第53話 最後の応援

 決勝戦けっしょうせん

 竹山たけやまノボル対宝田たいたからだハジメ。

 もはや何も言わないハジメ。殴られる気満々である。その表情はすがすがしささえ感じる。

「ハジメさん。楽しそう」

「そうかしら」

 マツは、何かを察しているようだ。右のこめかみに人差し指を当て、右目をすこし細めていた。

「……」

 そんなマツを、何も言わずに見つめるフタバ。気づかれて、慌てて舞台ぶたいのほうを向いた。

「よし。最後も応援しましょう」

 ナオキの言葉で、応援が始まった。

 グローブとプロテクターをつけた二人の男が、舞台ぶたいの中心付近へと歩いていく。

 ノボルには、ハジメがニヤリと笑ったように見えた。

 こいつ、まさか。まだ奥の手を隠しているのでは。と思ったようだ。

「がんばってー!」

「それしか言えないの? 青井あおいユイ」

 死神しにがみちゃんのワンパターンな応援に、マツは飽き飽きしている様子。

 ハジメは構えなかった。両腕をだらんとぶら下げ、大きく息を吐き出した。

「いくぞ! 覚悟!」

 ノボルが気合きあいを入れた。隙だらけの相手に近づいていく。

 額と頬には汗がにじんでいた。先に手を出したらやられる。わかっていても、男には引けないときがある。

「ハジメ! 動け!」

「ハジメー!」

 地味な服のフタバと、きっちりしていない服装のナオキが叫んだ。

 ハジメの表情が変わる。

「うるさいな」

 同時に、一瞬だけ殺気さっきがもれ出した。

 ノボルのこぶしは、寸前で止まった。


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