第50話 宝田フタバ

 ハジメからの殺気さっきを受けて、死神しにがみちゃんは悶えていた。

「反省してます!」

 大声で叫んだ。ハジメに届いたのかは、わからなかった。

師匠ししょうって、勝負しょうぶの、ですか?」

「そ、そうよ。青井あおいユイったら、もう」

 マツは慌てていた。長い髪を振り乱さんばかりの勢いだ。

「思っていたのとは違いましたが、次の試合しあいも見ましょう」

 ナオキは冷静だ。きっちりとした服装ではないというのに。建物内に冷房が入っているため、あたりに半袖の人はすくない。

「ひょっとして、宝田たからだハジメの友人の方たちですか?」

 ショートボブで普通の体形。地味な服装の少女が話しかけてきた。

「はい。そうですけど。あなたは。はっ。まさか、ハジメの彼女?」

「違いますよ。兄がいつもお世話になっています」


 準決勝第一試合じゅんけっしょうだいいちしあい

 竹山たけやまノボル対梅沢たいうめざわアツシ。

 そんなことはどうでもよかった。さんにんは、ハジメの妹に夢中だ。

「お名前は?」

「私は、宝田たからだフタバです。よろしくお願いします」

 マツの西側に座ったフタバ。質問が集中する。

「どんなおにいさんなんですか?」

「やだなぁ。そんな堅苦しい話しかたじゃなくていいですよ」

「どんな――」

「やさしいですよ」

 死神ちゃんは、口を強く閉じて眉を下げていた。

「それにしても、なんでアタシたちが宝田たからだハジメの友人だと分かったの?」

師匠ししょうって呼ぶ人がいるって、言ってましたからね」

「なるほど」

 ナオキは納得した。メガネの位置を直す。

「それにしても、偶然だわね」

「そうですね。偶然です」

 フタバは、満面まんめんみを浮かべた。

 そして、勝者は竹山たけやまノボルになった。


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