第51話 恐怖

 準決勝第二試合じゅんけっしょうだいにしあい

 月山つきやまモミジ対宝田たいたからだハジメ。

 グローブとプロテクターをつけられる二人。もちろん、女性用と男性用で違う。

「げっ」

「ど、どうかしたの?」

 ハジメの奇声に、モミジが反応した。あきらかに出してはいけないような声だった。

「いや。なんでもない」

「……」

 観客席、マツの隣に妹を発見したハジメ。表情が暗くなる。

 そんなことをよしもないモミジは、対戦相手の変化に恐れを抱いていた。

「なんで。なんでなんだ」

「お、落ち着きましょう。ね?」

「ぼくはいつでも冷静だ」

 ハジメは、対戦相手を厳しい目つきでにらみつけた。

「がんばってー!」

「勝ちなさいよ」

「頑張れー」

「負けるな! ハジメ!」

 フタバの声をはっきりと確認して、ハジメの眉が下がる。


「早く終わらせましょう」

「え、ええ」

 モミジは怖がっていた。控室ひかえしつまで届いた殺気さっきに対して。対戦相手から聞いていたのだ。そのときの身体からだの芯が凍てつくような感覚を。

 この男はただものではないと思っている。

「ほら、仕掛けてきてくださいよ」

「えっ」

 モミジは恐怖した。相手には、まったく殺気さっきがない。

 ギリギリまで引きつけてから一瞬で終わらせるつもりではないか、と、思っていた。

「参りました」

「は?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る