第45話 ファイターネーム

 観客に対する選手せんしゅの紹介はなかった。

 具体的には、全員を集めて舞台ぶたいに立たせ、名前を読みあるという行為がなかった。時間の短縮が狙いらしい。

 第一試合はすぐおこなわれるため、選手せんしゅの二人が控室ひかえしつを出ていく。

 体格のいい二人がにらみ合う。

「勝つのはこのおれ竹山たけやまノボルだ!」

「寝言は寝てから言うんだな。俺様おれさま大川おおかわヒデノリに決まっているだろう」

 火花を散らしながら舞台ぶたいへと向かう二人。ハジメは知らないが、どちらも実力者である。戦えばあっというまにノックアウトされるだろう。

 ガタイのいい男が、不満げな感情を隠さない。

「おい。なんであいつらファイターネームじゃねぇんだよ」

 説明しよう。ファイターネームとは。いわゆる偽名である。戦う者は、本名を名乗らない場合があるのだ。

「そういうあなたは、なんなの?」

「俺か? 俺は、ザ・レッド! 相手が女性だからって手加減はしないぜ!」

「へぇー」

 女性は興味がなさそうにこたえた。身長は平均より高く、筋肉も発達している。二人は、お互いの顔を見つめていた。

「大変そうだな」

 ハジメは他人事ひとごとだった。


「あ。誰か出てきましたよ」

宝田たからだハジメは……いないようね」

 死神しにがみちゃんが東側に、マツがその隣、西側に座っている。ツインテールもロングヘアも、ほかの観客には当たっていない。遅い時間にやってきたため、席のうしろあたりにいた。

「ハジメ。早く出てきてくれ」

 死神しにがみちゃんのさらに東側、隣に座っているナオキは、心ここにあらずといった様子。隣に座れた嬉しさをあまり感じさせない。


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