかのように落ち着いていた。水分補給を忘れない。

 もちろんナオキは、驚き戸惑っている。

 大会主催者からあいさつ。そのあいだにグローブとプロテクターが外された。そして、ハジメに優勝賞金の授与がおこなわれた。

「どうぞ。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 形式上、そう言うしかないハジメ。地味な服で、一般人にしか見えない。ここから見始めた人には何がなんだかわからないことだろう。

 インタビューもほどほどに、勝利者は控室ひかえしつへと歩いていった。


 控室ひかえしつ

「やるじゃないか。宝田たからださん」

「何もやってないですよ」

 ハジメは、本心を述べていた。相手は、最初に降参したホウサク。みんな、最初会ったときとは態度がまるで違っていた。

 次に話しかけてきたのは、アツシ。

わたしにも、強さの秘密を教えてくれよ」

「ぼくは強くないですよ。秘密もないです」

 やはり、ハジメはウソをついていない。荷物の中に賞金を無造作に詰め込んだ。

 さらに、モミジが話しかける。

「どうにか三位になれたわ」

「すごいですよ。自慢していいです」

「ふっ。よく言うな」

 鼻で笑われたハジメ。よくあることなので、まったく気にしていない。

「それではみなさん。さようなら」

 ハジメは、格闘家の連中とはもう会うこともないだろうと思っていた。


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